喫煙する場所が少なくなりました。路上喫煙は間違いなく悪いことです。
建物の中もほとんどが禁煙です。
パートナーと買い物に行くとき、特にパートナーが洋服を買うときには間が持ちません。以前なら出口のベンチで待っている場所で煙草を吸うことができました。例えできなくとも出入り口の付近に灰皿が設置されていました。しかし、今はかなり探さないと灰皿があいません。遠くまで行かないときに限って、パートナーは早めに買い物を終えて待ち合わせ場所に戻っています。そして、「どこ行っていたの、煙草ぐらいがまんできないの」と罵声を浴びることになります。
「健康のために禁煙すべき」というのが家族が禁煙をすすめる時の決まり文句になっています。
禁煙外来というのもできています。煙草を止めることは治療として扱われているということを示しています。ある条件を満たせば煙草を止めさせる治療には健康保険が使えます。
こんな状況なら、禁煙してみようと考えていませんか?
今回は健康保険が使える禁煙方法を紹介します。
禁煙外来でよく用いられる禁煙補助薬であるチャンピックスにまつわる医師と厚生労働省の戦い、そして治療中の注意点をお話ししたいと思います。
禁煙治療に健康保険が使えるようになるには
◆喫煙は病気でしょうか?
喫煙の害に関しては色々データがあります。ですが喫煙自体は病気ではありません。
◆何故禁煙治療に保険が使えるようになるのか?
禁煙に健康保険が効く場合は、「ニコチン依存症」という病気の治療としてです。
禁煙しようとしてできないのは「ニコチン依存症」になっているからです。そして、この「ニコチン依存症」を直すことは治療となります。このニコチン依存治療によって、結果として禁煙もできるようにもなります。
つまり禁煙治療は「ニコチン依存症」の治療として健康保険が適用される場合があるのです。
公共の福祉と喫煙
◆受動喫煙
現在、屋内で喫煙することがとても難しくなっています。これは健康増進法の一部改正が平成30年に行われた事によります。健康増進法が一部改正されたのは「受動喫煙対策」であり、喫煙者の健康を考えたものではありません。
受動喫煙とは喫煙者の周りの人が喫煙者と同じかそれ以上に煙草の煙に含まれる有害物質を摂取することです。当然、肺がん、大腸がん、慢性呼吸器疾患などのリスクが上がるからです。
お金を払って吸っている人は、リスクを認識した上で吸っているのに対し、受動喫煙は他人が原因でリスクが高くなります。従って、受動喫煙が生じることは公共の福祉を阻害することになり憲法上は受動喫煙は防止すべきであり、基本的人権である喫煙も制限されます。関係する憲法を以下に引用します。
第12条〔自由・権利の保持の責任とその濫用の禁止〕 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
第13条〔個人の尊重・幸福追求権・公共の福祉〕 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
ですから、この健康増進法の改正は幸福追求に対する国民の権利を阻害するもので憲法違反であると政府を訴えても、「喫煙場所の自由化は、受動喫煙が生じる可能性を高めることから公共の福祉に反する」ので窓口ではねられます。
煙草には税金がたくさんかかっているから自由に吸わせろという人もいますが、これはさまざまな病気のリスクが増えることは社会的なコストが増えるから税金が増えるという政府の論理ですので、健康保険料が毎年黒字になるなどの社会的な転換がないとその論理は通りません。煙草の定価の60%が税金です。
◆余談・喫煙が公共の福祉に明確に反するとしたら?
喫煙が健康に害があり、公共の福祉に反するものであるならば、麻薬や覚醒剤のように喫煙そのものが医療用以外は禁止になります。
大麻を医療用に解禁すべきだと主張する人がいます。
本当に解禁するべきだというのならば、外国では解禁しているところがあるなどを根拠にせずに、薬効をしっかり日本人で確かめて論文にして厚生労働省に承認を求めればいいことです。
「ダメ、ゼッタイ」が有名な覚醒剤禁止のポスターがあります。
覚醒剤であるアンフェタミンは、医療用医薬品として承認されています。この医療用医薬品は子どもに使われる薬なので、ポスターの影響で親がこの医療用医薬品を使うことに二の足を踏むことがあります。
健康保険適用による禁煙治療の実際
禁煙には自分の意志で行う、薬局で禁煙補助薬を購入して行う、禁煙外来で治療を行うの3種類があります。禁煙外来では健康保険が使える場合があります。
◆禁煙外来で健康保険を適用した禁煙治療の概略
(禁煙治療のための標準手順書 第7版)禁煙外来で治療を行うのは「ニコチン依存症」です。この病名がついた時には健康保険が使えます。「ニコチン依存症」の条件は以下の通りです。
- 直ちに禁煙しようと考えている
- ニコチン依存症のスクリーニングテスト「Tobacco Dependence Screener」(以下 TDS と呼ぶ)が 5 点以上である
- 35 歳以上の場合、ブリンクマン指数(1 日喫煙本数×喫煙年数)が 200 以上
- 禁煙治療を受けることを文書により同意
この条件を満たさない場合には自由診療による禁煙治療、簡易な禁煙アドバイス、セルフヘルプ教材がわたされることになります。
「ニコチン依存症」の治療で健康保険を使うには医療施設側にも条件があります。禁煙治療を行うことの看板などの表示がある。医療施設内が禁煙であるなどです。
医療施設内が禁煙という条件があるため、他の治療科の反対が出たところもあります。施設のすぐ外に喫煙場所を作り、対応している病院はいいのですが、それさえしない病院では煙草の吸い殻が病院周囲に増えることから近隣から苦情が出る場合があります。
総合病院の場合には心疾患や胸部疾患で入院している患者の場合には当然禁煙となります。しかし、骨折など禁煙が要求されない場合には、施設内では禁煙ですから病院周囲で吸うことになります。
禁煙治療は下のような流れで行われます。
- 初回診察 「ニコチン依存症」であるかの確認 禁煙開始日の決定 禁煙にあたっての問題点の把握とアドバイス 禁煙補助薬(ニコチン製剤またはバレニクリン)の選択と説明
- 再診 初回診察から 2,4,8,12 週間後 (計 4 回) 喫煙(禁煙)状況や離脱症状に関する問診 禁煙継続にあたっての問題点の把握とアドバイス
これで禁煙ができなかった場合には健康保険は1年以上間隔を開けなくてはいけません。
◆禁煙補助薬 バレニクリン(チャンピックス)
「ニコチン依存症」の症状を抑えるためには少量のニコチンが使われていましたが、投与方法が皮膚に貼るかガムしかありませんでした。
皮膚に貼る方法はニコチンパッチとよばれるものです。皮膚に炎症を起こすと次からは使えません。8週間かけて徐々に小さくして、ニコチン依存から立ち直るようにするのですが、1日中皮膚に貼っておくことを前提にニコチン量が決められているので、シャワーやお風呂で剥がれてしまうとニコチン量が不足して失敗につながります。
ニコチンガムの場合には健康保険では使えません。また、入れ歯などでガムを噛むことができない人もいます。
バレクリン(チャンピックス)はニコチン依存症の離脱症状(いわゆる煙草がきれてイライラするなどの症状がでること)を抑えるだけではなく、喫煙による満足感も与えることができます。そのため、たくさん使われるようになりました。
◆バレクリンにまつわる医師と厚生労働省の戦い
たくさん使われると、臨床試験ではあまり見られなかった副作用も問題になってきます。その副作用は「傾眠」です。眠くなるという症状がでることです。
あまり問題になるような副作用ではないように思いますが、運転中にこの副作用が発現すると事故につながります。実際にチャンピックス服用中に事故を起こしたことが厚生労働省に報告されました。
その結果、厚生労働省は「運転前や運転中にをチャンピックス服用してはならない」と通告しました。
これには禁煙治療を行っている医者はこの通告に反対しました。事故を起こすのは非常に少数であり、禁止するよりも運転する前には飲むのを避けるぐらいの緩い表現にするように提言しました。ですが、その提言は却下されました。
従って、日常業務で運転する場合にはバレニクリンは処方してはいけないことになりました。
◆運転中に飲んではいけない薬となったチャンピックスを飲んで事故を起こすと厳罰
「小林化工」の水虫の薬に睡眠導入薬が混入する事件がありました。
水虫の薬を飲んだつもりの人が睡眠導入剤を飲まされ、車を運転した人の多くは交通事故をおこしたことが最近注目を浴びました。
眠気を起こす薬には花粉症に用いられる抗ヒスタミン薬があります。眠気がおこる可能性を低くした抗ヒスタミン剤もありますが、0にはできません。
バレニクリンの場合には、抗ヒスタミン薬の眠気よりも強い眠気が来る場合があります。ですが、その割合は抗ヒスタミン薬よりも少ないことはデータで示されした。でも、使用上の注意は変わりませんでした。
病気で突然、気を失う可能性のある人(糖尿病やてんかん)は運転免許を持つことが許されない場合があります。このように道路交通法が改正されたのは最近ですので、運転免許の更新時にチェックが行われます。また、そのような病気で事故を起こした場合には、普通の場合よりも重い刑罰を与えることになっています。
では薬の場合はどうでしょうか?
その薬を常用する場合には、運転免許の入手や更新に問題があります。
しかし、現在のところ処方履歴は個人情報の最たるものですので、警察庁の方で運転免許入手や更新の際に確認することはできません。従って、事故を起こした場合に確認されることになります。
重罰が与えられるのは原則として、薬の説明文書に運転禁止とかいてあるものです。バレニクリンの説明文書には運転禁止と記載されています。
チャンピックスで禁煙治療中の方は、眠気が起こらないことを確認してから自動車運転をすることをお勧めします。
事故を起こした場合、保険金がきちんと出ない可能性があります。
しかしながら、眠気の副作用がでるのは本当に少数です。そのためほとんどの人は関係ありません。しかし、自分は絶対事故を起こさないと思っている人には、たかが禁煙補助剤でも眠気を起こして事故を起こすことは知っておいた方が良いと思います。