ヴァイオリン初心者にオススメな、クラシック曲をご紹介します。ヴァイオリンを始めてみたはいいものの、何の曲を目標にしよう……と迷っている人は、参考にしてみてください。
かっこいいヴァイオリン楽曲① J.S.バッハ=シャルル・グノー「アヴェ・マリア」
Anne Akiko Meyers Plays Bach's 'Ave Maria' on the ex-Napoleon/Molitor Stradivari Violin
まずは超有名曲から。J.S.バッハが書いたプレリュードの和音に、シャルル・グノー(1818-1893)が旋律をつけた歌曲、『アヴェ・マリア』。これがヴァイオリンやチェロによって演奏されるようになり、今ではすっかり人気レパートリーの一つになりました。
シンプルな旋律とハーモニーが大変美しく、いわゆる「癒し」の音楽として捉われがちの作品ですが、一方で激しい転調(調性が変わること)も。実際に弾いてみることでかっこよさがわかる、スルメのような名曲です。
ちなみに、グノーは様々な歌曲やオペラを残しています。そのうち、『ファウスト』はポーランドの鬼才ヴァイオリニストにして作曲家、ヴィエニャフスキ(1835-1880)によってヴァイオリン曲に編曲されています。こちらはとんでもない超絶技巧曲なので初心者さんにはだいぶ厳しいかもしれませんが、やはりカッコいいので一聴をおすすめします。
Ji Young Lim | Wieniawski | Faust Fantasy | 2015 Queen Elisabeth Violin Comp
かっこいいヴァイオリン楽曲②アントニオ・ヴィヴァルディ「ヴァイオリン協奏曲 イ短調 RV356」
Four Seasons ~ Vivaldi
アントニオ・ヴィヴァルディ(1678-1741)といえば、弦楽合奏曲の『四季』を知っている人もいるかもしれません。
この四季は、正式には『和声と創意の試み』というヴァイオリン協奏曲集の一部です。……タイトルがややこしいですが、簡単にいえば、ヴィヴァルディが様々な作曲技法を弦楽器合奏において試みた作品集、ということだと思ってください。
さて、これらの曲集ももちろんかっこいいのですが、筆者が個人的に初心者へおすすめしたいのが、『和声と創意』に含まれていない、この『ヴァイオリン協奏曲 イ短調 RV356』です。
Antonio Vivaldi - Violin Concerto A minor RV 356
動画を観ると、冒頭からグッと掴まれます。かっこいい上、ヴィヴァルディは、クラシックのヴァイオリンを演奏するのであれば、ぜひ押さえておきたい作曲家の一人でもあります。というのも、ヴィヴァルディ自身が作曲家でありながらヴァイオリニストであり、そのヴァイオリン技法の影響は後述のJ.S.バッハや、近代のヴァイオリニストにまで及んでいるからです。
ちなみに、ヴィヴァルディは夥しい数の作品を残していることでも知られています。「どれも似たり寄ったり」という批判があるのも事実ですが……とりわけ、このイ短調 RV356は、臨時記号や3rdポジションもガンガン登場するため、一歩踏み出したい人の目標にぜひオススメしたい作品です。
元はオーケストラと協奏する形になっていますが、ピアノ伴奏のエディションも出ています。
かっこいいヴァイオリン楽曲③ バルトーク作曲「44のデュオ」
Heifetz 2016: Elmar Oliveira & Hagai Shaham | Bartok: 5 Duos
こちらは2台のヴァイオリンのために書かれた、そのままズバリ「44のデュオ」という作品。
まず目を引くのが「44」という膨大な数字ですが、実際に楽譜を見てみると、一曲の演奏時間は長くても3〜5分程度。一曲につき一ページにも満たない作品、1stポジションのみで演奏できる楽曲も多く、これまで紹介してきた作品にくらべ初心者でも弾きやすいのではないでしょうか。
そして、2台のヴァイオリンのための作品である、というところがミソ。独奏ヴァイオリンももちろんカッコいいのですが、いつもひとりぼっちだと寂しくなったり、飽きてしまうことも多々あります。そんな時はこういった二重奏曲をあえて選んで、レッスンでヴァイオリンの先生と一緒に演奏してもらう──というのも、一つの楽しみではないでしょうか。
なお、作曲者のベーラ・バルトーク(1881-1945)はハンガリー出身の作曲家。東欧の民族音楽を蒐集したり、前衛的な作風を追求した一方、とても簡単な子供向けのピアノ小品も書いています。
この「44のデュオ」も、作曲家本人が「番号が若ければ若いほど簡単で、後になればなるほど難しい」としています。初心者の方は最初の1巻から初めて、少しずつ数字を繰り上げていくのが良いでしょう。また、最初の一桁台の作品も、とても簡単でありながら、時折現れる、バルトーク節とも言える奇妙な響きが刺激的。
かっこいいヴァイオリン楽曲④ J.S.バッハ『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ BWV1001 ト短調』よりフーガ
Lana Trotovsek - J.S.BACH: Fugue from Violin Sonata in G minor
これはだいぶ難しい曲ですが、ヴァイオリンを始めた人ならぜひ目標にしてみてほしい作品の1つです。
まず、J.S.バッハ(1685-1750)は先述のヴィヴァルディとほぼ同世代の作曲家で、現代では「西洋音楽の父」と呼ぶ人が多いほど、クラシック音楽の発展に貢献したとされています。鍵盤楽曲、宗教楽曲、そして、ヴァイオリンやチェロのための器楽曲……夥しい数の作品を残した彼は、無伴奏ヴァイオリンのためのソナタと、同じく無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータを、それぞれ3曲ずつ作曲しました。これらの6曲は一つのセットとしてまとめられています。
この『フーガ』は、そのうち『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ BWV1001 ト短調』の第2曲に収められています。
フーガとは、一般的に、一つのテーマ(旋律)を用いて一つの曲を発展させる作曲技法、あるいはその作曲技法を用いて作られた楽曲を指します。このBWV1001のフーガの場合、冒頭の「タッタッタターララタッタタッラ」という旋律がテーマ。そのあとずーっと、このテーマ(あるいは一部)を用いて、楽曲は展開されていきます。
このキャッチーなテーマと、およそ1台のヴァイオリンで演奏しているとは思えない奥行き。……初心者の方にはだいぶハードルが高いですが、いつか手を伸ばす目標として、ぜひ知っておいてほしい作品です。
最後に、初心者向け楽曲のおすすめ
今回はあえて、あまり紹介されていなさそうなクラシックの楽曲を紹介しましたが、もちろん、一番は自分の好きな楽曲に挑戦することだと思います。クラシックでもポップスでもジャズでもなんでも、自分の好きな音楽を選んで、楽しいヴァイオリン生活を送ってくださいね。