photoAC 『ラグビーに奇跡はない。』 スポーツでは、弱小とされるチームが強豪チームを倒す、いわゆる“番狂わせ”が観ている人を熱狂させます。 番狂わせはどんなスポーツにも起こり得ることではありますが、その頻度には大きな差があります。 とかく、番狂わせが起きないスポーツといわれる、ラグビー。何故、ラグビーでは番狂わせが起きないのか。 その理由を、 1. セットプレー(セットピース) 2. フィジカル 3. 総合力のスポーツである の3つの要因から解説していきます。 1. セットプレー(セットピース) ラグビーの核となる要素のひとつが、“セットプレー”です。 スクラムや、ラインアウトがそれに当たります。 軽度の反則(ノックオンやスローフォワード)が起きた際にはスクラムでプレーが再開され、 重度の反則(ノットロールアウェイやオフサイド)が起きた場合は、タッチキック→ラインアウトやペナルティゴール(PG)を選択出来ます。 スクラムやラインアウトは、フォワードの見せ場のひとつです。 ラグビーワールドカップ2019年大会では、スクラム、特に“フロントロー”と呼ばれる前3列の選手の重要性が注目され、フォワード経験者としては非常に誇らしくなりました。 さて、そのセットプレーはフォワードの華ともいえるプレーであり、またフォワードの実力差を如実に表すものでもあります。 スクラムひとつとっても、押す力の強さや向き、体勢の高低など、相手との駆け引きが数多く存在します。 フロントローが崩されてしまえば、その時点で反則となり、相手にペナルティキックの権利が渡ります。 他にも、スクラムを真っ直ぐに押していない、レフェリーの合図の前に押してしまう…など、フォワード8人がまとまって組まなければ、スクラムは相手にとって恰好のチャンスとなってしまいます。 ラインアウトに関しては、身長の差が大きく勝敗を左右します。 味方が相手よりたった5cm低いだけで、ラインアウトは厳しい戦いとなります。 ワールドカップ2019年大会の準々決勝、日本対南アフリカでは、南アフリカの圧倒的な高さの前に敗れてしまいました。 強いチームは、得てしてセットプレーに強く、相手にプレッシャーをかけることができます。 安定したセットプレーが組めるかどうかは、勝敗に大きく関わってきます。 2. フィジカル ラグビーはコンタクトスポーツですから、当然フィジカルの強いチームは非常に有利…
『ラグビーに奇跡はない。これは練習の成果』 ラグビーワールドカップ2015年大会で、“ブライトンの奇跡”と呼ばれた大番狂わせを起こした、 日本代表のフルバック五郎丸歩選手の言葉です。 当時、ワールドカップでは世界一勝率の高かった南アフリカ代表と、世界一勝率の低い日本代表との戦い。 誰の目にも、南アフリカが優勢であることは明白でした。 その南アフリカ相手に、どうやって日本は勝利を掴みとったのか。 そして、その4年後の“静岡の衝撃”との共通点。 それらについて、 圧倒的な練習量 総合力の勝利 の2点から解説していきます。 1. 圧倒的な練習量 これまでの日本代表は、2011年大会までわずか1勝、2引分と精彩を欠き、日本代表に期待する声は無くなっていました。 日本代表の歴史の詳細については、またの機会に。 そんな中、2012年に日本代表のヘッドコーチには、エディー・ジョーンズが就任しました。 就任当初から日本人選手を中心としたチーム作りに励み、アジア相手には無敗を誇りました。 2013年にはイギリス4ヶ国の1つ、ラグビー大国ウェールズ相手に初勝利を挙げるなど、次第に勝ちを重ねていきました。 2014年にかけてはテストマッチ11連勝を記録し、負け慣れしていた日本代表は、勝利を自分たちのものにしていきました。 そして、迎えた2015年。 ワールドカップ初戦、対南アフリカ戦。 “ブライトンの奇跡”が起こります。 さて、この番狂わせとも言われる1戦ですが、選手・関係者は口を揃えて『必然だ』と言います。 選手たちが、何故必然と言えるのか。 それは、ワールドカップ前の120日にも及ぶ壮絶な合宿にありました。 これまでの日本代表の必敗パターンは、序盤に善戦するものの、中盤には失速。 体力の無くなった終盤に、大きく引き離されてしまう、というものでした。 『ラグビーに奇跡はない。』 最も番狂わせが起きないスポーツ、ラグビー。 その理由とは? この記事でご紹介したとおり、ラグビーは3つの要因が揃って初めて強いチームとなれます。 しかし、以前の日本代表はフィジカル面で他国に劣り(特にティア1の国には)、セットプレーでも歯が立たないという状態でした。
国歌。スポーツの国際試合では、必ずといっていいほど歌われる重要な存在です。 大成功に終わったラグビーワールドカップ2019年大会では、プレーもさることながら、国歌にも注目が集まりました。 外国出身の日本代表選手が日本出身の選手とともに国境を越えて『君が代』を歌う姿も素晴らしく、話題になりました。 感極まり涙を流す選手や、気持ちを昂ぶらせる為、国歌を歌い、涙する選手たち。 対南アフリカ戦で、国歌を歌う流選手の涙は美しかった。 photoAC スクラムユニゾンという存在。 釜石鵜住居復興スタジアムで行われたフィジー対ウルグアイの試合では、ウルグアイ国歌を選手と共に熱唱するマスコットキッズに絶賛の声が上がりました。 試合後に、ウルグアイの主将“ファンマニエル・ガミナラ”選手は、この少年の素晴らしいパフォーマンスに感謝の言葉を述べました。 違う国の国歌を歌うということは、以前は考えられないものでした。 それを、この日本で実現できた背景には、『スクラムユニゾン』というプロジェクトが大きく関わっています。 元日本代表で、ドラマ『ノーサイド・ゲーム』での“浜畑譲”役でも話題になった廣瀬俊朗さんと、村田匠さん、田中美里さんが主導して立ち上がった企画です。 国歌で各国をもてなそう、と始まったこの企画は、ワールドカップ期間中に瞬く間に浸透。 各地のスタジアムで、対戦する両国の国歌を歌う人々の様子が映し出されました。 特に印象的だったのが、北九州のミクニワールドスタジアムで行われたウェールズの公開練習での出来事。 スタジアムに姿を現したウェールズの選手達を歓迎する為に、1万5000もの人によるウェールズ国歌が響き渡りました。 このサプライズに、ウェールズの選手達は拍手を送りました。 この素晴らしいおもてなしで最も驚くべき事は、集まった人々がウェールズ語で国歌を歌ったということ。 ウェールズの母国語であるウェールズ語ですが、実はウェールズ国民の人でもウェールズ語で国歌を歌えない人は少なくないそうです。 それを異国の人が歌う、その努力と精神に感動する声が相次ぎました。 “ラグビーアンセム”とは? さて、そんな国歌ですが、実はラグビーにおいて国歌を歌わない国も存在します。 それが、アイルランドという国です。 …
ラグビーワールドカップ2003年大会決勝戦で、イングランド代表ジョニー・ウィルキンソンが魅せた決勝点となるドロップゴールは、今も伝説の名場面として語り継がれています。 ドロップゴールは試合を優位に進めるための先制パンチや、起死回生の場面でよく用いられます。 しかしドロップゴールは試合中何度も起きるプレーではないため、ドロップゴールとはどういうプレーなのかとラグビーを見始めたばかりの人は疑問に思うかもしれません。 そこで、この記事では ドロップゴールがどんなプレーなのか ドロップゴールの名場面 について解説します。 ドロップゴールとは? photoAC ドロップゴールとは、ドロップキックとよばれるボールを一度バウンドさせてから蹴るプレーでの得点方法です。 プレーが止まった状態でおこなわれるペナルティキックと違い、ドロップゴールを狙うときはインプレー(プレーが継続している状態)でドロップキックを蹴り、ボールがゴールポストの間を通ると得点が入ります。得点は、ペナルティゴールと同じく3点です。 ドロップゴールはひとつの試合で一度も起こらないことも多く、珍しいプレーといえます。 しかし、トップレベルのテストマッチではディフェンスのレベルが非常に高いためトライをとるのが難しく、ドロップゴールは貴重な得点源です。 ドロップゴールのリスタート方法 ドロップゴールが成功すると、3点が加算されリスタートはトライやペナルティゴールが決まったときと同様にキックオフとなり、フィールド中央で相手チームのドロップキックで試合が再開されます。 ドロップゴールが失敗した場合は、ドロップアウトとよばれる敵陣22メートルラインの内側からの相手チームのドロップキックで再開となります。 ドロップゴールの名場面 ラグビーワールドカップ2003年大会決勝戦 ドロップゴールの名場面といえば、やはりラグビーワールドカップ2003年の決勝戦です。 オーストラリア代表“ワラビーズ”とイングランド代表の試合は、両チーム1トライ3PGで14-14の同点となり延長戦に突入します。 延長戦の前半で互いに1つのPGを決め、試合は17-17に。 延長戦後半の終了間際に、ジョニー・ウィルキンソンがドロップゴールを決め、イングランド代表が20-17でワラビーズを下し優勝しました。 この大会で北半球の国は初めてワールドカップを制覇し、北半球にウェブ・エリス・カップを持ち帰…
「ウェールズが、スクラム組もうぜ!」 ラグビーワールドカップ2019年大会準決勝、ウェールズ対南アフリカ戦でウェールズがスクラムを選択したときの、矢野武さんの名実況です。 後半20分過ぎに9-16で劣勢のウェールズが敵陣深くでペナルティをもらい、スクラムを選択したことで会場からは大歓声が起きます。スクラムを選択したウェールズは、見事にトライを決め同点に追い付きました。 観るものを熱くさせるスクラムは、歴史ともにルールが変わっています。 現在のスクラムに至るまでの、ルールの変遷を解説していきます。 スクラムの歴史 photoAC スクラムには、もともと現在のように明確なポジションわけはされていませんでした。 スクラムを組む位置に初めに近づいた選手が、フロントローの役目を担います。 1900年代前半のニュージーランドは、2-3-2のフロントローを2名にし7名で組む特殊な戦術を用いて戦っていました。残り1名のフォワードは、自チームのスクラムではボールを投入する役目を果たし、相手チームのスクラムではスクラムハーフを妨害する役割を担うポジションでした。 この戦術はハーフの邪魔をすることが批判され、のちに禁止されます。 現在のポジション編成になったのは? 1906年に南アフリカ代表のスプリングボクスは、初めて3-4-1のフォーメーションでスクラムを組みました。 1906年に初めて組んでから、1949年までに3-4-1のポジションで構成するスクラムを完成させます。 スプリングボクスのスクラムは、フッカーの動きを自由にし、スクラムに投入されるボールを素早く列の後方に蹴りだせるようなかたちをとります。このスクラムのかたちが出来たころ、タイトヘッドとルースヘッドという言葉がラグビー用語となります。 1960年代には、ルールの変更が行われます。当時はフランカーがスクラムでバインドをする必要がなく、オフサイドラインはボールの位置で決まっていたため、フランカーは簡単にスクラムハーフにプレッシャーをかけることができていました。 ルールが変更されてからは、スクラムの最も後ろの足がオフサイドラインとなり、フランカーもバインドが義務化されます。 同時に、ナンバーエイトがスクラムからボールを離すことができるようになっています。 スクラムのコール・ルールの変遷 photoAC スクラムのコールは、2007年に大きく変わります。もとはクラウチ、…
街にあふれる ”ワールドカップ感” 「外人さんが多いと思ったら、ワールドカップか」 仕事に追われる慌ただしい毎日を送り、こんな言葉を発する同僚のような人もきっといると思うが、街中はなんとなく浮き立ち、わくわく感に包まれている。 久しぶりの感覚だ。 わが街で、ラグビーワールドカップの試合が行われている。 東京のような大きな街では感じられないかもしれないが、地方の街なら十分にその雰囲気は味わえる。なかなか悪くはない。来年は、東京は五輪感にあふれるのだろう。 ラグビーには全く興味のなかったが、ラグビーファンの友人に声をかけてもらうと二つ返事で観戦すると決めた。いわゆるラグビービギナー、ファンとまでも言えない、“にわか者”だ。 ラグビーワールドカップ1次リーグ アイルランド対ロシア戦。 「3,000円のクソ席だよ」とチケットを手配してくれた友人は言っていたが、ゴール真後ろの少し上段の席。にわか者には十分な席だ。当日は雨だったが、なんと冷房の効いた屋根付きスタジアムで予想外に快適に観戦することができた。地元にこんなスタジアムがあるとは知らなかった。 スタジアムの2時間も前に入場した私たちは、練習風景を観られるのも楽しみにしていた。と言っても、選手一人ひとりを認識することもできないが、気分は次第に盛り上がってくる。なんとなくだが、ルール通りにきちんと練習するアイルランドチーム。対照的に、これもなんとなくだが、適当にボールをキックするロシアチーム。練習中、何度もゴールを超えてボールが観客席に飛び込んできた。ちょっとラグビーに通じている友人の話によると、試合前にそんな練習をするチームはないそうだ。なんだか結果が見えてきた。 よく見るとそのような選手の上をドローンが縦横無尽に動き回っている。しかし、さらによく見ると、そのドローンのようなものは細いワイヤーにつながれていた。これもドローン? いずれにせよ、このカメラのおかげでコートの中の選手に近い、リアルな映像が、テレビで見れるわけだ。 試合前には、両国の国歌が流れる。 なんと一緒に観戦した友人の一人は、手書きした両国国歌の歌詞を見ながら堂々と歌い上げた。この数日、練習していたそうだ。特にどちらの国に思い入れがあるとか、ラグビー好きではないそうだが、楽しむことに邁進するその精神は尊敬に値する。 青春ドラマでは描かれなかったラグビー精神 ラグビーのルールの一夜…
photoAC 大成功に終わった、ラグビーワールドカップ2019年大会。 その大会の中でよく聞かれた言葉のひとつが、『ティア1』、『ティア2』という言葉。 ラグビー界において、階級を表す言葉です。 日本は現在ティア2に所属していますが、ワールドカップ2019大会ではティア1の国、アイルランド・スコットランドを倒し、世界に衝撃と感動を与えました。 この階級分けがどういった意味を持つのか。 ティア1、ティア2の区別と、その展望について解説していきます。 1. ティア(階級)とは? ラグビーにおいて、ティアとは強さや伝統、格式をもとに分けられた階級のことをいいます。 ティア1が最上位に属しており、そのいずれもが強さを誇るだけでなく、 ラグビー界において歴史や伝統が重んじられる国々でもあります。 ティア2は、そのティア1に次ぐグループと位置づけられており、日本やワールドカップで日本と同グループであったロシア、サモアらが該当します。 その下にはティア3と呼ばれるグループがあり、ティア3についてはラグビーが発展途上の国々を指します。 この階級分けは非常に重要で、テストマッチと呼ばれる国際試合は、 基本的に同ティア内で行われるため、強豪国との対戦機会を増やすには、ティア1に昇格するほかありません。 現在ティア1に所属している国は、以下の通りです。(国名-順位) 南アフリカ-1 ニュージーランド-2 イングランド-3 アイルランド-4 フランス-5 ウェールズ-6 オーストラリア-7 スコットランド-8 アルゼンチン-10 イタリア-14 南アフリカ・ニュージーランド・オーストラリア・アルゼンチンは、 “ザ・ラグビーチャンピオンシップ”と呼ばれる南半球最強を決める大会に参戦、 イングランド・アイルランド・フランス・ウェールズ・スコットランド・イタリアは、 北半球最強を決定する“シックスネーションズ”に参戦しており、 毎年最高峰レベルの試合を繰り広げる伝統国です。 アルゼンチンは、近年までティア2の国のひとつでしたが、 ワールドカップ2007年大会で3位、2011年大会でベスト8になるなど結果を残し、 2012年にザ・ラグビーチャンピオンシップへの参戦を認められ、ティア1に昇格しました。 さて、日本の所属しているティア2の国々は、以下の様になります。 日本-9 フィジー-11 ジョージア-12 トンガ-13 サモア-15…
パシフィックアイランダーとは? パシフィックアイランダーとは、太平洋諸島の人々のことを言います。 photoAC ラグビー界では、特にパシフィック・アイランダーズという合同チームを結成したフィジー・サモア・トンガの三ヶ国が有名です。パシフィック・アイランダーズは、欧州や南半球の強豪に対抗するため上記の三ヶ国で結成されましたが、経済的に有益でないと判断され、現在は活動を停止しています。 ラグビー界では、5人に1人が上記の三ヶ国にルーツを持つと言われています。ラグビーワールドカップ2019年大会でも、パシフィックアイランダーが強豪国のスコッドに名を連ねています。 現役のパシフィックアイランダー代表選手 オールブラックス ネポ・ラウララ-サモア オファ・トゥンガファシ-トンガ シャノン・フリゼル-トンガ セヴ・リース-フィジー ワラビーズ トゥル・ラトゥ-トンガ タニエラ・トゥポウ-トンガ イシ・ナイサラニ-フィジー サム・ケレヴィ-フィジー テヴィタ・クリンドラニ-フィジー マリカ・コロイベティ-フィジー 強豪国の主力になる実力を持つパシフィックアイランダーの国々が、ティア2に甘んじている理由。 そして、パシフィックアイランダーに未来はあるのか。 アイランダーの歴史 ラグビー界でのアイランダーの歴史は、100年以上前から続いています。 フィジー・サモア・トンガの三ヶ国は、1924年8月に初めて国際試合を経験しました。三ヶ国が対戦する形で初の国際試合が行われたのです。 三ヶ国はその後1982年にパシフィック・トライネーションズを開催するなど、互いにしのぎを削りました。パシフィック・トライネーションズは、現在パシフィック・ネーションズカップとなり、日本も参加しています。ティア2の国々の強化を目的とした大きな大会へと発展しました。 ラグビーワールドカップへの参加