クラシック界の花形楽器である“バイオリン”を弾いていながら、「メロディが苦手」「伴奏が楽しい」という特殊な世界に迷い込んでしまう“セカンドバイオリン”。
これまでに、『あなたの知らない、“セカンドバイオリン”という世界』ではその生態を、『あなたの知らない“セカンドバイオリン”がカッコイイ曲8選 ~基本編~』では実際にどんな楽譜を演奏しているのか、簡単にご紹介しています。
前回の『あなたの知らない“セカンドバイオリン”がカッコイイ曲8選 ~基本編~』では、多くの人が知っているであろう定番曲の中で、“いかにもセカンドバイオリン!”な見所を紹介させていただきました。
今回は、さらにマニアックな“セカンド萌え”ポイントを、楽譜の一部と一緒にご紹介してみようと思います。今回もぜひ、イヤフォンやヘッドフォンなどで、伴奏に耳を澄ませて聴いてみてくださいね。
チャイコフスキー作曲 バレエ音楽『くるみ割り人形』より『花のワルツ』
メルケル指揮、読売日本交響楽団による演奏です。セカンドバイオリンはファースト(舞台向かって左手手前)の奥に配置されています。この曲は、クリスマスによく上演されるバレエ『くるみ割り人形』の中でも、特にオーケストラの公演でよく取り上げられるワルツ曲です。
前回紹介したように、「ワルツのセカンドあるある」な「うん・ちゃっ・ちゃっ」という裏打ちのリズム、ファーストバイオリンのオクターブ下でのメロディなど、セカンドバイオリンらしい楽譜がてんこ盛り。曲の後半には、珍しくパートのSoli(2人以上で演奏するソロのこと)も出てきます。
その中でもテンションが上がるのが、1:57~2:00の“シンコペーション(拍の頭ではなく、裏から始まるリズム)”音型です。この3秒間、よく聴くと、「ん・ターッターッターッタ・タ・タ」という音型が聴こえますでしょうか?
( imslpより )
この“シンコペーション(略してシンコぺ)”音型も、セカンドが愛してやまない音型のひとつ。ビート感や切迫感を生み出す効果があります。ドラマチック!
ちなみに、ファーストバイオリンはこの“シンコぺ”が苦手な人が多い傾向にあります。シンコぺに苦戦しオロオロするファーストを眺めてニヤニヤするのも、“リズム系が得意なセカンドバイオリンならではの楽しみ”であることは、ここだけの話です。
ブラームス作曲 交響曲第3番ヘ長調作品90より 第1楽章
カラヤン指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団による演奏です。こちらもセカンドバイオリンは、ファーストバイオリンのお隣に鎮座しておられます。
冒頭からファーストバイオリンのオクターブ下でメロディを弾いた後、延々続く“シンコペ”のリズム。この楽章では、2:39~や3:22~など、たびたび”シンコペ”のリズムが現れ、焦燥感や切迫感を感じさせられます。
( imslpより )
ブラームスは、いずれの交響曲でも“シンコぺ”を多用しており、その多くがセカンドバイオリンに割り当てられています。その度に燃える。
そして7:57~のクライマックスから、特に8:15からの細かい音型は、つい気合が入ってガシガシ弾いてしまうのがセカンドの性…そりゃ弓の毛も切れるわけです。
モーツァルト作曲 交響曲第39番変ホ長調より 第4楽章
バーンスタイン指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団による演奏です。こちらもセカンドバイオリンは、ファーストバイオリンのお隣に座っています。
モーツァルトは41の番号付き交響曲を残しています。中でもこの39番、前回紹介した40番、そして41番は「三大交響曲」として特に愛されています。
どの楽章も本当に素晴らしいのですが、セカンドバイオリン最難関とも言われる譜面が 26:57からの4楽章。かっこいい~!
( imslpより)
実はこの“うねうね”した細かい動きを正確に弾くのは、地味なようでものすごく難しいのです。その難しさたるや、プロのオーケストラの入団試験に使われる『オーケストラスタディ』という“オケ曲難所抜粋本”にも採用されているくらい!
ベルリオーズ作曲 序曲『ローマの謝肉祭』
チョン・ミンフン指揮、フランス放送フィルハーモニー管弦楽団による演奏です。こちらの映像もセカンドバイオリンはファーストのお隣にセッティングされています。
前半のオイシイところはビオラに持っていかれていますが、5:40からの盛り上がりからはセカンドも張り切ります!
( imslpより )
普通の“刻み”なように見えて、5:45~など、ところどころ動きが目立つように強弱が指示されているところが面白いのです。こういう時のエンジンの切り替えは、セカンド・ビオラのお家芸。5:56~なんかは、セカンドとビオラが思わず前傾姿勢になっているのが笑えます。気持ちが分かりすぎる。
そして最後、7:44からの流れは、セカンドバイオリンが完全に支配します。
( imslpより )
この音型に木管のメロディが重なり、チェロ・ビオラ…と弦楽器のリズム隊が重なり、エンディングに向かっていきます。こういうシーンの“世界を掌握している気分”は、セカンドバイオリンならではです。
マーラー作曲 交響曲第1番二長調『巨人』より 第2楽章
ハーディング指揮、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団による演奏です。セカンドバイオリンは舞台に向かって右手手前、ファーストバイオリンの手前に配置されています。マーラーの交響曲の中では比較的演奏時間が短く、編成がシンプルで、最も演奏機会や録音が多いと言われています。
マーラーの交響曲は、どの作品も、各パートが独立して複雑に絡み合っており、弾きごたえがあります。動画を見てみると、動くタイミングや動き方が、それぞれのパートで全く違うことがよりよく分かります。
どこもかしこも燃えますが、特に燃えるのは18:31からの第2楽章。20:06はセカンドのソロ状態です!指揮者が思い切りセカンド側に合図を出していますね(笑)
( imslpより )
その後も、20:45~など、ファーストバイオリンと入れ替わり立ち替わりしながら、対等に戦えるのがマーラーの楽しいところです。セカンドやビオラなど“内声”と呼ばれるハーモニーパートが聴こえないと、良さが半分以下になる作曲家の一人であると言っても過言ではないでしょう。
ベートーヴェン作曲 交響曲第3番変ホ長調『英雄』より 第1楽章
ティーレマン指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団による演奏です。
セカンドバイオリンは舞台に向かって右手手前、この配置を“対向配置”と呼びます。『英雄(イタリア語で“エロイカ”)』とは、ナポレオンのこと。革命の寵児ナポレオンに共感しこの作品を完成させたベートーヴェンは、彼が皇帝に即位したと知らせを聞くと、賛辞を書いた表紙を激怒して破り捨てた…という逸話も含め、有名な交響曲です。
ここまで読んでくださった方は、きっと“セカンドバイオリン通”に近付いてこられたはず!ぜひ一緒にセカンドバイオリンの激アツポイントを探してください。
まず冒頭からいきなり始まる“刻み”、ハーモニーを作りながら流れる“うねうね”とした動き、効果的な“シンコぺ”、要所要所立ち上がる細かい音の動き、ファーストバイオリンの“オクターブ下” や“ハモリ”、そしてファーストと“追いかけっこ”のように重なって…。
( imslpより )
どこを弾いてもセカンドが楽しい!どこを聴いてもセカンドがかっこいい!!ベートーヴェンは、特にそう思わせる譜面が多く、つい興奮してしまいます。体力も精神力も持っていかれますが、こんなに萌えポイントが多い譜面なら魂を捧げても構わない…ぜひ最後まで、セカンドバイオリンに注目してご覧ください。
ようこそ“セカンドバイオリン”の世界へ
特にオーケストラのような大きな編成の場合、“セカンドバイオリン”は特に埋もれやすく、注目されることの少ないパートです。しかし動画でご紹介したように、オーケストラのサウンドに厚さや推進力を与え、時に規則正しい時計の針のように、時に潤滑油のように活躍する、本当に重要なパートなのです。
これが“カッコイイ”と思い始めたあなたは、きっと既にセカンドバイオリンの世界に片足を突っ込んでしまっています。これからもぜひ、テレビや動画配信サイト、そして願わくば生のコンサートで、セカンドバイオリンの活躍にご注目くださいね!