近年、「VR・AR」という言葉を耳にする機会が増えたと思います。ここ数年で急激な発展を遂げ、ゲームや動画コンテンツなど、エンターテイメントの分野においてVR・AR技術は遺憾なく発揮されています。ですが、期待されているのはそれらだけではありません。この技術は企業から個人に至るまで、社会をより良いものにするために、無視できないテクノロジーとなっています。
今回は、この技術がどのように発展し、今後どのような期待がされているかを紹介したいと思います。
VR・ARとは
この数年で、各企業が盛んに開発を続けるVR・AR技術。その注目度は、10年前では考えられないほどです。では、そもそもこのVRとARとはどのような技術なのか、見ていきましょう。
VR
VRとは「Virtual Reality」の略称で、日本語では「仮想現実」と呼ばれています。コンピュータで作成された空間の中で、仮想的に起こる体験を知覚させる技術です。現時点ではヘッドマウントディスプレイで映像と音声を知覚するだけですが、行く行くは五感すべてで知覚できるようになるといわれています。
今はゲームやアトラクションなどが中心ですが、擬似的に経験を蓄積できるので、教育や訓練といった運用もすでに始まっています。
AR
ARとは「Augmented Reality」の略称で、日本語では「拡張現実」と呼ばれています。人が認識している現実空間上に情報を付加、もしくは削除する技術です。VRの場合、空間から物体まですべて人工物で構築しますが、ARでは現実空間に人工物を表示(あるいは設置)します。
具体的な例として、「ポケモンGO」が挙げられます。そこにいないはずのポケモンが、スマートフォン越しに見ると、目視で確認できるようになります。他にも、ドラゴンボールに出てくる「スカウター」。相手の戦闘力を測る装置ですが、これもある意味ARに分類できます。
VRの歴史
VRの概念は古くから存在し、以降長い時間をかけてその発展は進められてきました。ここでは、その歴史を紹介していきます。
1935年
SF作家のスタンリィ・G・ワインボウムの短編小説「Pygmalion’s Spectacles」(ピグマリオン劇場)で顔に装着するVR装置が登場します。視覚、聴覚、嗅覚、触覚を知覚できるシステムで、この作品よりVRの概念の着想が生まれたといわれています。
1957年
映像技師であるモートン・ハリングが、VRの先駆けである「Sensorama」を開発します。これは3D映像、アロマの香り、イスの振動、送風、ステレオサラウンドを搭載したVR装置でした。ニューヨークをバイクで走っている状況を再現しており、走る感覚だけではなく、周囲の環境音や臭いまで再現していました。その後、モートンは1960年に現在のヘッドマウントディスプレイの形状に良く似た「Telesphere Mask」を開発します。3D映像を視聴できる機械で、厳密にはVRではありませんが、初めてのヘッドマウントディスプレイといわれています。
モートン・ハリング開発のSesorama(Wikipediaより)
1968年
アイバン・サザランドによってヘッドマウントディスプレイシステム「The Sword of Damocles」(ダモクレスの剣)が開発され、これが現在のヘッドマウント型VR機器の原型といわれています。この機器は重く天井に固定しないと使えない代物で、その見た目から故事の「ダモクレスの剣」より名付けられたとされています。
1978年
MITが「Aspen Movie Map」を開発します。コロラド州アスペンの街を散策できるというコンテンツで、Googleのストリートビューの前身といわれています。通りを撮影した映像と地図を連動させ、ビデオ映像を操作し、アスペンの街を探索できる先進的なシステムでした。
1989年
VPLリサーチよりVR製品の「Data Glove」と「Eye Phone」が発表されます。Eye Phoneはヘッドマウントディスプレイで、利用者の頭の動きを追跡する機能があり、Data GloveはVRで物体を掴み操作できる、コントローラーの役割を担っていました。この発表に際、ジャロン・ラニアーにより「VR」という言葉が使用され、一般に浸透していきます。
Data GloveとEye Phone(MoguraVRより)
1990年代
この時期、エンターテイメント分野において、VR製品の開発が盛んに行われていきます。イギリスの「Virtuality」(1991年)から始まり、ジョイポリスのアトラクション「VR-1」(1994年)、任天堂のゲーム機「バーチャルボーイ」(1995年)、PCゲーム「VFX1」(1995年)と立て続けに世に出てきましたが、その結果は芳しいものではありませんでした。
その要因として
- 技術的問題
- バーチャル中毒
がありました。当時の技術水準では、性能的に不十分な点が多く、形にしても普及することがありませんでした。その上、「バーチャル中毒」というVRに対する依存性を危惧する考えも広がり、風当たりは強まる一方でした。
SEGAは1993年に「Sega VR」の開発を発表し、VR実用化の期待が高まっていきました。しかし、健康への悪影響を懸念して、販売を断念しています。同時期にソニーもヘッドマウントディスプレイの開発をしていましたが、最終的には販売を見送っています。
2012年
パルマー・ラッキーが手掛ける「Oculus Rift」がクラウドファウンディングに登場します。300ドル以上の出資者に対して、報奨品としてOculus Riftを提供しました。この出来事を契機に、VRに対する関心が高まってきます。その後、2014年にOculusはFacebookに買収されました。このときマーク・ザッカーバーグはVRを「最高のソーシャルプラットフォーム」と発言しています。
Rift DK1を装着したパルマー・ラッキー(Wikipediaより)
2016年
「VR元年」といわれるこの年にVR技術の開発、製品の販売が積極的に行われ始めます。Valveから「HTC Vive」、ソニーから「Play Station VR」が発売。マイクロソフトからも「Holo Lens」の国内予約が開始されています。ポケモンGOの国内配信もこの年から始まりました。
VR・ARがもたらすもの
長い歴史のあるVR技術は、今後に大きな期待が寄せられています。IT専門調査会社のIDCはVR・AR市場が2018年に89.0億ドルで、2023年には1606.5億ドルになると予想しており、年間平均成長率は78.3%になると見込んでいます。エンターテイメント分野のみに偏らず、企業でも積極的に投資が加速すると予想しています。では、VR・ARがどのような役割を果たし、どのように導入できるか、紹介していきましょう。
企業にもたらされるもの(NECソリューションイノベータ参照)
【研修・訓練・教育】
VR空間はコンピュータにより自由に構築可能で、現場の状況を細かく再現することができます。これにより可能になるのが、人材育成です。今まで、現場に赴きゼロから着手しなければならなかったことが、事前に基本的な技術と知識を習得して現場に赴くことができます。
具体的には、
- 危険性に認識と安全性の確保
- 技術と知識の予習
- 危険発生時の対処訓練
- 組織内での情報共有
などが挙げられます。
当然、これで完璧というわけではありません。ですが、事前の準備を行い作業に当たれるので、事故防止などに役立つと期待されています。
【支援・バックアップ】
こちらは主にARがメインになりますが、期待されるのがサポート業務です。熟練者が未熟練者のフォローが可能で、不明な点を質問したり、作業内容の指示を出すなどの支援の行い、作業品質の向上を目指しています。
具体的には、作業者はスマートグラス(メガネ型の通信端末)をつけ、支援者はスマートグラスで捉えた映像や情報から判断して指示を出します。指示内容はスマートグラスに表示され、作業者はその内容に沿って作業を行います。
一般向けにもたらされるもの
ポケモンGO
冒頭でも紹介しましたが、AR技術とGPS機能を利用したゲームアプリです。配信時は社会現象にもなりました。スマートフォン一台でできるので、現状ではもっとも手軽にできるAR体験といえます。
Google Earth VR
Google EarthのVR版で、世界中のあらゆる場所がVRで表示されます。ちょっとした擬似的に世界旅行をした気分になれるかもしれません。
VR観戦
ソフトバンクで5Gの実証実験として、マルチアングルでのVR観戦を行いました。このときは現地の球場での観戦ですが、ネットワーク上で配信が始まれば、自宅で観戦できる日も来るかもしれません。
Facebook Horizon
Facebookが提供を始める予定のソーシャルVRサービスです。2020年初頭にベータテストを実施、その後に正式サービスを開始予定しています。仮想空間の中で交流したり、ゲームで遊ぶことができるようです。
まとめ
VR・ARは長い歴史の中で、改良と発展を繰り返してきました。現代になり、ようやくその技術が花開き始めたのも、テクノロジーの進歩の賜物といえるでしょう。とはいえ、まだまだ発展途中の技術であることに変わりありません。
例えばVR・ARを発展させた先には「MR」(Mixed Reality)、日本語では「拡張現実」と呼ばれるものあります。VRとARを統合したこの技術は、すでにNASAの宇宙飛行士の訓練に使われているそうです。ですが、MRの具体的な利用法は、VR・ARを発展させた程度のものになっています。
今後、VR・ARがもっと普及すれば、新たな展望も見えてくるかもしれません。これからに期待しましょう。