『ラグビーに奇跡はない。これは練習の成果』
ラグビーワールドカップ2015年大会で、“ブライトンの奇跡”と呼ばれた大番狂わせを起こした、
日本代表のフルバック五郎丸歩選手の言葉です。
当時、ワールドカップでは世界一勝率の高かった南アフリカ代表と、世界一勝率の低い日本代表との戦い。
誰の目にも、南アフリカが優勢であることは明白でした。
その南アフリカ相手に、どうやって日本は勝利を掴みとったのか。
そして、その4年後の“静岡の衝撃”との共通点。
それらについて、
- 圧倒的な練習量
- 総合力の勝利
の2点から解説していきます。
1. 圧倒的な練習量
これまでの日本代表は、2011年大会までわずか1勝、2引分と精彩を欠き、日本代表に期待する声は無くなっていました。
日本代表の歴史の詳細については、またの機会に。
そんな中、2012年に日本代表のヘッドコーチには、エディー・ジョーンズが就任しました。
就任当初から日本人選手を中心としたチーム作りに励み、アジア相手には無敗を誇りました。
2013年にはイギリス4ヶ国の1つ、ラグビー大国ウェールズ相手に初勝利を挙げるなど、次第に勝ちを重ねていきました。
2014年にかけてはテストマッチ11連勝を記録し、負け慣れしていた日本代表は、勝利を自分たちのものにしていきました。
そして、迎えた2015年。
ワールドカップ初戦、対南アフリカ戦。
“ブライトンの奇跡”が起こります。
さて、この番狂わせとも言われる1戦ですが、選手・関係者は口を揃えて『必然だ』と言います。
選手たちが、何故必然と言えるのか。
それは、ワールドカップ前の120日にも及ぶ壮絶な合宿にありました。
これまでの日本代表の必敗パターンは、序盤に善戦するものの、中盤には失速。
体力の無くなった終盤に、大きく引き離されてしまう、というものでした。
この記事でご紹介したとおり、ラグビーは3つの要因が揃って初めて強いチームとなれます。
しかし、以前の日本代表はフィジカル面で他国に劣り(特にティア1の国には)、セットプレーでも歯が立たないという状態でした。
その為、速さを活かしたラグビーを展開しても、フィジカルで押されて自分たちのプレーが出来なくなりました。
それを改善する為、世界一過酷ともいわれる合宿を敢行し、80分間ハードワークし続ける体力と、強国に負けないフィジカルを作り上げました。
その結果、フィジカルを全面に押し出すラグビーをする南アフリカ相手に、
一切オフロードパスを使わない戦略を取り、
細かいパスを繋ぎコンタクトし続け、相手のペナルティから得点するという試合展開を実行することが出来ました。
スタッツでは長年の課題であったセットプレーではスクラム勝率100%、ラインアウト勝率92.3%と数字上でも南アフリカと互角でした。
序盤はペナルティゴールを狙わずラインアウト→モールの黄金パターンで攻めていた南アフリカが、
終盤にはペナルティゴールを狙ったことからも、南アフリカの焦りは伺えました。
ダブルタックルを駆使し、80分間ハードワークを続けた日本代表の勝利は、まさに必然でした。
2. 総合力の勝利
さて、2015年大会で南アフリカを破り、次戦でスコットランドに敗れたため惜しくも決勝トーナメント進出はならなかった日本代表。
2019年大会は自国開催ということもあり、初の決勝トーナメント進出が期待されました。
しかしプール戦の相手は、ワールドカップ直前で世界ランキング1位となった、アイルランド代表。
残る3試合に勝利することは出来ても、アイルランドには勝てないだろう、
というのが大方の予想でした。
しかし、日本代表はまたしても『必然の奇跡』を巻き起こします。
2016から日本代表のヘッドコーチに就任したジェイミー・ジョセフは、エディージャパンとは違うチーム作りに努めました。
スーパーラグビーでニュージーランドカンファレンスの『ハイランダーズ』を指揮し優勝に導いたジェイミーは、
ニュージーランドらしいキックを多用し、オフロードパスを駆使し展開していくラグビーを選手に求めました。
オフロードを禁止していたエディーの頃とは真逆とも言えます。
就任当初は急激な戦術の変化についていけない選手が戸惑ったものの、ウェールズ相手に惜敗するなど惜しい試合もありました。
『ONE TEAM』のスローガンを抱えるジェイミージャパンは、
2018年から1年かけてエディージャパンの倍となる240日にも及ぶ、間違いなく世界一過酷な合宿を敢行しました(エディーの時よりもキツかったそうです)。
その甲斐もあり、日本代表は選手自身でチームの問題を話し合い、解決してくだけのチームワークと実力をつけていました。
そして、ラグビーワールドカップ2019、対アイルランド。
キックでエリアを獲得する戦術から、
細かいパスを繋いでアタックしていく戦術へと切り替え、アイルランドに正面から当たっていきました。
素早い攻めでアイルランドに考える時間を与えず、プレッシャーをかけ続けました。
アイルランドも非常にフィジカルに優れたチームで、セットプレーの強さには定評がありました。
しかし、そんなチーム相手にも日本代表は全くの互角。
この試合も日本代表のスタッツは非常に素晴らしく、
スクラム勝率100%、ラインアウト勝率87.5%はどちらもアイルランドを上回ります。
前半こそ2トライを奪われるなど防戦が続きましたが、
後半になると日本代表はアイルランドを圧倒し続け、付け入る隙を与えませんでした。
体格で劣りながらも、想像を絶するような練習量でフィットネスを向上させ、
練習で培った総合力を武器に、強豪国に渡り合えるようになった日本代表の姿が、そこにはありました。
まとめ
No one thinks we can win.
No one thinks we can even come close.
No one knows how hard you’ve worked.
No one knows what sacrifices you’ve all made.
You know we’re ready.
I know you are ready now.
アイルランド戦を前に、ジェイミー・ジョセフが読んだ詩です。
ワールドカップに向けてラグビー漬けの日々を送った日本代表。
奇跡を起こす為に、どれだけの犠牲を払ってきたのか。
私たちには知り得ません。
しかし、勝利を掴みとったのは、間違いなく練習の成果です。
初の決勝トーナメント進出を果たした日本代表が4年後にどんな結果を見せるのか、
今から目が離せません。