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重度の口唇口蓋裂で生まれたユウは、ほかにもいろいろな疾患がありました。
そのためまずは療育園へ通っていましたが、4歳児から地元の保育園へ通うことになりました。
マイノリティが当たり前である療育園とは違う、保育園という場所でユウがどのようにして受け入れられていったのかを記したいと思います。
見学で子どもたちの雰囲気を見極める
3歳児の後半ごろから保育園の見学がスタートしました。
子どもたちを通じて園のあり方が見て取れると思っていたので、私は子どもたちの雰囲気をよく見ることにしました。
ユウは口唇裂のオペを済ませたといっても、いびつな鼻の形をしています。
日常生活を送っていても、すれ違う子どもにじっと見られたり、「へんな顔!」と言われたりしたこともありました。
まずは視覚的に「人と違う」と感じられるであろうユウに対して、同年代の子どもたちがどんな反応をするのか。
保育園によって子どもたちの様子はさまざまです。なんとなく暗い雰囲気の園の子どもたちは、ユウを遠くから見つめてくるだけでした。
いっぽう、大勢の子どもたちがユウに駆け寄ってきて群がり、
「名前は?」
「なんでこんな鼻なの?」
「何さい?」
と親子でたじろぐほど質問攻めにしてくる園もありました。
私は迷わず後者の園を選びました。
人と違う面も含めてユウに興味を持ってくれ、積極的にかかわろうとしてくれる子どもたちの中にユウを置いてやりたいと思いました。
はじまった園生活
園生活は順調にスタートしました。
明るく、興味津々な子どもたちです。最初の頃はお迎えに行くたびになぜちゃんと喋れないかをよく尋ねられたので、
「お口の中に穴が開いているからしゃべりにくいんだよ」
という話をしました。すると
「見せて」
と言い、ユウもアーンと大きな口を開けて見せます。
「すごい!」「本当や。穴開いてる」
などと子どもたちは反応。中には
「なんで穴が開いてるの?」
とさらに質問を重ねてくる子もおり、それに対してはお腹の中でくっつかなくて、唇はお医者さんにつなげてもらったけど口の中は全部つなげてもらうことはできなかったから、と事実をありのままに伝えていました。
「チーちゃんのくち」を読み聞かせてくれた先生
ところで、入園時に口唇口蓋裂であることを伝えたときに、口唇裂の絵本「チーちゃんのくち」の存在も先生にお話ししていました。
ぜひ見せてほしいと言われ持って行くと、最初から最後まで真剣に目を通してくださったあと「これ、お借りしていいですか」と。
ここには、お腹の中では誰もが口唇裂であること、そしてほとんどの場合はお腹の中でくっついて唇がつながること、でもうまくくっつかずに生まれてくる子がいることなどがイラストで描かれています。
しばらくしてから、子どもたちに読み聞かせをしてくれたと報告がありました。
4歳児(年中)の子どもたちにです。
口唇口蓋裂に対する子どもたちの理解
「チーちゃんのくち」の読み聞かせを経て、その日おうちに帰ってから
「ユウくんはお腹の中でくっつかなかったんだって」
とお母さんに話をしてくれたという子がいました。また、直接私に
「ユウくんはお腹の中で唇がくっつかなかったんだよね。ぼくはくっついたからつながってる。その跡がここ」
と、自分の人中を指さしながら私に確認してきた子もいました。
(人中とは鼻と唇との間にある縦線のことですが、これがお腹の中でくっついた跡だということは大人でも知らない人が多いのではないでしょうか)
これにはとても感動しました。
4歳の子どもであっても、口唇口蓋裂のことをそれなりにしっかりと理解をしてくれることを私は学びました。
「まだ早いから」と言わず、子どもを信頼して読み聞かせをしてくださった先生にも感謝しました。
保育園へは時々早迎えに行き、受診や言語訓練へ連れていくことがありました。
そんなときに
「なんで今日は早いお迎えなの?」
「言葉の練習に行くからだよ」
「行ってらっしゃい!」
というやり取りもよくありました。言語訓練へ行った翌日、
「ユウくん、喋れるようになった!?」
と登園するなり聞いてくる子もいました(笑)。口の中につけているプレートをユウが洗っていると
「ここにまだ汚れが残っているよ!」
と教えてくれる子もいました。
「ユウくん、最近おしゃべり上手になったんじゃない!」
と先生や私に報告してくれる子もいました。
喋ることを嫌いにならなかったユウ
ユウが集団生活を送っていく中で「喋ることや歌うことが嫌いになる」可能性は大きいと思っていました。
とにかく明るい性格にと意識して子育てをしてきたのも、心くじけるような機会がたくさんあるだろうと予め想定してのことです。発音をからかわれることも十分にあると考えていましたし、入園後に喋ることが嫌になってしまうことも想像していました。
しかし、ユウは喋ることも歌うことも大好きなままでした。
むしろ保育園に入ってさらに好きになったようでした。
ユウは子どもたちの中で生き生きと活動し、療育園では固まってしまっていたお遊戯などにも積極的に参加するようになりました。仲良しのお友だちもでき、社会性が育ってきた証拠か方言があらわれ、発語もさかんになりました。発表会では誰よりも大きな声で歌をうたいました。
保育園の中にたった一人の口唇口蓋裂児。見た目も発音もみんなとは違うユウでしたが、そんな彼をあるがままに受け入れてくれた先生や子どもたちのおかげで、ユウの保育園生活はとても幸せなものになりました。
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