前回、Tさんというトップ営業マンがやっていたことについてご紹介した。Tさんは、自分に自信があるだけでなく、自社商品に対する自信もあり、その商品を売ったら「お客様のためになる」と本気で信じていた。だからこそ、トーク時にはイキイキとした声になり、ワクワクとした表情になるのだと思う。自社商品に対する勉強も欠かさずしていた。考えてみれば、当たり前である。勉強をし、「商品の隠れた魅力」を多く見つけていたに違いない。そしてその魅力ある商品を、買ってくれるお客様にコミットし、売る。そういえばTさんは、「商品を売る、という言い方が嫌い」と言っていた。「お客様の課題・問題解決のためのツールを紹介する」という感覚らしい。彼は8000人規模の会社で1位に君臨し、全国の優秀な営業マンだけを引き抜いた保険会社でも3位に君臨している。さて、私はある程度の上位ランキングはとれたのだが、Tさんとの圧倒的な違いがあることに気付いた。そう…私は、自分には根拠のない自信があるのだが、どうしても自社商品に対する自信がなかった。勉強不足かもしれないが、それでも本気で自信がなかった。色々な理由を並べて退職したが、突き詰めて考えれんば、『意味がないと感じてしまう商品を売りたくなかった』という感じである。いや、実際は意味があるのだと思う。でも私にはあまり…正確には一部の商品にしか感じなかった。同期もよくこういう話をしていた。「これ売って意味あるの?」「お客様目線に立つと、本当に意味ない気がする」「詐欺みたい」「入れ替え提案もうしたの?まだ全然使えるじゃん」「予算が高すぎるから無理やり売るしかないよね」莫大な予算に対し、とにかく売るしかなかった。売れば、怒られなくて済む。無意味な入れ替え提案もしたし、お寺に謎のソフトを売りつけてしまったこともあった。私は、Tさんみたいな自社商品に対して絶対的な自信を持っている人だけが営業すればいいのに、と思った。私の周りにいた上司もみんな、いい歳して、「これ絶対意味ねぇよな」とか言いながら見積りを作っていた。実際、売っていた商品として、例えば200万円ぐらいするセキュリティ機器や、200万円くらいする印刷機など。必要としているお客様がいればいいのだが、世の中そんなに甘くない。結果、予算のためだけに、従業員2名ぐらいの会社に対し、200万円のセキュリティ機器を売ってしまったこともある。「売れるだけすごいじゃん」と上司に言われたりもしたが、私は押し売りをしたり、予算のためにあまり意味のない商品を売り付けたくなかった。お客様から「ありがとう」と言われる営業を目指していたが、セキュリティ機器や印刷機を売りさばく日々の連続で、感謝されたことなんて1回しかなかった。感謝されたのは、直属の上司から。「粗利を抜いてくれてありがとう!!予算がいきそうだね!!」と。同期数十名は今頃、「これ売っても意味ねぇけどなぁ」とか言いながら、まだ見積り作成を続けているのだろうか。それともTさんのように、輝く営業マンになれたのだろうか。月に50枚ぐらいしか印刷しない個人事業主に、200万円もする印刷機を買ってもらったことを今でも思い出す。「頑張ってるから…買ってあげるよ」と。嬉しさ半分、申し訳なさ半分でその場で泣いてしまった。私の場合、商品を売るのではなく、もっと人間力で売っていけば良かったのかもしれない。