今回は、ヴァイオリンを弾く/聴くなら知っておきたい名曲を紹介します。
「これ知ってる!」という超有名曲から、これを知っていたらヴァイオリン通、なコアな曲まで動画付きで解説していきます。
優雅でかっこいい!フリッツ・クライスラーの小品
オーストリアはウィーン出身のヴァイオリニスト、フリッツ・クライスラー。20世紀を代表するヴァイオリニストにして作曲家だった彼は、ヴァイオリンのためにあまりにも有名な作品を多く残しています。例えば、「前奏曲とアレグロ」はその程よい難易度から現在も演奏会で頻繁に取り上げられます。
何と言ってもかっこいい!演奏会のアンコールにもよく演奏されますね。
また、こちらは「愛の喜び」(Liebesfreud)「愛の悲しみ」(Liebesleid)という対照的な2曲。聞き覚えのある方も多いのでは?
どちらも、クライスラー本人による演奏!現代の演奏に比べ、落ち着いたテンポで演奏されている印象があります。
これらの小品はいわゆるサロンで演奏される機会が多く、一曲一曲も短いため、ヴァイオリンの演奏会に行くとよく演奏されています。ヴァイオリン初心者のかたは、難易度的にも易しいため、まずはこれらの曲を目指して練習するのも良いかもしれません。
高難易度、でも絶対に外せない名曲。J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ&パルティータ
ヴァイオリン名曲を語るなら絶対に外せない、それがこの、J.S.バッハ作曲「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ&パルティータ」です。
J.S.バッハは、クラシック音楽を語る上で避けては通れない偉大な作曲家。彼は生涯に、無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ(組曲のこと)を、それぞれ3曲ずつ残しました。これらの楽曲は現在でもコンクールの課題曲に挙げられる筆頭曲で、特に各ソナタに含まれる「Fuga」(フーガ)は屈指の難易度、そして美しさを誇ります。
有名なものは、パルティータ第2番 BWV1003より、「Chaccone」(シャコンヌ)でしょうか。
また、パルティータ第3番 BWV1006の「Gavotte en ronde」(ロンド風ガヴォット)も有名ですね。
ちなみに、これらの「chaccone」「gavotte」などはすべて踊りの名前です。
ですが、個人的に推したいのは、先述の「Fuga」です。例えばソナタ1番のFugaは、2番・3番のそれと比べると規模は小さいですが、およそ1本のヴァイオリンで演奏しているとは思えないほど、様々な声部で成り立っています。
素晴らしいヴァイオリニストが演奏すると、何本ものヴァイオリンで弾いているかのように聴こえるんですよね……!「Fuga」とは日本語に直訳すると「遁走曲」という馴染みのない言葉になるのですが、そもそもは作曲のテクニックのうちの1つを指します。詳しく書くと長くなってしまうのでここでは簡潔に、一つの旋律を使ってひたすら曲が発展していく、と思ってください。
激しい怒りを込めた名曲。プーランク作曲:ヴァイオリン・ソナタ
今度は、ヴァイオリンとピアノの二重奏曲。厳密にヴァイオリンがメインではなく、ヴァイオリンもピアノも対等にあるという意味で「室内楽」に含まれることが多いですが、あまりにも名曲が多いので今回は取り上げます。
フランシス・プーランクという名前には、あまり聞き覚えがないかもしれません。プーランクは、1899年にフランスはパリで生まれた、生粋のパリジャン。20世紀初頭、パリに渡っていた日本人の画家といえば……そう、藤田嗣治ですね!
2018年には没後50年の大回顧展が行われました。【公式】没後50年 藤田嗣治展
当時、まさに芸術の都だったパリ。プーランクはまさに、パリの黄金期に生まれ、作曲家としていきた人でした。彼の作品は当時、とても前衛的で、フランスらしい彩りの中にちょっと理解しづらいユーモアを多く含んでいました。
しかし、時代は間も無く戦時下へ突入。そのせいもあってか、より鋭い、刃物のようなユーモアを持った作品も多く残しています。
この「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」は、作曲家が唯一残したヴァイオリン作品です。
もともと、ソロ・ヴァイオリンがあまり好きでなかったプーランクは、ブラームスのピアノとヴァイオリンのためのソナタを聴いて、作曲への意欲を増します。(こちらも押さえておきたい超名曲です)
結果、数年かけて完成したこの曲は、スペインの詩人、ガルシア・ロルカの思い出に捧げられました。どういうことかというと、そもそもこのヴァイオリン・ソナタは、ロルカの詩の「ギターは夢想を泣かせる」という一節から着想を得ていました。ところが、まだ曲が完成しないうちに、ロルカは内戦で銃殺されてしまうのです。
そのせいでしょうか。この曲には、激しい怒り、慟哭が込められています。
ヴァイオリンはもちろん、ピアノの難易度の高さからも知られる一曲。冒頭からシビれますが、最終楽章のラストは必聴。実はこれ、銃声なんです。
華やかなりしパリ。けれど、世界中が戦争の火種に巻き込まれてしまったあの頃、一体、どれだけ冷たく厳しかったのか……ぜひ、このソナタを聴きながら想像してみてください。
難易度、美しさともに随一の名曲。シベリウス:ヴァイオリン協奏曲
オーケストラを伴って、ヴァイオリン・ソロが華々しく活躍する「ヴァイオリン協奏曲」。ヴァイオリン弾きにとっての花形に思う人も多いこちらのジャンルには名曲が山ほど存在します。有名どころだとメンデルスゾーンの作品や、チャイコフスキーの作品が挙げられますね。
ここに挙げたシベリウスという人は、フィンランド出身。フィンランドといえば、ここ数年日本で大流行している北欧インテリアが思い浮かびますが、何と言っても寒い。広い。そして美しい。
彼は、フィンランドで初めて国際的に活躍した作曲家と言ってもいい存在でした。その民族的な意識を強く持ちながら、西洋音楽的なスタイルを取り入れた作品は今尚、人々に愛されています。
そんなシベリウスが、生涯に残したヴァイオリン協奏曲はこの一曲のみでした。
もともとオーケストラのヴァイオリン奏者を目指し、オーディションも受けたシベリウスでしたが、あえなく落選。しかし結果として、「自分はヴァイオリン奏者に向いていない」と気づき、作曲の道に専念することに。
作曲者にとって、強い憧れだったヴァイオリン──そのために残された、唯一の協奏曲。いまではすっかり名曲中の名曲として数えられ、演奏される機会も頻繁になりました。ほんの十数年前まであまり演奏されていなかった気がしますが、案外、クラシック音楽にも流行というものがあったりします。
筆者が、数あるヴァイオリン協奏曲の中でもシベリウスのそれを推す理由は、ともかく美しいこと。まず冒頭、ほんの3小説半の弱音気をつけた弦楽器による静かな前奏、そしてすーっと入ってくるソロ・ヴァイオリンの独特なテーマ。この美しさは他のヴァイオリン協奏曲にはありえない、まさにシベリウス独特のものです。
しかしこの冒頭、本当に難易度が高いんですよね……実際に本番をやってみると、相当な集中力を求められます。激しい始まりでもなく、pの弦楽器群の上にそっと乗っかりたいのに、ソロ・パートにはなんと「mf」の指示があるんです。どうしろと。
また、オーケストレーションも素晴らしいんです。時折、協奏曲というとソロ・パートにばかり力が入ってしまって、オーケストラ・パートがあまり充実していない……という作品も見受けられるのですが、このシベリウスの作品は違います。
北欧の厳しく、壮大な大地を彷彿とさせる伴奏。これなくして、シベリウスのヴァイオリン協奏曲は語れません。
作曲家も渾身の力を込めた、ヴァイオリンの名曲たち
ヴァイオリンの名曲、と一言で言っても、様々な形式、国、時代の背景をもつ作品があります。
また、時とともに演奏会やコンクールで取り上げられる作品も変わっていきます。
この機会に、ぜひ知られざるヴァイオリン名曲を探してみてください。ヴァイオリンならではの工夫や技巧を凝らした、作曲家渾身の作品が世界にはまだまだたくさんありますよ!