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肝細胞がんは医薬品開発対象としてはとても難しい病気です。治験や臨床研究で行われている新しい併用療法へ参加するには

2020/11/26 更新 2020/12/31
Dipolar
Reinhard ThrainerによるPixabayからの画像


かつて私は、C型慢性肝炎を治療する医薬品の開発に携わっていました。

その頃はC型慢性肝炎を治癒に持って行ければ肝細胞がんは予防できるといわれていて、製薬会社はその治療に多くのソースを割いていました。ブレークスルーとなる抗ウイルス剤が開発に成功し(私の会社ではなく、海外の会社です)、C型慢性肝炎はもうしばらくすれば地上からなくなり、肝細胞がんはアルコール性肝炎がなくなれば非常にまれながんになるだろうと予測されるようになりました。

しかし、肝細胞がんはアルコール性肝炎やC型慢性肝炎以外によっても発症することが分かってきました。

肝細胞がんは一般のがんと同じように手術、放射線療法、化学療法及び免疫チェックポイント阻害剤による治療が行われています。さらに肝細胞がんの特有の治療法も存在します。

肺がんでも1年間生存するとその翌年も生存する確率は上がります。これがサバイバー生存率です。サバイバー生存率は生存期間が長くなると長くなることががんセンターなどの研究で示されました。しかし、肝細胞がんは生存期間が長くなってもサバイバー生存率に変化はありません。

肝細胞がんの原因、治療法、サバイバー生存率、そして治験や臨床研究段階の併用療法への参加方法について紹介します。



肝細胞がんの原因 1,2,3)

現在の統計では肝細胞がんの原因はC型肝炎ウイルスの感染です。その次がB型肝炎ウイルス感染、アルコール性肝障害になっています。

その割合はC型肝炎ウイルスが80%、B型肝炎ウイルスが15%、その他が5%となっています。肝細胞がんの発生率、死亡率は減少傾向にあります。

原因はC型肝炎ウイルスの感染者の減少です。2020年のノーベル生理学医学賞がC型肝炎ウイルスの発見に与えられました。C型肝炎ウイルスは(B型も同様です)感染力が弱く、血液感染によって人から人に感染します。

血液製剤からC型肝炎ウイルスがのぞかれるようになってから、麻薬常習者による注射器の回し打ち以外に新規の感染者はいないといわれています。抗ウイルス剤がかなりの割合でC型肝炎ウイルスを排除できることから、20年もたてばC型肝炎ウイルスの感染者はいなくなると予測する向きもあります。

C型肝炎ウイルスに感染しても急性の症状はなにもでません。20%程度の人は感染後20年たつと慢性肝炎の症状を示すようになります。さらにその症状を示した比との1%程度の人が肝細胞がんを発症するといわれています。

B型肝炎ウイルスはワクチンができていることもあり、ウイルスによる肝炎から肝細胞がん進む人は、ウイルス感染がなくなれば無くなることになります。

ウイルス感染以外に肝炎の原因になるのがアルコールです。アルコールの場合には肝炎から肝硬変に進んだところで栄養状態が悪いことから肝細胞がんに進む前に腹部大動脈瘤破裂などで命をなくすことが多くなります。禁酒に成功した場合には肝臓が炎症を起こすことも少なくなり、硬化することも少なくなることから、肝細胞がんの予防としては禁酒の徹底が望まれています。

上記のストーリーがうまく流れればいいのですが、最近はウイルスもアルコールも関係がない、肝炎が臨床上見いだされています。これは肥満が原因の脂肪肝から肝炎に進んでいると考えられています。先ほど述べたウイルス以外で肝細胞がんになるひとが5%程度います。今まではアルコールによるものと考えられてきましたが、脂肪肝から肝炎になり肝細胞がんになっている人がいるかもしれません。脂肪肝から肝炎の筋道は今研究が始まったばかりで、本当に肝細胞がんの原因になるかどうかは明らかになっていません。



肝細胞がんの治療 4,5,6,7)


肝細胞がんの治療の第一選択は手術です。肝臓は生体肝移植で分かるように大きく切り取っても再生する臓器であることから、手術によってがん細胞を切り取れると考えられます。しかし、肝細胞がんの場合には手術が成功しても5年生存率は20%以下と他の臓器がんに比べて低くなっています。切り取ったところとは別の部分でがん細胞が増殖して再発することがよくあります。

手術は患者にとって負担が大きい(イメージとしては小型の車にぶつかったぐらいのダメージだそうです)ので、肝細胞がんに特徴的な治療法が存在します。肝細胞がんではがん細胞のまわりに肝臓の血管が存在していることから、その血管を通して抗がん剤を与える方法、廻りの血管を詰まらせることによってがんに栄養が行き渡らないようにする方法、がんの周りにある程度障害を与えても再生することから、ラジオ波で焼く方法などが工夫されてきました。しかし、結局再発率を下げることができないことから一種の対症療法としてとらえられています。

肝機能が非常に悪くなっている場合には肝臓移植が第一選択になります。

手術や肝臓移植ができない場合には薬物治療を選択することになります。薬物療法は他のがんで第1選択薬で用いられている、さまざまな薬剤が試されてきました。なかなか第一選択になるものは出てきませんでした。

そこに出てきたのがソラフェニブ(商品名ネクサバール)という分子標的剤です。低分子化合物ですので、経口投与が可能な薬剤です。がん細胞の増殖やがん細胞が栄養を摂取するために作る血管の形成を抑えます。同様の作用機序をもつレンバチニブ(商品名レンビマ)が2015年に、2017年にレゴラフェニブ(商品名スチバーガ)が肝細胞がんに対する効能が承認されました。

この3種類の薬剤をどのように使い分けるかに関してはまだ研究途中です。作用機序が同じ事から大きな違いは無いかと思われますが、一つの薬を使った後に再発した場合に他の薬剤を使った場合に効果が見られるという報告があるので、どれから使えば良いかのコンセンサスができるかもしれません。

抗体医薬品としては新生血管阻害剤としてヒト型抗VEGER-2モノクロナール抗体(商品名サイラムザ)が2019年に化学療法後に憎悪した血清AFP値が400ng/ml以上の切除不能な肝細胞がんに適応をとりました。

免疫チェックポイント阻害剤は肝細胞がんに対して効果があると証明されてはいません。今はまだ試している段階というところです。2020年の肝臓学会では色々な免疫チェックポイント阻害剤の研究が報告されています。ニボルマブ(商品名オブジーボ)は一次選択薬としてソラフェニブを上回ることはできませんでした。

現在ではソラフェニブの二次治療で免疫チェックポイント阻害剤が承認されている国もあります。
現在有力視されているのはソラフェニブやその類薬との併用による一次選択薬です。効果の延長が期待されています。



サバイバー生存率 8,9,10)

難治性がんの定義は正式なものはありません。5年生存率が50%を切るものは難治性であるといってもいいかもしれません。肝細胞がんと膵臓がんでは50%を切っているので、対策が必要ながんということになります。

5年生存率は患者が100人いると5年後に何人生存しているかの指標です。長期間生存が得られてくると5年後、10年後どうなるかではなく、何年生存すれば、がんは治癒して他の理由で死亡するかが統計的に解析が可能です。また、治療で1年間生存すれば、4年後の生存期間と治療開始時の5年生存率を比べると前者が高くります。胃がんや大腸がん、肺がん、膵臓がんでもサバイバー生存率は生存期間が長くなるほど高くなってきます。

しかし、肝細胞がんではそのサバイバー生存率の上昇が見られないのです。

仮説は色々立てられます。ひとつは肝細胞がんは多発性である可能性です。肝臓そのものががんになりやすい状態になっているので、がんになった細胞を取り除いてもがんは次から次へと出てくるためにサバイバー生存率の上昇が見られないというものです。これは肝炎ウイルスに対する対応がほぼできった現在では、脂肪肝を肝細胞がんの予防のために治療することになります。これがうまく行けば、その仮説は当たっているかもしれないという段階になります。

肝臓ががんになりやすくなっているという仮説が定説になるためには、肝臓ががんになりやすい状態はどういうものであるかをあきらかにする必要があります。これは遺伝子学的な研究が進めばいずれ明らかになると思われます。



新しい肝細胞がんの治療を受けるには治験や臨床研究に参加することも一つの手段です


治験や臨床研究を探す手段としては、主治医に相談することがまず最初になるかと思います。主治医から最初にこの治験に参加しませんかというのは(口にする方もいるかもしれませんが)、医者の憲法である「ヘルシンキ宣言」に違反するので、治験に詳しい医者ほど伝えるのをためらいます。

しかし、患者からの申出であれば知っていることは全て伝える義務がありますので、参加できる治験や臨床研究を教えてくれると思います。

日本におけて治験や臨床試験を行う場合には第三社に公開することが義務付けられています。したがって、下記の実施中の治験のデータベースが存在します。実際にはどのサイトを選ぶかは作成している所の性格がでます。臨床研究情報ポータルサイトかUNIM臨床試験登録システムがお勧めです。サイトでは対象疾患を肝細胞がんで絞る必要があります。

がんの情報を配信しているオンコロでは肝細胞がんに絞った形で治験情報をまとめています。

注意しなければいけないのは治験や臨床研究では厳密な選択基準と除外基準があり、患者の希望があっても病態が合わない場合にはその治験に参加できません。選択基準・除外基準に関しては主治医と相談が必要です。

治験や臨床試験を登録することが必要なサイト(日本における治験や臨床研究が分かります)

  • 臨床研究情報ポータルサイト 国立保健医療科学院
  • UNIM臨床試験登録システム  大学病院医療情報ネットワーク University hosupital Medical Infomaton Network
  • iyakuSearhの臨床試験情報  日本医薬情報センター
  •  臨床研究実施計画・研究概要公開システム  厚生労働省



最後に

肝細胞がんはC型肝炎ウイルスが抗ウイルス剤によって克服されつつあり、B型肝炎ウイルスはワクチンによって感染することはほとんど無くなってきています。あと10年もすればウイルス感染による肝細胞がんは無くなってくると思います。

アルコール性肝炎による肝細胞がんはアルコール性肝炎から肝細胞癌になるまでに腹部動脈瘤で亡くなる可能性が高いので肝細胞がんを考える際にはあまり考慮する必要はありません。肝炎になる前に禁酒することです。

今問題になってきたのはウイルス、アルコール以外を原因とした肝炎から肝細胞がんにいたるケースが出てきたことです。その肝炎は脂肪肝から発展するものだとされています。脂肪肝は食生活の乱れによって発症する生活習慣病の一つです。糖尿病や高血圧、脂質異常症ほど問題になっていませんが肝細胞がんが予想通りに減少しなかった場合には健康診断や人間ドックに脂肪肝が項目として入るかもしれません9,10,11)。

肝細胞がんは手術、薬物療法以外にも肝細胞がんに特有の治療があります。しかし、サバイバー生存率が増加が見られないという困った特徴があります。

2010年以降新しい経口の分子標的薬剤が出てきて、どの薬が適しているかを試験できる状態になってきました。さらに免疫チェックポイント阻害剤も検討が始まっています。今後は予防だけでなく、治療にも光が見えてくると思います。



参考文献

1) 金子 周一。我が国における肝がん診療の動向  2014 年 103 巻 1 号 p. 1-3 
2)谷合麻紀子。肝がん I.疫学の動向 2014 年 103 巻 1 号 p. 4-10
3)肝細胞がん 基礎知識:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]
4)工藤 正俊他。肝細胞癌薬物療法の最新の進歩 2018, 59 巻, 11 号, p. 587-603
5)日本癌治療学会 肝がん診療ガイドライン 
6)八倉巻尚子 学会リポート◎日本肝臓学会2020 肝細胞癌の1次治療は分子標的薬かICI併用療法か ICI後の分子標的薬投与で予後延長の可能性  
7)肝細胞がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の未来|DRG海外レポート |
8)国立研究開発法人 国立がん研究センター がん生存率の推移に関する大規模国際共同研究
9)伊藤ゆり 探してみよう 読んでみよう 難治性がんの統計 がん患者学会 J-CIPセミナー 2018年12東京都北区に落ち
10)金 守良, 金 啓二 わが国におけるNAFLD/NASHの展望  2016 年 136 巻 4 号 p. 565-572
11)徳山 尚吾他 薬学領域から発信するNAFLD/NASH研究の最前線─基礎研究から薬物治療及び薬剤師活動へのフィードバック─ YAKUGAKU ZASSHI, 2019, 139 巻, 9 号, p. 1145






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