誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)は直接死につながる怖い疾患です。
しかし、例え治療がうまくいって退院しても、実は誤嚥性肺炎は日常生活に大変な悪影響を及ぼしてしまうのです。誤嚥性肺炎のホントの怖さ…みなさんご存知でしょうか?
- 誤嚥性肺炎は高齢者にとって直接死につながるとても恐ろしい疾患
- 回復しても身体機能の低下と日常生活へ悪影響を及ぼしてしまう
今回は、嚥下障害(えんげしょうがい)を専門にしている現役の言語聴覚士である筆者が、誤嚥性肺炎のホントの怖さ、そして今からできる誤嚥性肺炎を防ぐための工夫をご紹介します。
誤嚥性肺炎がなぜ今話題に?
厚生労働省の統計では、日本人の死因第7位が誤嚥性肺炎です。つまり、1年間で4万人が誤嚥性肺炎で亡くなっている計算になります。今や誤嚥性肺炎は高齢化社会の日本にとって国民病と言えるでしょう。
高齢者に関する重要なキーワードである誤嚥性肺炎ですが、正しい知識を身につけることが必要です。
それでは、まずは誤嚥性肺炎について簡単にご説明しましょう。
誤嚥性肺炎とは?
- 誤嚥(ごえん)とは気管に唾液や食べ物が入り込むこと
- 誤嚥が続くと誤嚥性肺炎になりやすい
- 高齢者に誤嚥が多いのは飲み込みの老化現象
私達が食事をするとき、のどの奥では気管の入り口が筋肉の反射によって自動で閉じる仕組みになっています。この一連の流れを嚥下(えんげ)と呼びます。
この嚥下の仕組みがうまく機能しなくなり、唾液や飲み込んだものが気管に入り込んでしまうのが誤嚥(ごえん)です。誤嚥することは、俗に「ムセる」とも言われています。
高齢者の場合、加齢とともにこの嚥下機能がうまく働かなくなります。足腰の筋肉が徐々に衰えるのと同じ老化現象のひとつです。
この誤嚥ですが、若い人でも経験します。麺類をすする時や急いでお茶を飲んだときに「ゲホッ」となるのが誤嚥です。若くて健康な人なら「あぁ、しんどかった~」と言って終わりです。しかし、高齢者だとそうはいきません。誤嚥が頻回に続くようになると、そのうち肺へのダメージが蓄積され、やがて肺炎になります。
こうして誤嚥することで引き起こされる肺炎が誤嚥性肺炎と呼ばれます。この誤嚥性肺炎のリスクが高いのは圧倒的に高齢者です。全身状態の衰えにより飲み込みの機能も低下してくるためです。
誤嚥性肺炎の症状
誤嚥性肺炎の初期は風邪症状に似ているのが特徴です。原因不明な倦怠感(けんたいかん)や微熱が続き、誤嚥性肺炎に気が付いたころは重症に至っている、そうしたケースも多くみられます。
Photo by 写真AC
- ムセ込むことが多い
- 食欲が無い
- のどがゴロゴロする
- 咳払いが多い
- 偏食が増えた
こうした、食事中のちょっとした変化が見られる場合、誤嚥している可能性があります。つまり誤嚥性肺炎のリスクが高い人だと言えるでしょう。
また、誤嚥性肺炎の明確な診断基準が無いため、医師も診断に迷うことがあるようです。受診の際には、医師に誤嚥の有無や頻度、食事中の様子をしっかり伝えることが適切な治療につながります。
誤嚥性肺炎が恐ろしい3つの理由
誤嚥性肺炎が怖いのは、肺炎による身体への影響の他、日常生活に深刻な悪影響を及ぼすことです。これが誤嚥性肺炎のホントの怖さです。
それでは、どういった影響があるのでしょうか?具体的にご紹介します。
誤嚥性肺炎が及ぼす3つの深刻な影響
- 寝たきりになる
- 栄養不足になる
- 肺炎を繰り返す
通常、誤嚥性肺炎で入院すると食事を停止(禁食)して点滴治療が選択されます。その間、栄養は治療薬とともに点滴によって取り入れる経管栄養(けいかんえいよう)という手段がとられます。経管栄養は、口から食べられない方々への効果的な栄養手段ですが、治療が終わる数日ほど24時間ずっと経管が続くことになります。この状態が長引けば、寝たきりになってしまう高齢者も多く見られます。
また、経管栄養では充分な栄養を受け付けない方もいます。こうした高齢者は、残念ながら栄養や水分が足りなくなり、感染症や褥瘡(じょくそう)ができやすい状態となります。食事意欲は減少し認知面の低下やせん妄など様々な弊害が出てきて、その後の生活能力に影響を与えます。
さらに何度も繰り返すのが誤嚥性肺炎の特徴です。肺炎になるまでの間隔は次第に短くなり入退院を繰り返します。誤嚥しても咳は弱々しく、飲み込みの機能も低下していきます。寝ている時にも唾液を誤嚥するなど、今まで以上に症状はわかりにくくなるのです。
繰り返す肺炎…この悪循環こそが国民病・誤嚥性肺炎の正体です。
※最近では禁食をせずに誤嚥性肺炎の治療と早期のリハビリがおこなわれるケースが増えてきました。
Photo by 写真AC
誤嚥性肺炎を防ぐ方法
誤嚥したからといって、すぐに肺炎になるとは限らないのが誤嚥性肺炎です。最初はじっくり時間をかけて、徐々に身体をむしばんでいくのです。そのため、誤嚥性肺炎はいつ爆発するか分からない時限爆弾に例えられます。
つまり、高齢者は肺に時限爆弾を抱えたまま食べ続けていることになります。高齢者にとって避けては通れない誤嚥性肺炎…。
老化なら仕方ないか…しかし、あきらめるにはまだ早い!ですよ。
実は誤嚥性肺炎を防ぐ効果的な方法があります。
それでは、みなさんにご紹介しましょう。
Photo by 写真AC
1. 誤嚥そのものを防ぐ方法
- 水気のあるものにトロミをつける
- 飲み込みやすい食事にする
- 食べる量を減らす
お茶やコーヒー、味噌汁といった水分は誤嚥しやすい代表格です。
そこで水分に粘性のあるトロミを付けると誤嚥はある程度防げます。気管が閉じる前に水分が流れ込むのをトロミが防いでくれるのです。増粘剤(ぞうねんざい)はドラッグストアや介護用品店にあります。
クリニコ つるりんこQuickly とろみ調整食品 amazon.co.jpより
粉状の増粘剤を入れるだけで、手軽にトロミを付けることができます。
食事中、おかずで誤嚥する方は、食事そのものを変えると良いでしょう。例えば、そぼろ御飯やスクランブルエッグのようなものは、口の中でバラバラ・ポロポロするので飲み込むときに誤嚥しやすくなります。口の中でバラけてしまうような食べ物は避けてください。もし食べるときは、片栗粉を使ったり増粘剤をおかずにかけて餡かけ状にして食べる方法もあります。
また、食事時間が長ければ誤嚥する機会も増えるので、できるだけ食事には時間をかけないようにします。一回の食事量を減らして市販の高カロリー食を併用する、1日4食~5食に少量ずつ分割するなど工夫されると良いでしょう。
Photo by 写真AC
2. 誤嚥しても肺炎を防ぐ方法
- 体力をつける
- 口を動かしたくさんお喋りをする
- 口の中を綺麗にする
誤嚥を防ぐように食事に工夫したところで、やはり100%誤嚥を防げるものではありません!
そこで普段から誤嚥しても肺炎に負けない身体づくりが重要になってきます。
日中はしっかり運動して体力をつけましょう。よく動き、よく笑い、たくさん話すことです。嚥下体操という誤嚥予防を目的にした食前体操もあるので、ぜひお試しください。
誤嚥性肺炎の原因菌を減らすために口の中をきれいにしましょう。歯磨きやうがいは効果的な予防法として推奨されています。
まとめ
誤嚥性肺炎は普段の生活や食事の工夫である程度は防げます。それでも加齢とともにリスクは格段と高まるのが誤嚥性肺炎です。
まずは誤嚥しても肺炎にならない身体づくりと早めの対応が重要となってきます。