口唇口蓋裂とは 口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)という疾患を知っているでしょうか。ドラマ・漫画『コウノドリ』でも取り上げられ、一般的な認知はぐっと高まったかもしれません。 コウノドリ(6) (モーニング KC) (日本語) コミック (紙)Amazon.co.jpより 唇や口蓋が裂けて生まれてくる先天性疾患で、500人に1人程度の確率で発生するといわれています。必ずしも口唇裂と口蓋裂とを併発するわけではなく、単体の場合もあります。 ざっと分類すると 口唇裂…唇に割れ目がある。 口蓋裂…口蓋(上あご)に割れ目がある。 口唇口蓋裂…唇と口蓋に割れ目がある。 唇顎口蓋裂…唇と顎(上の歯が生えてくる歯茎部分)と口蓋に割れ目がある。 の4種類があり、 さらに右側・左側・両側といった割れ目の場所、不完全性(唇の割れ目が鼻までは到達していない)または完全性(唇の割れ目が鼻まで到達している=鼻の穴が独立していない)といった程度にも個人差があります。 我が子は最重度の口唇口蓋裂 我が子・ユウ(仮名)は“唇顎口蓋裂”であり、“両側”に“完全”な割れ目がある「両側完全性唇顎口蓋裂」、つまり口唇口蓋裂児の中でももっとも重度のタイプです。 そんなユウとの生活を改めて振り返り、治療のことなどにも触れながら記していきたいと思います。 妊娠中の発覚 ユウの口に異常があることが分かったのは妊娠後期のエコーでした。 「口唇裂があるかなあ」という医師の言葉に、「口唇裂って何ですか?」と聞き返したのを覚えています。医師は昔の呼称を教えてくれ、そこでなんとなくイメージすることができました。(現在は蔑称として使われない傾向にあります) ただ、そのとき私が想像していたのは唇の手術を終えた大人の姿で、わずかに唇の形に違和感がある人、というイメージでした。 しかしそれは実際に生まれてくる姿とは大きな差があったのです。 “口唇裂”というワードでインターネット検索をし、愕然としました。 口唇裂で生まれてくる赤ちゃんは“ちょっと唇がゆがんでいる人”などではなく、上唇から鼻のほうにかけて裂けたようになっており、中には鼻の穴まで裂け目が到達している子もいます。そして多くの場合、鼻の変形を伴っています。軽度と思われる子ではすこし唇が引きつったように見える程度のものもありましたが、重度の症例写真のインパクトはすさまじいものでした。 医師は「口唇裂はあると思う…
これまでの記事・重度の口唇口蓋裂で生まれた我が子 ~妊娠から出産まで~ NICUのある病院へ 重度の口唇口蓋裂で生まれたユウは、低体重出生児だったこともありNICUのある病院に転院しました。小さなケースに入れられて救急車で送られるユウを見届けた翌日、私もその病院へ転院。産後の入院生活は病室とNICUとの行き来をすることになりました。 特殊な哺乳瓶・スペシャルニーズフィダー まずはミルクを飲めるようにならなければいけません。上唇がほとんどない状態で生まれてきたため、唇で哺乳瓶の乳首をとらえるということができません。そのためまずは挿管し、胃に直接チューブでミルクを入れていました。 哺乳瓶は口唇口蓋裂児が飲みやすいよう設計開発されたメデラ社/スペシャルニーズフィダーを使用し、飲む練習をしていくことになりました。 ホッツ床(口蓋閉鎖床)の作成 さらに、生後3日目ごろ歯科医の訪問があり、”ホッツ床”を渡され使い方を教えてもらいました。ホッツ床(しょう)は口蓋にはめて使うマウスピースのようなもので、ユウの口蓋に合わせて作られてありました。おそらく、生後すぐに型どりをしたのだと思います。 ホッツ床(口蓋閉鎖床) ホッツ床には口蓋を矯正する効果とともに、口蓋にある大きな裂をふさぐ目的があります。(当時、ユウの口の中を覗くと鼻の粘膜(左右の鼻の穴の間の壁)がすぐ近くに見える状況でしたが、生後1か月もするころにはその粘膜の壁がかなり奥まっていたのには驚きました。) さらに鼻の下に貼るテープ(3Mのマイクロポアーを使用)の作り方、貼り方の指導もありました。これも鼻の下の手前に飛び出した中間顎(ちゅうかんがく)をできるだけ奥に引っ込めるための矯正効果があり、中間顎の位置をなるべく正しくしておくことで口唇裂の手術をしやすくするためのものです。 哺乳の開始 (実際の写真) さて、この哺乳瓶は一般的な哺乳瓶より乳首が長く、唇を使わなくても舌で押し上げることでミルクが出るようになっています。また弱い力でもミルクが出るため、吸啜力がほとんどなかったユウにもぴったりでした。ただ、それでもミルクを飲むために舌を押し上げるというのはとても疲れることのようで、途中で眠ってしまうことが多く、たった5mlのミルクを飲むためにずいぶんな時間がかかります。「起きて~。お口から飲めるようにならないとチューブ外せないよお~」と看護師さんに何度…
これまでの記事 重度の口唇口蓋裂で生まれた我が子 ~妊娠から出産まで~ 重度の口唇口蓋裂で生まれた我が子 ~手さぐりでの生活~ 生後4ヶ月で口唇裂の手術をすることが決まったユウ。NICUに入ってすぐにだいたいの治療スケジュールは聞かされていたため、「ついに来たのだな」という気持ちでした。今回はそんな両側唇裂形成術についての経験を書き記したいと思います。 手術2週間前・術前検査 手術の約2週間前、術前検査が行われました。血液検査・レントゲンと、麻酔医による説明がありました。 レントゲンの撮り方は赤ちゃんならではのものでした。 まずおむつ一枚で台に寝かせ、手首・胸・太もも・足首をベルトで固定。その上からさらにネットを巻きます。 顔も動かないよう両側から板でほっぺたを挟むように固定。そのまま台が垂直に立ち上がり、撮影という流れでした。 「身動きが取れないよう押さえつけるので赤ちゃんはだいたい泣きます」と言われましたが、ユウはきょとんとして撮影が終了しました。 次は麻酔医による説明。ユウは心疾患もあるため、心不全のリスクが通常よりも若干高まるとのこと。改めて手術の怖さを感じ、受け入れなくてはいけない危険性の大きさと向き合うことになりました。 抑制筒の製作 形成外科医の診察の際、術後に使う抑制筒(よくせいとう)を準備しておいてほしいと指示がありました。腕にはめる筒状のもので、肘の関節を曲がらないようにして術後の傷口を触ることを防ぐためのものです。 口唇裂の手術のときには必要になるものと私も認識していましたが、いざ作るとなると意外と難しかったものです。 なんとか作った抑制筒 今はインターネットで作り方がたくさん公開されていたりminneなどのハンドメイドマーケットで販売されていることもあるようですので、そういったものを利用してもいいかもしれませんね。 手術2日前・入院する 病院に慣れる意味も含め、手術の2日前に入院へ。このときのユウは生後4ヶ月半。体重5220g、身長62cmでした。 しかしここで問題勃発。昼には平熱だったユウの体温が夜になって37.7℃に上がってしまいました・・・。 手術は「もしかしたら延期になるかも。明日まで様子をみましょう」と言われました。「延期になったら困る」という気持ちと「このまましなくて済むものならどんなにいいだろう」という気持ちが複雑に交じり合いました。 手術前日・入院2日目 入院し…
重度の口唇口蓋裂で生まれた我が子 ~妊娠から出産まで~ 重度の口唇口蓋裂で生まれた我が子 ~手さぐりでの生活~ 重度の口唇口蓋裂で生まれた我が子 ~生後4ヶ月での両側唇裂形成術~ 前回は、生後4ヶ月のときに行った口唇裂の手術について記しました。今回は口蓋裂の手術について、まずはそれに至るまでの経緯を書きたいと思います。 1~2歳で行われる口蓋形成手術 口蓋裂の手術は一般的に1歳~2歳までの間に、だいたいは体重が10kgを超えてから&一人歩きができるようになってから行われます。 ことばを覚え、発語が盛んになるころ、口蓋形成手術を行い口蓋の裂をふさいでおくことで発音が良くなりやすいと考えられています。ただ、あまり早い時期にすると口蓋の発育を阻害するため、その子の言語発達や成長の具合を見てちょうどよい時期に決定されます。 口蓋形成手術の方式は2種類 口蓋裂の手術方式には2種類あります。 1つはプッシュバック法、もう1つはファーラー法(ファーロー法)です。 プッシュバック法は簡単に言うと口蓋の粘膜を中央に寄せ、後方にずらす方法で、裂幅が広い場合に行われます。粘膜をずらしていくため、部分的に粘膜の欠損が生じます。 ファーラー法は口蓋の筋肉をつなぎ、粘膜をZ状に縫い合わせる方法で、裂幅が狭く自前の粘膜が十分にある場合に限り可能です。骨の露出がとても少ないこと、上あごの発育障害が少ないことなどがわかっています。 (参考…順天堂大学医学部付属 順天堂医院、大阪母子医療センター) 我が子の場合の手術時期決定 さて、我が子ユウの場合です。 形成外科・歯科への定期受診時に、口蓋形成手術の時期についての話がのぼりはじめたのは1歳3ヶ月ごろからでした。ただユウの場合は、全体的に成長がゆっくりで言語発達も遅く、この時点でまだ発語はありませんでした。そのため、医師は”口蓋裂の手術は遅らせてもいいだろう”という見解でした。体重も、2歳ちょうどの時点でようやく10kgになったところでした。 2歳5ヶ月になったころ、矯正歯科医から形成外科の医師にむけて「そろそろ口蓋形成手術を行ってはどうだろう」という打診があり、形成外科医がそれに応じる形で手術日を決定しました。 手術は3ヶ月後、2歳8ヶ月でプッシュバック法で行うことになりました。 このように手術時期は患者の状態をみながら、形成外科・歯科・口腔外科など複数の科の医師が相談した…
これまでの記事 重度の口唇口蓋裂で生まれた我が子 ~妊娠から出産まで~ 重度の口唇口蓋裂で生まれた我が子 ~手さぐりでの生活~ 重度の口唇口蓋裂で生まれた我が子 ~生後4ヶ月での両側唇裂形成術~ 重度の口唇口蓋裂で生まれた我が子 ~口蓋形成手術までの準備~ 今回は、前回に引き続きユウが2歳8ヶ月で行った口蓋形成手術の記録です。 手術2日前 いよいよ入院。・・・の前に、また微熱が出てきたため、予定にはなかった形成外科の診察が入りました。いちおう入院して、オペ当日の具合をみて決行するかどうか決めましょうとのこと。 入院は1年半ぶりなので、ユウは慣れない様子ですこし不安そう。リラックスしてもらうため、ベッドの上でお絵かきしたり絵本を読んだり・・・この日はスキンシップを大切にしました。 この時期はまだ肌寒さの残る春先でしたが、病棟はかなり暑いので微熱ありのユウは薄着でも汗びっしょりに。体温調節が難しいです。 手術前日 病棟にも慣れてきた様子で院内のプレイルームなどで遊ぶユウ。ただまだ体調は万全でないようで、いつもよりも午睡が多めでした。手術前には子どもと向き合って手術の説明と「がんばろうね」を伝えることにしていますが、この日は目をそらし聞いてくれませんでした。 手術当日 朝6時をもって飲水禁止になるため、AM5:45にグッスリ寝ている息子を起こし、水を飲ませます。体温を計り(37.2℃)、麻酔医の診察、形成外科医の診察。手術できるでしょうとのことで、予定通りオペの運びとなりました。 ここで「おいおい!」と思ったのが麻酔医の診察。医師が、自身の手書きのメモを見ながらいくつか確認をしてくださるのですが、それがことごとく間違っており非常に不安になりました。 大学病院は医師も多いため、手術に関わるドクターが直前になるまでわからないというのはデメリットかも。麻酔医なので直接執刀されるわけではないですが確認事項がミスだらけだと不安になるものです。 さて、オペは9時から。前日にできなかった「手術がんばろうねのお話」をして病衣に着替えさせ、時間がくるまでプレイルームで遊びました。 10分前に看護師さんのお迎えがあり、手術室へ移動。義母も来てくれ、主人もこの日は会社を休んでくれました。 12時までの予定だったオペですが、12時になっても13時になっても看護師さんは来ず・・結局、14時前までかかりました。3時間の予…
これまでの記事 重度の口唇口蓋裂で生まれた我が子 ~妊娠から出産まで~ 重度の口唇口蓋裂で生まれた我が子 ~手さぐりでの生活~ 重度の口唇口蓋裂で生まれた我が子 ~生後4ヶ月での両側唇裂形成術~ 重度の口唇口蓋裂で生まれた我が子 ~口蓋形成手術までの準備~ 重度の口唇口蓋裂で生まれた我が子 ~2歳での口蓋形成手術~ 今回は引き続きユウが2歳8ヶ月で行った口蓋形成手術について、術後のことを綴ります。 手術翌日 ユウの体温はまだ38℃近くありました。術後の反応熱とのことです。 少し身体が回復してきたようで、ひとりで座ることができるようになったり、弱弱しくですが手を上げたり指さししたりといった動作をしはじめました。また、昼寝もたくさんしてくれ安心しました。 食事についても、病院のお味噌汁(具なし)をゴクゴクと飲みました。液体なら痛がらずに飲めるようになったようです。絹ごし豆腐はまだまだつぶせないようで、口にいれるとすごく痛がるので中止。普段「やわらかいなあ」と思って食べているものでも術後の傷口には痛むのだなと思いました。 ただ、レトルト離乳食「けんちんうどん」は食べやすいようでした。ほぼどろっとした液体で、ところどころ入っているうどんも小さく、豆腐よりもやわらかいほどなのです。朝と昼と合わせてビン1つが空きました。 病院のご飯もあるのですが、形状によっては食べられるとは限らなかったり(もう少し柔らかく…など都度変更してもらえますが、反映は1~2食後からになるため即座には難しいです)、痛みのために時間通りではなくちょこちょこ食べになってしまったりするので、レトルトの離乳食は持って行って正解でした! 水分がだいぶ取れるようになり点滴を抜いてもらえ、扱いがずいぶんラクになりました。 そしてこの日は主人と交代し、泊まってもらいました。ほとんど眠れていなかったので、私は家でぐっすり眠って睡眠不足解消。 術後2日目 交代すべく病院に行くと、息子がプレイルームで座ってオモチャで遊んでいました。前日はお座りや指差しがやっとだったのに、1日でだいぶ回復しています。 ただ、離乳食をほとんど食べていないと主人から聞いており、また点滴入れられるのは可哀相なので根気よく食べさせました。最初は断固拒否していましたが、けっきょくそれなりに食べました。(それでも全体の10分の1くらい) この日から安静度が院内フリー(病院内…
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