大学院へ進学することを考えている皆さんにとって、“修了後の進路”について、どのような進路があるのか、気になるのではないかと思う。
今回は、著者が所属している、農学研究科、特に農学専攻における例をもとに、学部卒で就職した場合との違いを主に紹介していく。
農学研究科博士前期課程(修士課程)修了生の進路先
まず、博士前期課程修了生の進路先について紹介していく。
知っている人も多いと思うが、博士前期課程とは、一般に、4年生大学(学部)を卒業後に進学でき、標準卒業年限は2年となっていて、修了後は”修士(○○学)”を取得できる。
著者の身近な修了生における進路先は
- 都道府県の地方公務員(農業職)
- 肥料・農薬メーカー
- 種苗メーカー
- 食品メーカー
が主な進路先であり、おおむね8割方の修了生がこのような分野の企業に就職する。一方、農学とは関係ない分野に就職する例もある。
農学部卒との違いは?
実は、先ほど挙げたような、メーカー等は、農学部卒の学生の進路先としても人気である。
しかし大きな違いは、
- 農業や食にかかわる分野を進路とする人の割合が多いこと
- 同じ企業に就職しても、研究開発分野に配属される場合が多いこと
である。
まず、学部卒の場合、農業や食にかかわる分野を進路とする人の割合は、半数以下である。一方、修士修了生は8割方と、大きく異なる。
これは、大学院進学により、就職可能な分野が狭くなるという考えもあるが、実際には、大学院に2年間在籍した中で、学部生に比べ、自身の進路をしっかり見定める時間があるためではないか?と考えている。
もう一点、学部卒と修士修了生の間には大きな違いがある。
同じ企業でも、学部生と修士修了生の配属先が異なる場合があることだ。同じ種苗メーカーに就職していても、学部卒の学生は営業に、修士修了生は、研究開発の分野に配属されやすいように感じる。
また、地方公務員にあたる都道府県の農業職として入庁した場合、学部卒の学生は、基本的に普及員として、修士修了生は、各都道府県に設置されている研究機関に配属されやすい都道府県もあるようだ。
しかし、企業や都道府県により、学部卒と修士修了生の扱いの違いについては異なるため、就職前に確認しておく必要があるだろう。
農学研究科博士後期課程修了生の進路先
後期課程、すなわちドクターコースまで進学すると、進路先が限られてくるのは事実である。
著者の身近な修了生の場合、修了直後の進路先としては
- 大学内、他大学や先生方の研究費によるポストドクター(場合によっては、国外で行うことも多い)
- 国所管もしくは都道府県所管の研究所における臨時採用
- 農業系企業における研究開発職
といったように、博士前期課程(修士課程)や学部卒と比べて、大きく異なってくるのが特徴だ。
(研究・科学者イメージ、FineGraphicsさんによる写真ACからの写真)
なお、ポストドクターや研究所における臨時採用は、1年~長くとも5年程度の期限付きの職であり、働きながら次の職を見つける必要がある。このことが、現在大きな問題となっている。
なお、修了数年後の進路先としては
- 大学教員
- 国や都道府県所管の研究所に就職
- 1・2か所のポストドクターを経たのち、民間企業へ転職
といった例が多い。
なお、博士後期課程修了後の進路については、少々厳しいように見えるが、周囲の先生方曰く、
- 博士号は、研究を行うための運転免許証のようなものでしかない
- 修了後、複数の研究機関で研究に携わることで、研究の幅・深みが広がる
と言われる。すなわち、修了したとしても、研究者の世界では、スタートラインに立ったにすぎず、修了後も常に、知識を取り入れ続けることが必須であると、よく教えてもらう。
まとめ
今回は、農学研究科を例にして、大学院博士前期課程と博士後期課程の就職先や進路について、紹介した。
一般に、博士前期課程(修士課程)までであれば、学部卒と就職の仕方などは変わらないが、やはり学部卒に比べ、さらに2年間専門分野を学んだだけあり、自身の専門性を生かせる分野に就職する事例が多いと考えられる。
その一方、博士後期課程については、博士前期課程や学部卒と、就職・進路先は大きく異なるように感じる。
アカデミックな世界で研究を継続したい場合、修了後数年~10年程度は不安定な職に就く場合が多い。とはいうものの、博士後期課程修了生のうち、2割程度は一般企業に就職しており、場合によっては民間就職も可能である。
なお、分野により就職先の傾向はかわることがあるので、ぜひ身近な先輩や先生方にも質問してみるとよいだろう。