幕開けは感動的に
昨年末、平成の特集番組で何度も見た「平成」の文字を掲げる小渕官房長官。後に首相になる人だったとは、誰が予想していただろうか。
新年早々、仕事で前日から地方の旅館に宿泊していた私は、ロビーのテレビでお客さんと一緒にこの映像を見ていた。こんな記念すべき映像をこのシチュエーションで見るのは、いかがなものかと思いながらも、「平成」という元号に新しい時代の平和と希望が詰まっているように感じ、心が満たされていくようだった。きっとこれからも、いやこれからはもっと平和で豊かな素晴らしい時代がやってくるに違いない。今、この時この日本に、生まれ、生きていることの幸せを全身に感じていた。
平成になって5年、阪神淡路大震災に遭遇。
まだ大阪の友人宅に身を寄せていたある日、今度は取引先の企業のロビーで地下鉄サリン事件の映像を、その場にいた多くの人たちと見た。
「なんていう年なんだ」。心の中がざわついた。わくわくして平成の時代を迎えたはずなのに、わずか5年でこんなことが目の前で、そして自身にも起こっている。これから日本はどうなるんだ。暗鬱な気持ちになった。
消費税が始まった
平成と同時に消費税が始まった。海外では、かなり以前からごく当たり前に実施されているようだったが、日本もそれに追いついたということか。人生経験が少なく、税率がまだ3%ということもあり、当時その程度にしか考えが及ばなかった。
次に5%に上がることが決まった。あるメーカーの販売促進の仕事をしていた私は、消費者に税率アップ前の購入を促すツールを作らなければならなくなった。
目の前で、これを商機と喜々としてツールの内容に注文を加えていくメーカーの担当者に違和感を覚える。もっと考えなければならないことがあるんじゃないの? でも、この人たちがしなければならないことではない。それから8%になり、平成が終わると同時に今度は10%になるらしい。
社会保障費に使うと政府はいうけれど、違和感がどんどん大きくなってきている。
パソコンを家で使う
高い買い物だった。Windows3.1搭載のパソコンを買った。会社でも1人に1台のパソコンが配置されていなかったが、どうしても欲しくてしかたなかった。
起動ボタンを押してから完全に立ち上がるまで、5分くらいかかっていたのではないだろうか。あの音を聞けば、きっと懐かしく思うだろう。Windows95に自分でバージョンアップした時は、うまくできるだろうかとドキドキした。
やがて、どの会社でも1人1台パソコンの時代になった。ギリギリ、パソコンに馴染んだ世代かもしれない。少し上の世代で、付いていけずではなく、付いていこうとせず、結果的に乗り遅れてしまった人たちを見てきた。無理に時代に媚びる必要はないと思う。でも、時代の変革を受け入れる柔軟性も必要だ。人生はまだまだ続くのだから。
と、アタマでは分かっていても、俳優の東出昌大が本を読む時間を確保したいとの理由から、最近スマホをガラケーに戻したとテレビで話しているのを見て、心底羨ましいと思う自分がいた。
正しい平成の終わり方
明治以前は、自然災害など良くないことが起こると元号を変えるなど、現代に比べると自由に元号は決められていた。明治以降は、天皇の逝去に伴って変えていたので「◯◯最後の」といった表現は、今回が初めてということになる。すでに12月までの催しや行事は全て平成最後として行われたわけだ。
その平和的な象徴がNHK紅白歌合戦だった。私は観ていないが、いわゆる大トリとしてサザンオールスターズが歌い、そこに松任谷由実ことユーミンが加わり、大御所感満載の豪華なエンディングとなったそうだ。
しかしながら考えてみると、サザンもユーミンも平成も活躍しているとはいえ、両者とも昭和にデビューして人気を博し、活動を続けてきた。大トリで歌った楽曲も発表されヒットしたのは昭和。(サザンの「希望の轍」のみギリギリ平成に発表)なぜこんなことになってしまったのか。
幅広い視聴者を全てカバーすることはできないが、現役世代40〜50代に盛り上がってもらうためには、歌手・楽曲ともに妥当な選択かもしれない。しかし、その場にいるべきだったのはSMAPだ。今も歌い継がれる大ヒット曲「世界に一つだけの花」は当然のことながら、平成にデビューし、平成の紅白歌合戦で最高視聴率を5回も打ち出し、国民の誰も知る最後の大スターと言われるSMAPが昨年の大トリを飾ることが、正しい平成最後の紅白歌合戦の終わり方ではなかっただろうか。
今では多くの人が感じているSMAP解散の違和感。事務所の内紛という事情と業界の忖度という外からはよく見えない事態は、その後、芸能界だけでなく、スポーツ界や経済界など他の業界でもさまざまなほころびとして世の中にさらされるようになってきた。皮肉なことに、この点においてもSMAPは平成の象徴になってしまったようだ。
良いことも悪いことも、楽しいことも悲しいこともあった。それは当たり前のこと。科学が発展し、システムも随分変わった。それも当たり前のこと。でも、日本は戦争はしなかった。当たり前に思っているけど、それは尊いこと。
次の元号はなんだろう。待つ時間が長すぎるのか、世相の違いか、前のようなわくわく感は味わえないように思うが、これからも食べて働いて寝て、適当に遊んで、生きていくだけだ。そして、美味しいコーヒーと本だけは欠かせないと思っている。