バイオリンといえば、華麗なソロやメロディを歌い上げる、メロディ楽器の代表格。
小さい頃からバイオリンを習っており、現在オーケストラに所属している私にとって、「バイオリンが弾けます!」は自己紹介の鉄板ネタです。
もう何百回もそう言ってきましたが、クラシックに詳しくない方でも、バイオリンを知らない方には出会ったことがありません。
“バイオリン”と聞いた時、あなたは何をイメージしましたか?
『ドラえもん』で、しずかちゃんが弾いている、あの楽器。
葉加瀬太郎さんが演奏する、情熱大陸のテーマ曲。
オーケストラや室内楽で、活躍する印象。
バンドで言うと、ボーカリストみたいな立ち位置。
いずれにしても、メロディを弾いているイメージが浮かんだはずです。
しかし、実は“メロディを弾かない”バイオリニストが、世の中には沢山います。世の中の半数…とまではいきませんが、ざっくり3分の1くらいは、“メロディを弾かない”のです。
そして私も、そんな“メロディを弾かない”バイオリン弾きのひとり。
バイオリンなのにメロディを弾かないだなんて、一体どういうこと?とお思いでしょうか。
それこそが、あなたの知らない“セカンドバイオリン”という世界です。
“セカンド”って何? バイオリンの分裂
バイオリンは、様々な編成の楽隊で演奏されます。大きく分けると、
- バイオリンのソロと、合奏またはピアノ伴奏で構成される”ソロ曲”
- 2名~9名程度の少人数で編成された”室内楽(アンサンブル)”
- 弦楽器のみで構成される”弦楽合奏(ストリングス)”
- 弦楽器から管楽器、打楽器まで、大人数で演奏する”オーケストラ”
の4パターンの編成で、バイオリンは活躍しています。
バイオリン奏者が複数名存在する“室内楽”以上の編成になると、バイオリンはほとんどの場合2つのパートに分かれます。
それが、“第一バイオリン(1st)”と、“第二バイオリン(2nd)”です。
“セカンド”と呼ばれる、バイオリンの裏担当
第一バイオリンは、お察しの通り、メロディを中心に担当します。
誰もがイメージする“あのバイオリン”が、ファーストバイオリンです。
一方、第二バイオリンは、伴奏を中心に担当することになります。
リズムを刻んだり、和音を作ったり、メロディにハモるのが、セカンドバイオリンの主な役割です。
どちらも同じ楽器を使いますし、同じ人がファーストを弾いたりセカンドを弾いたりすることもあります。
しがないバイオリン弾きの私でさえ、どちらのパートも演奏経験があります。
必ずしも、パートが固定になっている訳ではないのです。
“ファースト” “セカンド”と呼ばれる、バイオリン弾きの性格
“メロディ”という、華々しい”表側”を担当するファースト。
“伴奏”という、地味な“裏側”を担当するセカンド。
楽譜上だけでなく、不思議なことに、メンバー本人たちの性格まで真逆です。
主にメロディを担当するファーストバイオリンは、大半が(ほぼ全員が)自由人。
自己主張が強く、少々ワガママで、意外と繊細な所があり、地雷を踏むと厄介なことになります。
一方で、伴奏を担当するセカンドバイオリンは、大半がいわゆる”組織人”です。
集団行動が得意で、団体の調和を何よりも良しとし、規律を乱すものを嫌う傾向にあります。
“ファースト” ”セカンド”バイオリンたちの、リアルな生態
それぞれのパートの性格の差が明らかになるシーンは、オーケストラを運営していると度々見られます。
例えば、次回演奏会の参加依頼と、練習日程の回答を求めた時。
セカンドバイオリンは期日内にほぼ全員が回答しますが、ファーストバイオリンは半分以下しか回答が返ってきませんでした。
演奏会が終わり、打ち上げ会場に移動する時。
舞台の片付けが済むと、自然と数人で集まって、すぐに打ち上げ会場に向かうのがセカンドバイオリン。
一方、ファーストバイオリンは、いつの間にか居なくなっており、打ち上げの集合時間になっても、過半数が打ち上げ会場に来ません。
まさに”和をもって尊しとなすセカンドバイオリンたちは、フリーダムなファーストバイオリンに比べ、連絡のレスポンスが早く、時間に厳しい傾向にあります。
きっとそもそも、ファーストバイオリンたちは、“集合時間”とか”要返信”などという、言葉そのものが嫌いなのでしょう…
なぜ”セカンド”が”裏”なのか?
こうして性格面を見てみると、セカンドの方が、よほどフツウに見えるかもしれません。
しかし、“バイオリン”の本来の姿を思い返してみると、“バイオリン弾き”としてはファーストの方が、実は正常なのです。
オーケストラや室内楽で活躍しているほとんどのバイオリン奏者は、小さい頃からバイオリンのレッスンに通っています。
小さい頃からのレッスンは、当然一人で弾くわけですから、“ソロ”の曲、つまり“メロディ”を練習することになります。
基礎練習として、リズムやハーモニーの練習をすることはあれど、それは“ソロ曲”を弾くため、つまり“メロディ”を弾くための訓練でしかありません。
結果として、成長した大半のバイオリン奏者は、“ソロ”を弾く人として世に放たれます。
そしてオーケストラや室内楽団に所属すれば、ファーストの役割を所望するのが、バイオリン弾きとしては自然な流れなのです。
だって今まで、“メロディ”を弾く練習を、積み重ねてきたのですから。
それでも“セカンド”を求める理由
では、当たり前のようにメロディを弾いてきた“バイオリン弾き”が、なぜ“セカンド”を求めるのでしょうか。
それは、オーケストラや室内楽における、“セカンド”の役割に理由があります。
セカンドバイオリンが主に担当する“伴奏”は、当然“ソロ”の曲にはない要素がたくさん詰まっています。
延々リズムを刻んだり、基礎練習のような音型をなぞったり、メロディにハモったり…
裏を返せば、それは、“ソロ”ではできないこと。
ソロの場合、当然ながら、自分がメロディを弾かなければ、曲が成立しません。
“セカンド”の譜面は、大人数であるオーケストラなどの“合奏”でなければ、バイオリン弾きに与えられることのない楽譜です。
“セカンド”にハマる人たちは、大人数で演奏できるからこそ与えられる、“伴奏”の面白さに気付いてしまった集団なのです。
ようこそ、”セカンドバイオリン”の世界へ
“セカンドバイオリン”が実際どんな音を出しているのか、どんな楽譜を演奏しているのか、気になって頂けたでしょうか?
世の中の大半の楽団で、セカンドバイオリンは、舞台に向かって左手手前のファーストバイオリンの奥、または舞台に向かって右手手前に陣取っています。
本来の“バイオリン弾き”としてのポジションをかなぐり捨ててでも“伴奏”の面白さを追い求めてしまう“セカンドバイオリン”に、是非注目してみてくださいね。
きっと、思わぬ動きをしていることに、気付いて頂けることでしょう!