どうやったら仕事の効率をあげて、プライベート、家族と過ごす時間を増やせるか・・・。そう考えている人は少なくないと思います。
実は気が付かないうちに、多くの「無駄」なことに貴重な時間を費やしているかもしれません。
「トヨタ生産方式」を学んで、無駄を減らしてもっと自由な時間を増やすことを学んでみませんか?
1.トヨタ生産方式のおさらい
トヨタ生産方式は、トヨタ自動車社長の豊田喜一郎が1936年に操業を開始した自動車専用組立工場の挙母工場での生産に際して考案された、「ジャスト・イン・タイム」と、豊田自動織機の創始者、豊田佐吉が糸切れを起こすと停止する織機の発明に起源をもつ「自働化」を2本柱とする生産システムです。ただ、その考え方を工場に理解され、実践されるようになるには戦後を待たなければなりませんでした。
トヨタ生産方式は、一般にはTPSと呼ばれていますので、これ以降はトヨタ生産方式をTPS(Toyota Production System)と表記します。
「ジャスト・イン・タイム」、「自働化」を実際に具体化して自動車工場で実践したのがTPSの実質的な生みの親である大野耐一です。大野は1954年にTPSの具体的なツールとして「スーパーマーケット方式」を導入しました。これはのちに「かんばん」として、TPSでもっとも有名なツールに発展しました。これによりモノの移動時の仕掛を抑えることができ、喜一郎が考案した「ジャスト・イン・タイム」が実現できるようになりました。
TPSは、常に時代や環境とともに変化しています。TPSの核心は、人間のためのシステムにあります。
TPSの基本思想は、「徹底したムダの排除」です。ムダ排除の思想に基づいて、工数低減、生産性を高めるために具体的にいろいろな施策を展開しています。
2.トヨタ生産方式での7つのムダとは
TPSでは、付加価値を生まない作業、付加価値を高めない作業は、すべてムダな作業です。このムダをどんどん減らして付加価値を生む作業だけにするのが理想です。トヨタでは、ムダを次のように7つに分類します。
① つくり過ぎのムダ
「不必要な物を、不必要な時に、不必要な量を作る」ことを「つくり過ぎのムダ」と言います。
7つのムダの中で、最も避けなければならないムダです。「つくり過ぎのムダ」を避けなければならないのは、このムダが「在庫のムダ」、「動作のムダ」、「運搬のムダ」を発生させてしまうからです。
さらに、つくり過ぎは作業者が忙しく動き続けるため、「手持ちのムダ」も隠されてしまいます。
② 手待ちのムダ
材料の遅れや欠品、機械・設備・運搬・人などに起因して、人や機械の手持ちが発生することを、「手待ちのムダ」と言います。生産効率の低下を招く要因です。
③ 運搬のムダ
運搬は、すべての作業につきものですが、運搬自体は付加価値を生みませんので、「運搬のムダ」と考えます。例えば、材料を倉庫から搬出して、次の工程に送り込むために、一時的に仮置きや移し替えするなど、不必要な運搬や長い距離の運搬はムダな作業になります。
④ 加工そのもののムダ
今行っている慣れた作業のやり方が、最良だと思っているために発生するムダを、「加工そのもののムダ」と言います。本来は不要な工程や、加工度を上げることに寄与しない作業が、あたかも必要な作業であるかのように行われているものを言います。
⑤ 在庫のムダ
必要以上につくり過ぎると、在庫は資金の流動性を低下させたり、倉庫費用などムダな費用が発生したりします。さらには、保管による陳腐化や劣化により不良在庫になる危険があります。つくり過ぎにより発生するムダを、「在庫のムダ」と言います。過剰な在庫は、生産現場が抱える、納期や生産リードタイムに対する問題点を隠してしまい、真の解決を遅らせることになります。
⑥ 動作のムダ
ものづくりのうえで、付加価値を生まない人の動きや、設備、機械の動きを、「動作のムダ」と言います。離れ小島作業や、レイアウトの問題、教育訓練不足などが原因です。
⑦ 不良をつくるムダ
不良自体のムダと、本来不必要な修正等のムダを、「不良をつくるムダ」言います。「不良をつくるムダ」は、正常なものの流れを乱して、良品の生産性に大きな影響を及ぼします。
個人での仕事に当てはめるとすれば、以下のような無駄に相当すると考えられます。
- 優先順位の低い仕事に時間を費やす無駄
- 待ち時間の無駄
- やり取りに時間を費やす無駄
- マンネリ化・こだわり過ぎの無駄
- 先走り過ぎの無駄
- 空回りの無駄
- 二度手間の無駄
3.トヨタ生産方式でのムダの削減手順
これら「7つのムダ」を減らすには、ムダをいかに上手に効率よく発見することです。
トヨタの社員は、全員が、これらのムダを発見して取り除く取組を繰り返し行います。この取組を「ムダ取り」と言います。
TPSでの「ムダ取り」の手順を示します。
① ジーッと現場を観察 ・・・ 今の状態を否定的に観察する
↓
② ムダを発見する ・・・ 対象とするものに「5回のナゼ」を実行する
↓
③ 良いと考えたことを実行 ・・・ まず実践してみる。それから効果を考える
↓
④ 結果の反省 ・・・ だめならもう一度位置に戻る。
↓
⑤ 次の改善点を発見 ・・・ より良いものへカイゼン。他の場所へ水平展開(横展開)
これら、① ~ ⑤ のサイクルを繰り返して、ムダを徹底的に排除していきます。
4.トヨタ生産方式を応用して仕事の効率を改善しよう
「ムダ取り」を行うには、人の動作に着目すると比較的見つけやすいといわれています。「一つの動きに集中して、細かく観察する」ことです。
身体の動き、物の動きに着目して、トヨタ生産方式で言われているムダを生む動きの例を示します。
①足の動き
空歩行、半歩戻り、半歩踏み込み、立ち止まり
②手の動き
上下・左右、片手の手持ち、保持、持ち替え、繰り返し、取りにくい、やりにくい、離れ際
③目の動き
探す、選ぶ、確認、見にくい、狙い、いらいら
④体の動き
振り向き、屈む、背伸び、大きな動き、重い物の運搬、引っ張り、不安全動作
⑤物の動き
上下・左右、反転、方向変換、取り置き、など
最初は直接部の改善活動として始まりましたが、現在では間接部門でも「ムダ取り」の取組がトヨタでは行われています。
でもこれって、自分の仕事での無駄取りにつかえる・・・?
使えます。
結局「動き」を見ているんですよね。
体や物ではなく「情報」の動きに着眼してみて下さい。
仕事を行う上で、どうやって情報を動かして価値を生み出しているのか。
その上で7つの無駄をどうやって省いていくのかを考えてみて下さい。
- 優先順位の低い仕事に時間を費やす無駄 => 情報が生産されない
- 待ち時間の無駄 => 情報が入らない
- やり取りに時間を費やす無駄 => 情報インプット効率が悪い
- マンネリ化・こだわり過ぎの無駄 => 情報加工効率が悪い
- 先走り過ぎの無駄 => 情報が使われない
- 空回りの無駄 => 同じ情報の繰り返し
- 二度手間の無駄 => 情報の質が悪い
情報動かし方に無駄がないか一度検討してみると、色々と改善点が見えてくるはずです。
5.ムダ取りをする際に気を付けること
トヨタが世界一の自動車会社になれたのは、戦略的に優れていたのはもちろんですが、これらのムダを減らすために、現場レベルで地道なカイゼン活動を半世紀以上にわたって続けたからです。
TPSは、徹底的な無駄の排除により。現場作業者の生産活動全般の能率向上を実現することを目指しています。
ただ、ここで注意しなくてはいけないのは、「7つのムダ」が製造コストのうち、変動労務費への着眼に偏っていることです。
トヨタ生産方式をはじめた大野耐一は、その著書の中でムダを徹底的に排除する際の前提として、
『ムダを工程や作業だけではとらえず、工場全体でとらえること』
としています。
特にマネージメントする立場の人は、工場経営の視点から「ムダ取り」を考える必要があります。
皆さんが、任されている仕事には必ず何処かに無駄があります。
TPSによるムダ取りの考え方は、皆さんの仕事の改善にも役に立ちます。
ただ、注意して頂かねばならないのは、皆さんのムダ取りの改善が、他の人の作業に影響を与えないかは、すり合わせをする必要があります。
TPSで言う、「後工程はお客様」の精神を忘れないように注意してください。
ただ、注意して頂かねばならないのは、皆さんのムダ取りの改善が、他の人の作業に影響を与えないかは、すり合わせをする必要があります。
TPSで言う、「後工程はお客様」の精神を忘れないように注意してください。
まとめ
◆トヨタ生産方式(TPS)が目指すものは、「ムダの徹底的排除」です。付加価値を生む作業以外はすべてムダな作業です。トヨタでは、ムダを7つに分類します。
①つくり過ぎのムダ
②手待ちのムダ
③運搬のムダ
④加工そのもののムダ
⑤在庫のムダ
⑥動作のムダ
⑦不良をつくるムダ
これらのうち、最も避けなければならないのは、「つくり過ぎのムダ」です。
◆ムダを減らすには、現状を十分に観察して、「5回のナゼ」でムダの根本原因を見つけ出します。
これを無くするための改善を実施して、効果を確認します。
効果があれば、他のラインや工場に水平展開して、全体の能率向上を図ります。
◆ただし、ムダ取りをする際は、個々の工程や作業の改善だけで良しとはせずに、工場全体で能率が向上することを目指さねばなりません。
リンク:
「トヨタ生産方式」に興味を持たれたら。→ トヨタ生産方式
参考文献
トコトンやさしいトヨタ生産方式の本 沢田善次郎 他 日刊工業新聞社 2004年
図解5S・JIT基本用語555 平野裕之 日刊工業新聞社 1994年