量子コンピュータと聞くと、SFのようなものをイメージするでしょう。ですが、これは決してフィクションではなく、現実の話なのです。
Googleが先日、量子コンピュータについての論文を発表しました。そこには従来のコンピュータを超える性能を発揮した、「量子超越性」について報告されています。
しかし、量子コンピュータといわれても、よくわからないのが現実でしょう。かくいう筆者自身も謎ばかりでした。今回は、Googleが何を作ったのか、量子コンピュータとは何なのかについてご紹介していきたいと思います。
Googleとその周辺で何が起きたのか
Googleが到達した量子超越性
2019年10月23日に科学誌「Nature」で、自社開発した量子プロセッサー「Sycamore」が量子超越性を達成したとする論文が発表されました。この量子超越性とは、量子コンピュータが従来のスーパーコンピュータの処理能力を超えたという意味です。
Googleは、Sycamoreが現行の世界最速コンピュータで1万年かかる計算を、200秒で完了させたと説明しています。2020年には、この技術をクラウド上で試せるように計画しています。
量子コンピュータを紹介するのツイート
量子超越性を否定するIBM
IBMは、この結果に対して疑問を投げかけています。IBMは、現行のスーパーコンピュータでも条件を整えれば十分対応可能としています。Googleが主張する内容のものなら2日半で処理できるとし、量子超越性を否定しました。
その夜、ビットコインが急落
Googleが論文を発表した夜、仮想通貨「ビットコイン」が急落しました。この原因について、量子コンピュータの論文発表が原因ではないかと推測されています。
ビットコインは「ブロックチェーン」と呼ばれる技術により、その安全がおおむね確約されています。これは、現行のコンピュータを駆使しても、ブロックチェーンによって仮想通貨の改ざんが絶対に不可能だからです。
しかし、量子コンピュータが出てきた場合、その限りではありません。なぜなら、圧倒的な処理能力を持つ量子コンピュータなら、改ざんは容易であると考えられているからです。ビットコイン急落を原因は論文発表により、投資家たちが危機感を募らせたからと推測されています。
量子コンピュータとは
Googleの論文発表後、様々な動きがありました。ここに記載したこと以外でも、多くの企業や技術者が反応を示しています。そのような量子コンピュータとは何なのか、順を追って説明していきます。
そもそもコンピュータとは
量子コンピュータの説明をする前に、まずはコンピュータとは何かについて説明します。
コンピュータとは、膨大な計算を行う計算機です。その計算に使う情報は、すべて「0か1」(二進法)で表記されています。「なぜ0と1しかないのか」疑問があると思いますが、そこには明確な理由があります。
コンピュータは、機械に組み込まれた回路から数字を読み取ります。回路に電圧をかけて、「OFFのときは0」、「ONのときは1」といった感じで読み取っていきます。都合上、「OFFかON」しかないので、「0か1」でしか表現ができません。
技術的に「0~9」まで読み取ることは可能ですが、何らかの方法で、機械が読み取れる10通りの電圧のかけ方が必要になり、機械の構造は非常に複雑になります。より単純な構造にするには、「0か1」で行うしかないのが理由です。
量子が特性
次に、「量子とは何なのか」に触れていきたいと思います。量子の特徴を知っていると、量子コンピュータへの理解も深まっていきます。
通常、物質は原子が組み合わさって形作られますが、その原子よりさらに小さい粒子を量子といいます。原子を形作る「電子」、光の粒子である「光子」が代表例です。そして、量子には物理法則にとらわれない「重ね合わせ」という特徴があり、これが量子コンピュータにとって重要な要素になります。
二重スリット実験
量子の重ね合わせがわかる実験として、二重スリット実験があります。これは、二重のスリットをあけた板と、その先に観察用のスクリーンを設置し、量子がスリットをどのように通り抜けていくかを確認する実験です(※パーソナルテクノロジースタッフが掲載している記事より参考、引用させていただきました)。
①通常の粒子の場合
砂粒や小麦粉などの粒子は、スリットを通り抜けると先のスクリーンには2本の線が付きます。これは、物質が持つ一般的な「粒子」としての特性です。
粒子をスリット越しにスクリーンへ飛ばす
スクリーンには縦に2本の線が付く
②光の場合
光がスリットを通り抜けた場合、以下の結果が出ます。
光源をスリット越しにスクリーンに当てる
スクリーンに縞模様が出る
この縞模様は「波」としての特性で、波には起伏があり、山同士(谷同士)が重なり合うと強め合い、山と谷が重なり合うと相殺します。その結果、重なり合ったところは光が当たり、相殺しあったところは影になります。それが、スクリーンに縞模様を生みます。
スリットを抜けた光の波はお互いに衝突し、増幅や相殺し合ったりする
③量子の場合
量子がスリットを通り抜けると、光のような波の特性が出ます。実験では量子を一粒ずつ飛ばしていますが、波と同様に増幅と相殺をし、縞模様が出ます。
電子と呼ばれる量子をスリット越しにスクリーンへ飛ばす
量子を一粒ずつ飛ばしていても、波のような性質が出てくる
④量子を観測しながらの場合
量子をセンサーなどの観測機を使いながらスリットを通り抜けると、以下の結果が出ます。
量子のセンサーで観測しながらスクリーンに飛ばす
先ほどの波の特性は出ず、①のような2本の線になります。
観測すると波ではなく、粒子としての性質が出てくる
これは、「量子は観測されると性質を変える」という特徴を持っており、「波であると同時に粒子である」ことを表しています。物理的にはまったく説明できない現象ですが、これが量子の性質であり、2つの性質を併せ持つこの状態を「重ね合わせ」といいます。
量子コンピュータを実現させる“重ね合わせ”
ここまで、コンピュータと量子について触れてきました。ここからは、本題である量子コンピュータの話になります。
従来のコンピュータは「0か1」を電圧のOFFとONで表現します。ですが、量子コンピュータは重ね合わせにより「0と1が同時にある状態」、つまり「ONでもありOFFでもある」というような状態になります。
例えば、「0000」から「1111」まで16通りの計算がある場合、従来のコンピュータなら1通りずつ計算しますが、量子コンピュータは16通りすべて同時並列で計算できます。そのため、従来とは比較にならない処理能力を誇っています。
量子コンピュータの種類とできること
量子アニーリング方式
この方式は、「組み合わせ最適化問題」を解くことが得意な量子コンピュータです。組み合わせ最適化問題とは、何通りかの選択から最適な解答を選択する問題のことです。
例として、「巡回セールスマン問題」があります。この問題は、セールスマンが営業で訪問する際、交通手段やルートなどから、最もコストパフォーマンスに優れた選択をするというものです。複数ある選択から最適なものを選ぶことで、作業などの効率化が図れます。
ちなみにカナダのD-WaveSystemsから、アニーリング方式の商用量子コンピュータが提供されています。
富士通で掲載している量子アニーリング方式の研究(富士通サイトより)
量子ゲート方式
従来にコンピュータを踏襲する、計算を得意とする量子コンピュータです。重ね合わせによる爆発的な処理能力を誇り、従来では途方も無い時間がかかった計算も瞬時に行えます。
このことにより、今まで計算不可能だったことが可能になるので、解明できなかった計算が次々と解かれていく可能性があります。ですが、同時にこのことがデメリットになる可能性もあります。
冒頭で、ビットコイン急落について触れましたが、どのようなセキュリティもこのコンピュータの前では、役に立たないとされています。ハッキングは容易に可能なので、新たなセキュリティの開発が急務といえるでしょう。
IBMが世界で最初に提供している量子ゲート方式によるクラウドコンピューティング
量子コンピュータの技術的課題
量子コンピューターは夢のある話ではあるのですが、多くの課題も抱えています。GoogleのSycamoreを例に、下記の問題があります。
- 量子コンピュータ稼動には、絶対零度に迫る冷却装置が必要
- 動作停止に2日、再起動にさらに2日かかる
- 莫大なコストがかかる(Sycamoreに使用されているケーブルは、1本1000ドルかかり、それを数百本使用する)
Google自身も、一般的に使用できるようになるまでは、まだ何年もかかるとしています。
まとめ
今回の記事は、大分難解な内容になっています。筆者自身も、大雑把に理解するのがやっとでした。
要点だけをまとめると、
- 量子には、二つの状態を併せ持つ「重ね合わせ」がある
- 「重ね合わせ」により、量子コンピュータの計算能力は従来の比較にならない
- Googleは自社開発の量子コンピュータで、従来のコンピュータの性能を超えた(量子超越性)
という点です。
テクノロジーは、私たちの生活を大きく進歩させます。量子コンピュータは、IoTやAIの技術で注目をされていますが、同時にリスクをはらんでいるのも事実です。
今後、このテクノロジーがどのように進歩していくのか、注目していきましょう。