皆さんは太宰治と聞くと何を思い浮かべますか?「難しそう・・」「暗そう」などのイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。実際、確かに彼の作品にはそういった暗く重たいテーマが扱われていることも多いです。しかし、太宰治の作品の多くは、人生の悩みに真摯に向き合い、それを隠さず描写してきたからこそ、何十年後の現代に生きる私たちにも不思議と共感できる作品が多いのです。
太宰作品がスマホで読める?
太宰治の作品は青空文庫になっています。
この青空文庫とは、著作権が消滅した作品などをインターネット上に公開する電子図書館のことです。タイトルをネットで検索すれば、簡単に作品の前文にアクセスすることができます。そのほかには青空文庫を読むためのスマホアプリもあり、スキマ時間に気軽に読書したい人におすすめです。
また、難しいと思われがちな太宰治の作品ですが、短編小説も多く残されており、意外と簡単に読み切れる作品が多いのも特徴です。そんな作品の中から、「私のお気に入りの一文」「あらすじ」「おすすめの理由」の三つの観点でおすすめ5選をご紹介していきます。
太宰治おすすめ作品①: ヴィヨンの妻
作品の短さ:★★★★☆
読みやすさ:★★★★★
知名度:★★★★★
「けれども、こうして手短かに語ると、さして大きな難儀も無く、割に運がよく暮して来た人間のようにお思いになるかも知れませんが、人間の一生は地獄でございまして、寸善尺魔、とは、まったく本当の事でございますね。一寸の仕合せには一尺の魔物が必ずくっついてまいります。人間三百六十五日、何の心配も無い日が、一日、いや半日あったら、それは仕合せな人間です。」
【あらすじ】
「天才」でありながら飲んだくれの生活を送る旦那の帰りを待っていた奥さんが、旦那の借金が原因で彼の行きつけの飲み屋で働き始めるお話です。
太宰治作品を読んでみたいけど、長い作品は自信がない…という人におすすめなのが『ヴィヨンの妻』です。作品自体が比較的短く短い時間で読めることや、物語の展開がシンプルなので読書に慣れていない人でも読みやすい作品です。幼子がありながらお酒を飲んだくれて家に帰らない夫が常に苦しみ、もがいているのに対して、妻は深刻なはずの悩み事を軽快にかわしていく描写が印象的です。どうしようもない人間なはずなのに、なぜか魅力的に見える、太宰の描くダメンズの典型例です。
ヴィヨンの妻 青空文庫
太宰治おすすめ作品②: 駆け込み訴え
作品の短さ:★★★★☆
読みやすさ:★★★★☆
知名度:★★★☆☆
「いいえ、私は天の父にわかって戴かなくても、また世間の者に知られなくても、ただ、あなたお一人さえ、おわかりになっていて下さったら、それでもう、よいのです。私はあなたを愛しています。」
【あらすじ】
十二使徒の一人で、イエス様と共に旅をしていた裏切り者のユダが、イエス様の居場所を密告するために役場に駆け込みシーンの物語です。
作品全体は短いですが、最初から最後までユダ一人のセリフのみで物語が展開するという臨場感溢れる構成になっています。ユダがイエス様に対して抱いていた感情、旅の道中で交わされたイエス様との会話などが畳みかけるように次々語られます。ユダ=「銀貨のためにイエス様を売った裏切り者」、というイメージが強いですが、果たして本当にそうなのでしょうか。退廃的で無気力な他の作品のダメンズたちとは異なる、エネルギッシュな主人公の言葉に注目です。
駆け込み訴え 青空文庫
太宰治おすすめ作品③: 斜陽
作品の短さ:★★☆☆☆
読みやすさ:★★★★☆
知名度:★★★★★
「貧乏って、どんな事? お金って、なんの事? 私には、わからないわ。愛情を、お母さまの愛情を、それだけを私は信じて生きて来たのです」
【あらすじ】
これまでの階級制度が失われ、お金や土地を徐々に失っていく没落貴族である主人公の「和子」、可憐で美しい「お母さま」、薬物中毒に苦しむ弟「直治」。そんな中で出会った一人の男性によって和子は「恋」と向き合う決心をします。
厳しい現実に直面しながらもどこか現実離れした没落貴族の様子を巧みに描いた作品です。太宰治はこの作品を制作する前に、ロシアの文豪チェホフの『桜の園』に強い感銘を受け、「自分も没落貴族の作品を書きたい」と考え、『斜陽』の執筆に取り掛かったといわれています。『斜陽』の中にも「マイ・チェホフ」というフレーズが登場します。悪くなる一方の状況の中で和子が恋した相手は弟・直治の師匠のような存在の「上原」という男性でした。妻帯者であるにも関わらず、止まらない和子の恋心。「上原」と「直治」、それぞれタイプは違えど、二人とも太宰作品に出てくるダメンズの要素を備えています。斜陽ファンの女性の間では、「上原派」と「直治派」に好みが分かれるようです。(私は「上原派」です!)
斜陽 青空文庫
太宰治おすすめ作品④: グッド・バイ
作品の短さ:★★★★★
読みやすさ:★★★★★
知名度:★★☆☆☆
「あいつも、」と文士は言う。「女が好きだったらしいな。お前も、そろそろ年貢のおさめ時じゃねえのか。やつれたぜ。」「全部、やめるつもりでいるんです。」その編集者は、顔を赤くして答える。
【あらすじ】
終戦後闇稼業で稼ぎ、その金で酒を飲み、多数の愛人を抱える主人公が、心変わりをしすべての愛人と別れようと試みます。しかし、愛人たちを納得させて綺麗に別れるため、「ある方法」を試みます。
妻帯者でありながら愛人をたくさん作っている時点ですでにダメンズですが、彼の不思議な魅力は、その素直さ、妙な誠実さにあると思います。現に彼は愛人たちに対して、本当は妻ある身であることを話しています。さらに、納得してもらい気持ちよく別れたい、という考えも、思いやりがあるんだか、ないんだか、よくわかりません。彼の「グッド・バイ」の瞬間に立ち会えば、太宰らしい「憎めないダメンズ」の不思議な魅力に触れることができますよ。
グッド・バイ 青空文庫
太宰治おすすめ作品⑤: 人間失格
作品の短さ:★★☆☆☆
読みやすさ:★★★★★
知名度:★★★★★
「いまは自分には、幸福も不幸もありません。ただ、いっさいは過ぎてゆきます。自分がいままで阿鼻叫喚で生きてきたいわゆる「人間」の世界において、たった一つ、真理らしく思われたのは、それだけでした。」
【あらすじ】
地方の名家に生まれた主人公は、幼少のころから人を心がわからず、いつも周りの目を気にして過ごしていました。上京して仕事を始めてもお酒や薬に溺れ、彼に魅了された数々の女性を巻き込みながら自暴自棄な生活を繰り返していきます。
ダメンズ小説の代表格です。自堕落な生活を送っているにも関わらず、女性の喜ばせ方を心得ていた主人公は、多くの女性の心をつかみます。ただし、それさえも彼にとっては暗く重い呪いのように感じられ、愛人と共に自殺未遂をはかるなど、まさにダメンズな人生を送ります。作中では主人公は自分のことを卑下し、自分が如何に害悪な存在かということを語り続けます。それでも彼を愛し、支え、助けようとする周りの女性たち。作品最後数ページを読み終えるまで、「人間失格」の作品に隠された本当の意味はわからないような気がします。
いかがでしたか?
今回は「ダメンズ」をテーマに、太宰治のおすすめ作品5選をご紹介しました。ご紹介したほかにも、魅力的な登場人物を携えた作品がたくさんあります。ぜひ青空文庫を利用して、文豪の名作をスマホで楽しんじゃいましょう!