今回は、これからバイオリンを始めてみたい人が、バイオリンの選び方で悩みやすい4つの疑問に答えます。
ちなみに、筆者はバイオリン歴20年の音楽家でもあります。ぜひ参考にしてください。
選び方の疑問① バイオリンは通販で買ってもいいの?
昨今、Amazonや楽天市場といった大手通販サイトでも、バイオリンが販売されています。
しかも、そのほとんどが楽器本体のみの販売ではなく、弓やケース、肩当てといったアイテムつき。入門用の教本が付いていたり、譜面台もついていたりと至れり尽くせりで、スターターセットのようです。
これらは1万円ほどで購入できるため、大変お買い得に見えます。正直、筆者も初めてみたときはびっくりしました。
でも、もしあなたが、末長くバイオリンを弾いていきたいと思うなら、通販で購入することはあまりオススメできません。
詳しくは最後の項目で説明しますが、バイオリンの質そのものは、基本的に値段に比例すると言って差し支えありません。
素材となる木の選び方、楽器の表面に塗ってあるニスの良し悪し、魂柱の作り……職人が何度も試行錯誤し、長い時間をかけて作り上げた一品と、ほとんど量産品のように製造されているバイオリンとでは、どうしても性能に差が現れます。
バイオリンに慣れていない人でも、以下の点に注意して弾き比べしてみると、わかりやすいと思います。
- 開放弦(左手を抑えていない状態)での反響の大小
- 弓が弦をこすってから実際に発音するまでの間
特に②の発音の鋭さは、かなりはっきりわかると思います。良質な楽器だと、あなたの弓の動きへのレスポンスが素早いはずです。
これは実際に足を運んでみるとわかることですが、専門の楽器店では、楽器の破損はもってのほか。楽器それぞれがベストコンディションであるよう、冷暖房による気温・湿度調整を徹底しています。
「とりあえずバイオリンを弾いてみたい」という場合には、通販による購入も選択肢に入れても良いかもしれません。
ですが、ある程度バイオリンを続けたい・続けられそう!──という場合には、ぜひ楽器店に足を運んでみてください。
実際にお店に行き、職人や店員の顔を見て、きちんと楽器が管理されていることを確認した上で購入する。なにせ高い買い物なので、これだけでも安心感が違います。
人の手から直接渡される楽器を、自分の目や耳で比べるだけでも楽しいですよ。
選び方の疑問② バイオリンに装飾があってもいいの?
装飾とは少し違いますが、「震災バイオリン」という、3.11の被災地に残っていた一本松を使用した楽器も、いっとき話題になりました。
TSUNAMI VIOLIN PROJECT
https://classic-for-japan.or.jp/special/tsunami/concept.php
https://classic-for-japan.or.jp/special/tsunami/concept.php
こちらのバイオリンにはペイントが施されています。
実は筆者は、こういった装飾が施されている楽器を、実際に演奏した経験がありません。ですのでこれは推論ですが……絵柄が描かれているものなら、音に問題はないでしょう。
ただ、楽器に直接堀りが施されていたり、象牙による細工が施されている場合は、音にも影響があるかもしれません。
ちなみに、ペイントや掘りなどによる装飾は、かつての西洋音楽界ではむしろ一般的でした。後述するストラディヴァリウスにも、ペイントが施されているものが存在します。
選び方の疑問③ 分数バイオリンって?バイオリンはみんな大きさが違うの?
こういった分数バイオリンは子供の使用を想定しているので、大人の方には関係ないでしょう。
しかし、いわゆる4/4サイズでも、大きさにはかなり個体差があります。
具体的には、胴体の厚み、顎当てからネックまでの長さ、ネックの太さや指板の角度──といった細かな部分に、少しずつ差が表れます。
それらの違いは微々たるものでも、実際に楽器を構えてみるとまるで違うように感じるはずです。どんなに音が良くても、あなたの身体にとって大きすぎる/小さすぎるバイオリンは、あとあと、ストレスになりかねません。
特に、バイオリンという楽器は、かなり不自然な体勢で演奏しなくてはなりません。無理せず、あなたの身体にあった選び方を心がけましょう。
選び方の疑問④ バイオリンは高ければ高い方がいいの?
「楽器って、値段が高ければ高いほどいいの?」
という問いかけでしょう。
特にバイオリンは、何億円という値段がつくこともあります。そういった超高額な楽器は、誰が弾いても素晴らしいと思うものなのでしょうか?
結論から言ってしまえば、バイオリンは値段が高ければ高いほど良いけれど、必ずしも「良いバイオリン」があなたに合うとは限らないのです。
例えば、目玉が飛び出るほど高額な弦楽器として真っ先に挙げられる、ストラディヴァリウス。
17〜8世紀頃、アントニオ・ストラディヴァリ(Antonio Stradivari)という、イタリアのクレモナ出身の楽器職人が作りだした名器の総称です。これらの楽器は、今なお、世界最高峰の弦楽器として愛され続けています。美術品として展示される、コンクールの褒賞として貸し出されるなど、その価値は今も衰えていません。
しかし、バイオリンに限らず、弦楽器は木でできています。つまり、自然の素材からなるもの。そのため、製造されてからおよそ300年をピークに、その音色は徐々に衰えていく……という通説があります。
また、ここまでの名器になってしまうと、「演奏者が出したい音色・個性が出せない=誰が引いてもストラディヴァリウスの音になってしまう」という演奏家もいます。
もちろん、「これから趣味で始める」という人は、常識的に考えて、何千万という楽器に手を出そうとは思わないでしょう。
それに、いきなり背伸びをして値段の張る物を買っても、本当にそれがあなたにとって良い物なのか、初めのうちはわかりませんよね。
良い楽器を選ぶには、まずはあなた自身が相応の耳や感覚を身につけなくてはいけないのです。
ちなみに、ストラディヴァリウスやグァルネリといった名機については、こんな研究結果も出たそうです。
ストラディヴァリウスは、現代のヴァイオリンと大差ない?
http://www.chaconne.info/31_column01/31_043.htm
バイオリンの選び方・まとめ
最後に、ここまで書いてきたバイオリンの選び方をまとめておきましょう。
- 通販の楽器セットからスタートしてもよいが、実際に、店に行って複数の楽器を比べ弾きしてみるほうが安心。
- バイオリン本体にペイントしてある分にはほとんど問題ないが、象牙などの装飾つき楽器は扱いが難しい。
- 同じ4/4サイズでも個体差がある。あなたの身体にあったものを選ぶ。
- 楽器の値段は高ければ高いほど良いものかもしれないけれど、必ずしも「良い楽器」があなたに合うとは限らない。値段に関わらず、あなたに合う楽器を選ぶべき。
とはいえ、バイオリンの選び方ひとつとっても、本当に様々な考え方があります。
「何が何でもオールド(古い)楽器でなければダメ」「新しい楽器は良くない」「あの楽器屋が紹介してくれるものはおすすめ」
果たして、バイオリンの正しい選び方とはなんなのか? オールドがよいのか、モダンがよいのか? ストラディヴァリウスやグァルネリといった名高い楽器は、やはり最高の名器なのか? それとも、先入観を捨ててみれば、安くてもよいものが隠れているのか……
こればかりは、いつまでも議論の種として持ち上げられそうです。