メロディ楽器の花形である“バイオリン”であるにも関わらず、なぜか裏方である“伴奏”に取り憑かれてしまう“セカンドバイオリン”。
前回は、『あなたの知らない、“セカンドバイオリン”という世界』と称し、セカンドバイオリンとは?ファーストバイオリンとは何が違うの?など、簡単にご紹介してまいりました。
今回は、そんな“セカンドバイオリン”的目線から、あなたの知らない“セカンドバイオリン”がカッコイイ曲を、定番曲から選りすぐってご紹介します。
セカンドバイオリン的聴きどころも、合わせてご紹介したいのですが、悲しいかな、“伴奏”はなかなかスピーカーでは聴きとりにくいのが難点です…。ぜひ、イヤフォンやヘッドフォンなどで、聴いていただけたら嬉しいです。
“刻み”に燃える! ベートーヴェン作曲 交響曲第7番イ長調作品92より第4楽章
イヴァン・フィッシャー指揮、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団による演奏です。『のだめカンタービレ』でご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
どの楽章も素晴らしいのですが、セカンドバイオリンを語るなら、欠かせないのが4楽章(34:06~)。舞台に向かって左手手前のファーストバイオリンは軽やかなメロディを奏でていますが、右手手前のセカンドバイオリンはというと、お隣のビオラと一緒に右手を激しく上下に動かし、細かいリズムを弾いています。このように、同じ音で細かくリズムを刻む音型は、文字通り“刻み”と呼ばれます。
この“刻み”の音型、ご覧の通り、演奏する側はかなり疲れます。ストレッチ必須。腱鞘炎多発。それでも、音楽の時間感覚を支配し曲に推進力を与える“刻み”に、つい取り憑かれてしまうのがセカンドバイオリンの性なのです。我が身を削って刻み続ける、セカンドバイオリンがカッコイイ!
もはや“打楽器”!ヨハン・シュトラウス2世作曲 美しく青きドナウ
バレンボイム指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団による演奏です。毎年1月1日に開催される『ニューイヤーコンサート』をご覧の方は、すっかりおなじみの曲でしょう。
序奏と5つのワルツ、後演で構成されるウィンナ・ワルツですが。しかし、1:39から始まるワルツ以降、舞台右手手前のセカンドバイオリンは、全くと言っていいほどメロディを弾きません。『ワルツ』と呼ばれる3拍子の踊りの曲の中でも、ウィンナ・ワルツ(ウィーン風のワルツ)は特に、セカンドバイオリンに与えられるのはほぼこの音型だけ。
(imslpより)
3拍子の2,3拍のリズムを「うん・ちゃっ・ちゃっ」と、ひたすら弾き続けます。1曲丸々、ほぼ全部これです。
正直自分の譜面だけを見てもメロディが思い浮かびませんし、ドナウは曲が長すぎると思っているセカンドバイオリン奏者は、きっと私だけではないと思います。スネアドラムにお任せしても良かったのでは。
なのに、こうして本家ウィーンフィルの演奏を聴くと、思ってしまうのです。やっぱり本家セカンドバイオリンの「うん・ちゃっ・ちゃっ」はカッコイイ!
“オクターブ下”がアツい! モーツァルト作曲 交響曲第40番ト短調 K.550より第1楽章
バーンスタイン指揮、ウィーン・フィルハーモニー管絃楽団による演奏です。この冒頭のメロディは、きっとどこかで耳にしたことがあるのではないでしょうか。
メロディをよく聴いてみると、高い音で弾いているパートと、“1オクターブ下”の低い音で弾いているパートがあることが分かるでしょう。この、上の音を弾いているのがファースト、下のパートを弾いているのがセカンドです。動画の冒頭(0:30)で映し出されるスコアの通り、オクターブ違いで動いています。
同じメロディでも、“オクターブ下”に同じ音を重ねることで、音に厚みと奥行きが生まれる効果があります。ファーストバイオリンをしっかり支え、さりげなく包み込こむ“オクターブ下”は、セカンドバイオリンの大好物です。
“オクターブ下”で柔らかく響くセカンドバイオリンがカッコイイ!(内心、ビオラの刻みが羨ましい気持ちもある)
まさに流れる“川”!スメタナ作曲 連作交響詩『我が祖国』より 第2曲『ヴルタヴァ』
ビェロフラーヴェク指揮、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団による演奏です(『ヴルタヴァ(モルダウ)』は16:20~)。『ヴルタヴァ(モルダウ)』とは、スメタナの祖国であるボヘミアを流れる川のことであり、この曲もヴルタヴァ川の流れを描写しています。日本では、合唱曲としても親しまれていますね。
前奏が終わり、17:25より流れるようなメロディが始まりますが、当然のようにメロディはファーストバイオリンの担当。
では、セカンドバイオリンはというと、ファーストバイオリンのお隣で、水面が揺れるような細かい音符を延々弾いています。あまりにも有名なメロディですが、セカンドバイオリンはこの1曲を通して、一度たりともこのメロディを弾かずに終わります。むしろセカンドバイオリンこそが川だと言っても差し支えない気すらする。
この“川”シリーズは、『ヴルタヴァ(モルダウ)』だけではありません。
ベートーヴェン作曲 交響曲第6番『田園』より第2楽章
バーンスタイン指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団による演奏です。タイトルの通り、全楽章を通して『田園風景』が描かれた作品です。ディズニーの『ファンタジア』でご存知の方もいらっしゃるでしょうし、CMなどでも楽曲使用されています。
第2楽章は『小川のほとりの情景』が描かれており、『ヴルタヴァ(モルダウ)』と同様、美しいメロディを奏でるファーストバイオリンのお隣で、セカンドバイオリンは終始うねうねと川の流れを表現しています。
ファーストバイオリンに見せると、「練習曲なの?」とすら言わる譜面ですが、私たちが川を流していることを忘れないで頂きたいものです。
男は船、女は港、セカンドバイオリンは川。もはや自然物なセカンドバイオリンがカッコイイ!
パートの“団結力”を見せつけろ! ベートーヴェン作曲 交響曲第5番『運命』
今年はベートーヴェンの生誕250周年。ベートーヴェンつながりで、ティーレマン指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団による演奏です。客席側から舞台を見て、左側手前がファーストバイオリン、その奥がチェロ、右側手前がセカンドバイオリン、その奥がビオラのセッティングです。
「ジャジャジャジャーン(『運命動機』と呼ばれるモティーフ)」で始まる第1楽章ですが、この誰もが知る動機が提示された後(0:32~)、実はセカンドバイオリンから曲が始まるのをご存知でしたか?
セカンドバイオリン弾きが最も緊張する瞬間ですが、集団行動を得意とするセカンドバイオリンの結束力が輝く瞬間でもあります。しかも、この"なぜかセカンドバイオリンから始まる曲"は、意外と他にも沢山あるのです。
モーツァルト作曲 歌劇『魔笛』序曲
ノリントン指揮、シュトゥットガルト放送交響楽団による演奏です。セカンドバイオリンは舞台に向かって右手手前に座っています。
ゆったりとした序奏が終わると、軽やかなメロディが重なり合っていくのですが、こちらもセカンドバイオリンが先陣を切ります(2:10~)。セカンドバイオリンの団結力の見せ所!と言わんばかりに、パートがギュッとまとまる瞬間がカッコイイ!
“ここぞ!”という時に泣かす!マーラー作曲 交響曲第5番嬰ハ短調より第4楽章
ゲルギエフ指揮、ワールド・オーケストラ・フォア・ピースによる演奏です。映画『ベニスに死す』などで、聴いたことのある方も多いでしょう。
0:13から始まるメロディが、楽章内で何度か出てきますが、セカンドバイオリンが美味しい所をかっさらうのはその最終回、6:35から。ゆっくりとしたテンポで、噛み締めるようにメロディを弾くその姿は、“セカンド”とはいえやっぱりバイオリニスト。
その襷をファーストバイオリンに渡し、いちばんの盛り上がりは94小節目、8:59!この駆け上がりで燃えないセカンドバイオリン弾きは居ません!!ここぞ、という時に盛り上げて、一番最初に息絶える、セカンドバイオリンはやっぱりカッコイイ!
今回は、多くの方が知っていそうな曲を中心に、“ザ・セカンドバイオリン”な動きがカッコイイポイントをご紹介してみました。この程度ではまだまだ語りきれませんので、今度はさらにマニアックな内容で、セカンドバイオリンの激萌えポイントをピックアップしてみたいと思います。
“セカンドバイオリン”という、少し内側のポジションに立ってみると、知っている曲がまた違った景色に見えてきませんか?
現在コロナウイルスの影響で、多くの音楽家やオーケストラが、公演の動画を公開しています。ぜひこの機会に、お家でじっくりと、セカンドバイオリンに注目してみてくださいね。