手厚い待遇と福利厚生
仕事でダイバーシティに関してあれこれ詳細に調べているうちに、ディジャヴのごとく、頭の中をよぎっていく風景があった。
どこかで見た景色、どこかで感じた空気。
新卒で入社した会社を1年も満たずに退社し、次に選んだのが、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだった(今はさらに大企業と化しているが)リクルートのグループ会社、リクルート情報出版。中途採用求人誌「就職情報」「とらばーゆ」を発行している会社だったが、編集というよりは、メイン業務は掲載してもらう求人広告を売る営業だった。
事務職のアルバイトで入社したが、業務内容は正社員と何ら変わることはなかった。もちろん、給与は同じではなかったが、日給+残業代のみでボーナスがなくても、年収にすれば当時の他社の正規一般事務員にひけをとることはなかった。リクルート社員の給与が高かっただけだ。
残業代は、むしろ正社員よりもきっちり支払われた。さらに深夜22時以降はたしか1.5倍換算だったように覚えている。事務職とはいえ、毎週締め切りのある求人誌であることから残業時間は毎月5、60時間に及んだ。でも、きっちりともらえるのだから、なんのその!である。
給与に一切男女差や年齢差はなく、基本給の違いは職種によるものだった。
厚生年金や健康保険も正社員と変わらず、入社3ヶ月後から加入。消化しなかった有給休暇は日給に換算され、支払われた。まさに“有給”だ。まだ隔週土日休みが多い時代だったが、もちろん当時から完全週休2日制。
従業員はさまざま、評価は平等か
評価は超公正な実力主義だった。今でいうパワハラや暴力があるわけではなかったが、誤解を恐れずに言うなら、「仕事ができない者は、人間ではない」と、若いアルバイト事務員だった私が感じるような社風はあった。営業成績の振るわない営業担当は、正社員だろうとお構いなくおう徹底的に追い詰められ、優れた結果を残す者はアルバイトでも華やかな舞台と報酬が用意された。
優れた正社員は先輩をひょいと追い越し、出世が早い。30歳前後で営業所のマネージャーを勤めることもあり、年収も1千万超えと聞いた。もちろんそこに男女の差別はない。
韓国籍の人も中国籍の人もいた。名前もそのまま使っていた。やはり、優れた人は出世していき、みんなから尊敬された。
子供の頃の漫画で見たセムシ男のように、背中の骨が大きく飛び出した先輩社員がいた。でも、誰もが他の人と変わりなく彼と接していたから、私も彼の身体について一度も触れることなく、一緒に仕事をした。彼はすごく冷静でユーモアがあって、仕事ができる人で、みんなから慕われ、信頼されていた。随分と年上だと思っていたが、高卒入社で社歴が長かっただけで、私と2、3歳しか変わらないと知ったときには少し驚いた。
私が退社して数年後、彼は亡くなった。難しい骨の病気で、薄命なのは本人はもちろん、周知のことだったそうだ。
どのような背景があろうとも、安定した高い収入と待遇の中、自由なステージを用意されている。やる気と能力のある者には、限りなくフェアな居心地のいい場所だった。
ダイバーシティは、本当に理想の社会なのか
たった1年半だけ勤務した会社とは思えない、刺激的で公正で、過酷で非情で、エネルギッシュで不健康な、あふれるような日常が思い出される。
今、ダイバーシティの呼び声高く、企業などでさまざまな取り組みが行われている。
男女協働をはじめ、多様な人たちに公正な場を提供することを目的としている。現実には、さまざまな新たな課題が生まれ、現場の一人一人が対峙していかなければならないだろう。公正とは時として厳しい状況もつくると思われるからだ。
でも、その分、ちょっと暑苦しい人間らしい日々が送れるようになるなら、私個人としては素晴らしいのではないかと思う。現代のダイバーシティを味わってみたい。
<ダイバーシティとは>
多様な人材を積極的に活用しようという考え方のこと。 もとは、社会的マイノリティの就業機会拡大を意図して使われることが多かったが、現在は性別や人種の違いに限らず、年齢、性格、学歴、価値観などの多様性を受け入れ、広く人材を活用することで生産性を高めようとするマネジメントについていう。 企業がダイバーシティを重視する背景には、有能な人材の発掘、斬新なアイデアの喚起、社会の多様なニーズへの対応といったねらいがある。