テクノロジーの進歩が目覚しい昨今ですが、IoTへの期待も非常に高まっています。2020年以降に普及する5Gにより、さらに注目度も増していくでしょう。
IoTとは「Intenet of Things」、モノのインターネットを意味しており、世の中の様々な機器がネットワークに接続され、いろいろなサービスが提供されていきます。日本政府ではIoT、ビッグデータ、AI、ロボットのテクノロジーを用いた「ソサエティ5.0」という新しい社会のあり方について、以下のように言及しています。
「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題を両立する、人間中心の社会(Society)」(内閣府公式ページより抜粋)
今回は、日本が考えるソサエティ5.0と、それを支えるIoTとは何なのか、ご紹介していきます。
IoTとは
様々なモノがネットワークに接続し、互いに情報共有を行い、機器を制御する仕組みをIoTといいます。IoTが行う全体の流れとして、
- センサーなどにより情報を収集し発信、ビッグデータとして蓄積する
- ビッグデータを分析して、効率的な指示を出す
- 指示に基づいて機械を動かす
といったことを行います。bをAIが受け持ち、cをロボットが行うことで、最終的には人間が介在しない自立したシステムの構築を目指しています。
IoTを支える技術
日本が目指すソサエティ5.0の要であるIoTには、以下の技術が不可欠です。この技術は、近年目覚しい発展をとげ、注目が集まっています。それぞれどのような役割を担っているのか、簡単に紹介していきましょう。
ビッグデータ
インターネットなどで収集された、膨大な情報をビッグデータといいます。様々な情報を集めて分析することで、今までになかった発見やアイデアなどを生み出していく可能性を秘めています。
AI
AIとは、人間が行う知的な理解や判断を、コンピュータ上で実行する技術です。IoTにおいて、分析と判断を行います。人間では、膨大なデータの中から適切な情報を引き出すのは難しく、途方も無い時間がかかります。AIはそれらを即座に判断できるので、生産性の効率化や人的負担を軽減してくれます。
ロボット技術
ロボットは、「人間に代わり、自律的に働く機械」と定義されています。テクノロジーの進化により、人間に近い精密で高度な動きが可能になってきました。様々なサービスにおける、人材不足の解消に期待が高まっています。
他国のIoTへの取り組み
日本ではソサエティ5.0としてIoTの開発に着手していますが、ドイツとアメリカでは2010年代頃から始まっていました。では、他国のIoTはどのようなものなのか、見ていきましょう。
インダストリー4.0
ドイツが国策として始めた、「第4次産業革命」と位置付けているプロジェクトです。IoT技術を導入し、生産性の向上を目的とする「スマートファクトリー」の実現を目指しています。スマートファクトリーが目指すものは以下の三点です。
ダイナミックセル生産方式
一般的に、単一の製品を流れ作業で大量生産するライン生産方式と、世の中のニーズに合わせて多品種少量生産するセル生産方式があります。ライン生産方式は一度に量産はできても、ニーズの変化には対応ができず、セル生産方式はニーズに応えられても、量産はできませんでした。
ダイナミックセル方式は、製造ラインを幾つかに分類して、分類ごとに製造の内容を切り替えていく方式です。これにより、ニーズに応えた、多品種大量生産が可能になります。
マスカスタマイゼーション
「マスプロダクション」(大量生産)と「カスタマイゼーション」(受注生産)を組み合わせた造語で、大量受注生産を意味します。ダイナミックセル生産方式が可能になることによって、一人一人の細かいニーズに応えたオーダーメイドの製品が、スムーズに生産できます。
サイバーフィジカルシステム(CPS)
フィジカル(実世界)の情報を集積し、サイバー(仮想世界)で分析して生産するシステムです。ここで呼ぶフィジカルとはIoT機器のことで、サイバーがインターネットやクラウドを指します。
スマートファクトリーを成立させるシステムで、IoTのインフラが整備されると設計と開発、製造から流通量の管理まで、すべてを自律で行います。
IBMが解説する第4次産業革命
インダストリアル・インターネット
アメリカのゼネラル・エレクトリック社で行われているプロジェクトがこのインダストリアル・インターネットです。このプロジェクトの肝は、スマートファクトリーの役割以外にも、点検や保守にも対応する点にあります。その中核の担うのが、「マイクロファクトリー」です。
最初にIoT機器を観察しながらデータを収集し、ビッグデータを分析します。異常(予兆や経年劣化など)を見つけたら指示を出し、マイクロファクトリー(3Dプリンター)で交換用の部品を作成します。重要なのは、この3Dプリンターは製造工場ではなく、利用者の隣接地の設備から提供されるというところがポイントです。イメージとしては、近所にメーカーのディーラーがあり、そこからメンテナンス用部品が提供させる感じでしょう。
マイクロファクトリーには公共サービスなどが、故障により発生するトラブルを未然に防ぐ狙いがあります。他にも、エネルギーや交通網の管理なども行えるとされています。
製造からインフラまで支えるIoT
IoTを支えるソフトウェア「Predix」
日本のソサエティ5.0の意味
ドイツとアメリカでは先進的に開発が進むIoTですが、実はこの二国と日本では少し違ったコンセプトで掲げています。インダストリー4.0とインダストリアル・インターネットは生産性向上を主眼にしているのに対し、ソサエティ5.0は日本が抱える社会問題を是正する目的で開発を進めています。では、日本が考えるソサエティ5.0とは何なのか、見ていきましょう。
ソサエティ1.0から5.0
ソサエティ5.0は「人類史上5番目の新しい社会」を目指した、第5期科学技術基本計画で提唱された構想です。5番目の社会に至るまでに4つの段階がありそれぞれ、
- ソサエティ1.0「狩猟社会」
- ソサエティ2.0「農耕社会」
- ソサエティ3.0「工業社会」(蒸気機関の発明)
- ソサエティ4.0「情報社会」(コンピュータの出現)
があり、政府広報ではソサエティ5.0は「高度な先進技術の導入で、あらゆる課題が解決されていく」といい、「超スマート社会」という名称で紹介されています。
ソサエティ5.0が目指す超スマート社会
現在はソサエティ4.0の段階で、そこには下記のような課題があります。
- 保有する情報や知識が、異なる分野との間で共有しづらい
- 収集した情報の分析や検索には、大きな負担がかかる
- 年齢や障害などにより、労働や行動範囲に制約が生まれる。
- 少子高齢化や地方の過疎化による制約がある。
ソサエティ4.0では、これらの課題を解決することは困難でした。しかし、テクノロジーの進歩で、IoTが現実的な技術になったことにより、次第に光明が見えてきました。
今まで社会の機能を維持していく上で、人間は多くの制約を受けていましたが、今後はその制約をIoTが解消していきます。 例えば、上記で紹介したスマートファクトリーは代表例といえるでしょう。他にも、自動運転システムを利用した交通網を整備することで、事故の起こらない道路ができる可能性もあります。もしかしたらビッグデータを分析した結果、すべての病気を治せる奇跡の医療が生まれる可能性も否定できません。
あくまでも可能性の話ですが、新たに生まれてくるアイデアで、私たちの生活を良いものに変えていく人間中心の社会。それがソサエティ5.0の構想です。
IoTが抱えるリスク
IoTにより、私たちの生活は大きく変化していくことでしょう。ですが、そこで懸念されるのがリスクです。期待の大きい技術ではあるのですが、決して目を逸らすことのできない課題を抱えているのも事実です。最後に、知っておかなければならないリスクについて紹介していきます。
プライバシー
ビッグデータにはたくさんの個人情報が蓄積されます。この情報には氏名や住所だけではなく、どういった持病を患っているか、その日にどのような行動をしたのか、といった情報も含まれます。これらをどのように保護していくかが課題になっています。
サイバー攻撃
IoTは、サイバーテロやサイバー攻撃の標的になる可能性があります。過去には、「Mirai」と呼ばれるマルウェアにより攻撃があったことも報告されています。
さらに「サイバーデブリ」と呼ばれる、管理不十分なIoT機器が多数出てくると予想されており、そこからサイバー攻撃を受ける懸念があります。普及したIoT機器を、どのように管理していくのかが課題となっていくでしょう。
その他の問題点
適正なサービス・情報が提供できるか
今後、ビックデータの解析が進むとさまざまなサービスや情報が発信されるでしょう。そこで問題に上がるのが、サービスや情報が適切であるかどうかです。不適切な場合、一度広まってしまうと収拾が付かず、最悪は社会全体に大きな影響を及ぼす可能性があります。
適切に利用ができるか
このテクノロジーが普及した場合、利用者が適切に利用できるかが懸念されます。当然のことながら、従来運用してきたシステムとは異なるシステムが導入されます。利用できないことにより、公共のサービスが受けられない、雇用が維持できないなどの問題が起こるかもしれません。いかにして、利用者にわかりやすく伝えていくかが、今後の課題となっていくでしょう。
機器の誤作動
IoT機器は搭載されたセンサーにより情報を集め、AIが判断を行っていきます。その際、センサーの故障、もしくは誤認により機器が誤作動を引き起こす可能性があります。
例えば、走行中の自動車が誤った情報を発信し、それが他の自動車と共有された場合、交通網の麻痺や大事故に繋がる可能性があります。どのように安全を確保するのか、対策が必要になるでしょう。
まとめ
今回はIoTとソサエティ5.0に付いてご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。今後、IoTが私たちの生活を大きく変えていくことは、断言できます。
ソサエティ5.0のような社会になれば、今よりずっと快適な生活が送れる反面、懸念材料があるのも事実です。ただテクノロジーに甘えるのではなく、正しく理解して管理していく、そういった責任も伴ってくるでしょう。
IoTのインフラが整備されるまで、まだまだ時間はあります。少しずつ理解を深めながら、移り変わるシステムへの備えをしていく必要があるのかもしれません。