国歌。スポーツの国際試合では、必ずといっていいほど歌われる重要な存在です。
大成功に終わったラグビーワールドカップ2019年大会では、プレーもさることながら、国歌にも注目が集まりました。
外国出身の日本代表選手が日本出身の選手とともに国境を越えて『君が代』を歌う姿も素晴らしく、話題になりました。
感極まり涙を流す選手や、気持ちを昂ぶらせる為、国歌を歌い、涙する選手たち。
対南アフリカ戦で、国歌を歌う流選手の涙は美しかった。
スクラムユニゾンという存在。
釜石鵜住居復興スタジアムで行われたフィジー対ウルグアイの試合では、ウルグアイ国歌を選手と共に熱唱するマスコットキッズに絶賛の声が上がりました。
試合後に、ウルグアイの主将“ファンマニエル・ガミナラ”選手は、この少年の素晴らしいパフォーマンスに感謝の言葉を述べました。
違う国の国歌を歌うということは、以前は考えられないものでした。
それを、この日本で実現できた背景には、『スクラムユニゾン』というプロジェクトが大きく関わっています。
元日本代表で、ドラマ『ノーサイド・ゲーム』での“浜畑譲”役でも話題になった廣瀬俊朗さんと、村田匠さん、田中美里さんが主導して立ち上がった企画です。
国歌で各国をもてなそう、と始まったこの企画は、ワールドカップ期間中に瞬く間に浸透。
各地のスタジアムで、対戦する両国の国歌を歌う人々の様子が映し出されました。
特に印象的だったのが、北九州のミクニワールドスタジアムで行われたウェールズの公開練習での出来事。
スタジアムに姿を現したウェールズの選手達を歓迎する為に、1万5000もの人によるウェールズ国歌が響き渡りました。
このサプライズに、ウェールズの選手達は拍手を送りました。
この素晴らしいおもてなしで最も驚くべき事は、集まった人々がウェールズ語で国歌を歌ったということ。
ウェールズの母国語であるウェールズ語ですが、実はウェールズ国民の人でもウェールズ語で国歌を歌えない人は少なくないそうです。
それを異国の人が歌う、その努力と精神に感動する声が相次ぎました。
“ラグビーアンセム”とは?
さて、そんな国歌ですが、実はラグビーにおいて国歌を歌わない国も存在します。
それが、アイルランドという国です。
ラグビーワールドカップのプール戦で日本と戦った国ですから、印象に残っている人も多いかと思います。
ワールドカップ前には世界ランキング1位になるなど伝統ある強豪国で、その国を破った日本対アイルランドの戦いは、
として世界中を駆け巡りました。
その試合を語るのは後日として、何故アイルランド代表が国歌を歌わないのかに、ついて紹介していきます。
アイルランド島は、北アイルランドとアイルランド共和国の2国に分割されています。
その為、1930年代までアイルランドは国歌を歌うことはありませんでした。
しかし、アイルランドのラグビー協会は国が分割される前から存在しており、両国から選手を集めて代表を結成しています。
そこで、妥協案として北アイルランドでの試合の際はイギリス国歌である『God Save The Queen』を歌い、アイルランド共和国での試合ではアイルランド共和国の国歌である『Amhran na bhFiann(兵士の歌)』を歌うことにしました。
そんな中、1987年に悲劇が起こります。
第1回ラグビーワールドカップの開催年でもあったこの年、アイルランド代表の3選手が爆破テロに巻き込まれます。
その事件によって、1人の選手生命が絶たれてしまいました。
この事件もあり、当時のアイルランド代表のキャプテンは全ての国が国歌を歌うことを批判しました。
そして、1995年。3回目となるワールドカップの年となりました。
アイルランドラグビー協会は、場所によって違う国歌を歌うというしきたりを変える為、作曲家に国歌の代わりとなる曲を要請。
そうして出来上がったのが、『アイルランズ・コール』です。
アイルランズ・コールの歌詞には、国を越えて、肩を組み、奮い立つ。
そんな意味が込められています。
歌詞の詳細は、こちらの方が書いてくださっています。
北アイルランド、アイルランド共和国の2つの国を背負って歌う、ラグビーアンセム。
歴史の背景を知ることで、アイルランズ・コールの聴き方も少し変わってくるのでは無いでしょうか。
ところで、ラグビーワールドカップ2019年でアイルランド代表をキャプテンとして率いたローリー・ベスト選手がアイルランズ・コールを歌わないのをご存知ですか?
ワールドカップを最後に代表を引退した偉大なキャプテンは、チームメイトがアンセムを歌う中、ひとり静かに聴いています。
何故アンセムを歌わないのかという批判もあるようですが、彼は試合前にアンセムを歌うと気持ちが昂ぶりすぎるので、静観しているみたいです。
まとめ
アンセムを歌い気持ちを昂ぶらせる選手もいれば、気持ちを抑える為に歌わない選手もいる。
アンセムを歌い涙する選手の胸の内に思いを馳せるのも、ラグビーの楽しみ方の1つかもしれません。