「ウェールズが、スクラム組もうぜ!」
ラグビーワールドカップ2019年大会準決勝、ウェールズ対南アフリカ戦でウェールズがスクラムを選択したときの、
矢野武さんの名実況です。
後半20分過ぎに9-16で劣勢のウェールズが敵陣深くでペナルティをもらい、スクラムを選択したことで会場からは大歓声が起きます。
スクラムを選択したウェールズは、見事にトライを決め同点に追い付きました。
観るものを熱くさせるスクラムは、歴史ともにルールが変わっています。
現在のスクラムに至るまでの、ルールの変遷を解説していきます。
スクラムの歴史
スクラムには、もともと現在のように明確なポジションわけはされていませんでした。
スクラムを組む位置に初めに近づいた選手が、フロントローの役目を担います。
1900年代前半のニュージーランドは、2-3-2のフロントローを2名にし7名で組む特殊な戦術を用いて戦っていました。
残り1名のフォワードは、自チームのスクラムではボールを投入する役目を果たし、相手チームのスクラムではスクラムハーフを妨害する役割を担うポジションでした。
この戦術はハーフの邪魔をすることが批判され、のちに禁止されます。
現在のポジション編成になったのは?
1906年に南アフリカ代表のスプリングボクスは、初めて3-4-1のフォーメーションでスクラムを組みました。
1906年に初めて組んでから、1949年までに3-4-1のポジションで構成するスクラムを完成させます。
スプリングボクスのスクラムは、フッカーの動きを自由にし、スクラムに投入されるボールを素早く列の後方に蹴りだせるようなかたちをとります。このスクラムのかたちが出来たころ、タイトヘッドとルースヘッドという言葉がラグビー用語となります。
1960年代には、ルールの変更が行われます。当時はフランカーがスクラムでバインドをする必要がなく、オフサイドラインはボールの位置で決まっていたため、フランカーは簡単にスクラムハーフにプレッシャーをかけることができていました。
ルールが変更されてからは、スクラムの最も後ろの足がオフサイドラインとなり、フランカーもバインドが義務化されます。
同時に、ナンバーエイトがスクラムからボールを離すことができるようになっています。
スクラムのコール・ルールの変遷
スクラムのコールは、2007年に大きく変わります。もとはクラウチ、アンドホールド、エンゲージの順番でコールがされ、プロップが相手の肩にタッチする必要もなくフォワードがそろったらすぐにスクラムが始まっていました。
フロントロー同士の距離も遠く、勢いをつけてぶつかりあうためにフロントローの怪我はつきものでした。
2007年にクラウチ、タッチ、ポーズ、エンゲージにコールが変更となり、エンゲージの前に一度姿勢を固めて組むようになりフロントローの距離が近づきます。
近年のルール変更
2012年から2013年シーズンには、試験的にコールの変更がなされます。コールがクラウチ、タッチ、エンゲージとなり、ポーズのコールをなくしスクラムの時間を短くしようとします。
2013ー2014年シーズンには、クラウチ、バインド、セットのコールに変更され、プロップが相手の肩にタッチするかたちから相手をつかむかたちにルールが変わりました。
バインドが追加されたことで、ぶつかりあったときの衝撃がさらに軽減されると期待されます。選手の体格が大きくなり、コンタクトが以前にもまして激しくなっている現在のラグビーでは、より安全にゲームを進めるためのルール変更がなされています。
スクラムと日本
以前の日本は諸外国にくらべてフィジカル面で劣っており、スクラムが弱点となっていました。
しかし2015年のワールドカップでの対南アフリカ戦で見せたスクラムが、弱かった日本のスクラムのイメージを完全にくつがえします。
2015年には元フランス代表のフッカー、ダルマゾをスタッフに招き、徹底的にスクラムを強化しました。伝統の低いスクラムにフィジカルと持久力がそなわり、世界最強のスクラムを組む南アフリカと互角に戦うことができました。
2019年大会には、長谷川慎コーチがより強力なスクラムを仕上げます。ミリ単位で足や体の向きを調整する日本らしい繊細さをもったスクラムを組み、アイルランドやスコットランドといった強豪と互角以上に渡り合いました。
レフェリーの癖を分析し反則をとられないスクラムの組み方を研究し、緻密な戦略をもとにフォワードの8人全員がひとつのかたまりとなって押すスクラムは、日本代表の強力な武器のひとつとなりました。
まとめ
「日本代表が、南アフリカ相手にスクラム組もうぜ!」
2015年大会で、ブライトンの奇跡を起こした試合の矢野武さんの名実況です。
年々成長を重ねる日本代表の戦いに、国内はもちろん海外が熱狂しています。
強力な武器スクラムを手に、再び世界を沸かせる日本代表に期待がふくらみます。