以前、ヴァイオリンの名曲をご紹介しましたが、今回はクラシックのピアノのかっこいい名曲を紹介していきます。
クラシックでピアノの名曲といえば、優雅で華麗……なイメージの人も多いかと思われますが、ここではあえて「かっこいい」ものに絞って紹介していきます。
かっこいいピアノ曲・1 プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ 第6番 イ長調 Op.82
セルゲイ・セルゲイエヴィチ・プロコフィエフ(1891-1953)は、ロシアに生まれ、ソビエト連邦体制のもと活躍した作曲家です。革命前のロシアで生まれた彼は、若くしてフランスやアメリカ、日本を旅して帰国しますが、ロシアはすでにスターリンの独裁体制の只中。さらに第二次世界大戦が始まり、ソ連は文字通り桁違いの犠牲者を出すのですが、プロコフィエフはそんな激動の時代を生き抜いた作曲家でもあります。
ところで、ロシア音楽といえば、チャイコフスキー(1840-1893)の『くるみ割り人形』をご存知ではありませんか?
この優雅なバレエ音楽が旧ロシア帝国で初演された翌年、プロコフィエフは生まれました。そこからおよそ半世紀の間……ロシアは国内でいくつもの革命を経て、共産党体制へ。多くの血を流しながら、第二次世界大戦の戦禍に自ら足を踏み入れます。こういった時代の激変が、まさに音楽にも表れています。
プロコフィエフが戦時中に書いた6~9番目のピアノソナタ、これら3つのソナタは、のちに「戦争ソナタ」と呼ばれました。
その前衛的で金属的な響きは、今聴いても耳に新しいかっこよさ、そして、複雑さです。同じくロシア出身、やや下の世代にドミトリ・ドミトリエヴィチ・ショスタコーヴィチという作曲家がいますが、彼の作品もオススメです。
かっこいいピアノ曲・2 カプースチン:8つの演奏会用練習曲 Op.40
同じく旧ソビエト、そしてロシアで活躍する作曲家、ニコライ・カプースチン(1937-)の「ピアノのためのエチュード」。聴いてみるとお分かりの通り……すごく、ジャズっぽい。
それもそのはず、カプースチンはジャズの作風を取り入れた作曲家で、彼自身もまた優れたピアニスト。演奏者にとってもその難易度は屈指のレベル。ともかく、音が多いし音が飛ぶしリズムは複雑だし……
ちなみに、カプースチンは存命中の作曲家。一言に「クラシック」と言っても、今なおいきている作曲家の作品も含まれているのです。
かっこいいピアノ曲・3 バルトーク:ピアノ協奏曲 第3番 Sz.119
20世紀以降のロシアの作曲家が続きましたが、お次は東欧、ハンガリーから。よさこい、阿波踊り、あんたがたどこさ……日本にこういった土着の音楽があるように、ハンガリーやルーマニア、東欧にもまた、農民たちが踊り、歌った民謡が残っています。ベーラ・バルトーク(1881-1945)は、おそらく東欧で初めて、こういった民謡や踊り(彼は『農民音楽』と呼んでいました)を録音し、収集した作曲家でした。
そして、彼は収集した音楽を、自らの作曲にも生かしました。そのため、バルトークの作品には日本人にも耳馴染みがあり、聴きやすいものも多くあります。
ところが。
彼は徐々にその作風を尖らせていきます。専門的に分析すれば色々と難しい話になるので割愛しますが、農民音楽、西洋音楽、現代音楽、果ては数学、それらの要素を磨いて、バルトークはいよいよ「バルトーク的」な、かっこいい作品を生み出していきます。そして、晩年、白血病に苦しみながら最後の力を振り絞って書き進めていたのが、このピアノ協奏曲第3番なのです。
冒頭からカッコイイです。「農民、どこいった?」という感じですが、かっこいいから良いのです。第2楽章の美しさもぜひ聴いてください。
なお、この作品は結局、作曲家本人によって完成させられませんでした。最後の17小節を残してバルトークはこの世を去り、知人の作曲家が残りを埋めたと言います。
かっこいいピアノ曲・4 J.S.バッハ:チェンバロのための協奏曲 ニ短調 BWV1053
これまで挙げてきた作品は、どれも20世紀以降、ロシアや東欧の作品でした。しかし、そこから200年遡り、西へ西へと進んでドイツの作品をここでは聴いてみてください。
このJ.S.バッハ(1675-1750)の作品は、彼らの作品と比べると音の数も少なく、伴奏のオーケストラも小さいです。(そもそも、この時代はピアノといってもまるで違う楽器でした。ピアノの発展についても興味あれば調べてみてくださいね)
ある時代から、作曲家たちは音楽にプラスαの要素やテーマを見つけていきました。プロコフィエフやバルトークが当時の世情、自分自身の体験などを音楽に反映させていたり、今でいうなら「ラブソング」とか「バラード」とか、そんな具合です。しかし、バッハの時代は、ものすごく簡単にいえば、音楽そのものの美しさや構造を追求していました。
とりわけこのニ短調の協奏曲は、今でも非常に高い演奏技術を求められるうえ、切迫した音型が胸に迫ってきます。この曲に関していえば、あまり余計なことを言わず、聴いた方が早いでしょう。
なお、バッハは協奏曲はもちろん、ピアノ単体のための作品をおびただしい数、残しています。最も有名なのは、「平均律のための前奏曲とフーガ」。
これらの中にも、かっこいい作品が隠れているはず。個人的には「短調」(ドイツ語でmoll、英語でminor)と書いてある作品にピンとくる人が多いのでは……と思います。ぜひ探してみてください。
かっこいいクラシックのピアノの世界へ
クラシックのピアノ曲は優雅なものばかりではない、かっこいい作品はいっぱいある……ということが伝わったでしょうか?
他にも近代フランスの作曲家、ラヴェルやプーランクのものもオススメです。
この記事が、あなたのピアノ音楽の世界が広がる手助けになれば幸いです。