去年の春まで、わたしは就活を謳歌していた。
謳歌、なんていうと変な感じがするかもしれません。黒いリクルートスーツを着て、髪を一つ結びにして、思ってもない「御社の志望動機」をつらつらと述べ、心をすり減らして行うのが就活だと多くの人が思っているのではないでしょうか。
でも実際はそうではありません。少なくともわたしにとって、「就活生」であるということは素晴らしい人やものに出会うために使える魔法のパスポートでした。期限は1年間、使用回数は無制限。間違いなく、あの1年は特権的な期間だったのです。
最近の就活市場では、スマートフォンやインターネットをフル活用したサービスが様々出現しています。わたしがよく使っていたのは、プロフィールを登録しておくことで企業から直々にスカウトが届く逆求人(スカウト就活)サービスや、話を聞きたい社会人とアプリ上でマッチングができるサービスなど。こうしたサービスを通じて、普段では会えないような方々と何度も食事や議論の場をいただくことができました。
▶︎たとえば、こんなサービスを使っていました
- オファーが届く逆求人型就活サイト「Offerbox(オファーボックス)」
- ありのままの自分に出会える新卒スカウトサイト「iroots(アイルーツ)」
- OB訪問の新しい形「Matcher(マッチャー)」
スカウト就活やマッチングサービスのメリット
一般的な就活に比べてこうしたサービスを使うことのおもしろさは、
- いわゆる「有名企業」ではない、ニッチでコアな企業に出会える
- ダイレクトなやりとりができるため、経営者(社長)や役員の方々との距離が非常に近い
- ビジネスパーソンの方々と、大勢の就活生の中の一人としてではなく1対1の対峙ができる
といった点にあると思います。
スカウト就活やマッチングでは、基本的にこちらのプロフィール(所属などの基本情報から、大学でやってきたことや将来やりたいことまで)を登録しています。相手の企業の方もそれを読んだ上で声をかけてくださるため、「有名企業だから」「上場企業だから」という理由でとりあえず受けてみるというような就活と比べ、自分の適性や興味に合った会社と出会いやすくなります。
そしてそうしたサービスを利用している企業というのは就活生一人ひとりの個性をきちんと見ようとしていることが多いので、事務的な選考を行うのではなく懇切丁寧な面談を何度もしてくださったり、無理な勧誘をせずわたしたちに合った将来を一緒に考えてくださったりするんです…本当に恐縮でした。
わたしの出会った素晴らしい方々
具体的にどんな方々とわたしが出会えたかというと、たとえば学生時代に単身インドに渡り、あろうことかいきなり身ぐるみ剥がされて牢獄にぶちこまれた経験のある役員の方(笑)や、9・11テロのときにアメリカ国内にいたことで「ひとの人生はどこでどうなるかわからない」と思い、帰りの飛行機で起業を含めた今後やりたいことを定めたという社長、自身の小さな会社を持ちながら大きな会社での人事部長としても活躍している方、などなど。
ひとの生き方、働き方、考え方って本当に様々なんだな、そして自分の理想の叶え方も本当にたくさんあるんだということを実感する出会いばかりでした。
「就活生」という特権
なぜこうした方々は、忙しい業務の間を縫ってわたしなどという1学生と会ってくださったのか。
それは、わたしが「就活生」だったからです。
働き手の確保が難しくなっている時代であることもあり、時間や工数を新卒人材にかけるべきだという認識はどんどん高まっているように感じます。また、まだどこの会社の「社員」でもないために、その会社の少しだけ込み入った話を聞かせていただけることもありました。
ときどき、「就活がつらい。早く終わらせて、学生最後のモラトリアム期間を楽しみたい」という人がいます。
これは見当違いなんじゃないかな、とわたしは思います。「つらい」のは、おそらく自分に合った会社を見極めずに受験しては落とされて、受験しては落とされて…ということを繰り返しているからなのではないでしょうか。本当はいまの時代、もっと面白くてもっとエキサイティングで、もっと自分に合った方法の就活スタイルがたくさんあるのに。就活生ですというだけで、信じられないくらい世界が広がる経験ができるというのに。
図々しくなれたわたし
就活を通して得たわたしのスキル(?)の一つは、「図々しさ」です。
わたしは元来、遠慮がちでひとに頼みごとをできない性格でした。なにをするにも、「悪いなぁ」という気持ちが先に立ってしまうタイプだったんです。
ですが就活を通して、「就活生」の特権を盾に図々しく自己主張することを覚え(てしまい)ました。目の前に現れたチャンスは、物怖じせずありがたく掴み取る。そんな覚悟ができた気がします。
その結果として、こんなことがありました。就活が終わってからのある日、就活時代にお世話になった企業の方から「知人が海外でこんな起業家向けのイベントをやるよ」というお話を伺ったんです。その際、わたしはつい「そこに行きたいです。どうすれば行けますか?」と訊いてしまいました。そんなこと、たぶんかつてのわたしではできなかったと思います。「図々しいな」と思われることばかり考えてしまって。
でも、そんなわたしの申し出をその方は喜んでくださり、わたしが学生ボランティアとしてそのイベントに参加できるように手配してくださいました。その結果、わたしはイベント先(東南アジアでした)でまたおもしろい方々とたくさん出会うことができたのです。
ミャンマーと日本の架け橋になる医療事業を立ち上げた経営者の方、眉毛まで全身カラフルなファッションに身を包んだアーティストの方、東南アジアに新しい大学を作った方…本当に行動力にあふれた楽しい方ばかりでした。
また、現地で知り合ったある社長の会社では、帰国後から現在までインターンをさせていただいています。不思議なご縁です(笑)
期間限定の「パスポート」は、期間無制限の「武器」へ
冒頭に書いたように、就活生という名前はわたしにとって1年間有効の魔法のパスポートでした。
就活を終えたわたしには、もうこのパスポートはありません。
ですが、代わりに得た図々しさや行動力、世界を広く見る視点などは、これからもずっと使える武器になってくれたと思います。
「なんとなく」の就活でも、内定はもらえます。でも、それだけのために時間やお金を割くのはとてももったいない。せっかくだから、「就活生」の特権を活かして、かけがえのない出会いを手にしてみてはどうでしょう?
と、わたしは就活生やこれから就活生になる方々に伝えたいと思います…!