虐待に気付くことは誰にでも出来ます
介護保険導入以降、行政やケアマネージャー、介護サービス事業者などが、家庭の状況を把握し始め、家庭内における虐待の問題が表面化してきました。
昔は、夫婦、親子げんかと認識されていた事例が虐待として認知され始め、家族や介護サービスを利用するだけでは、対応しきれない社会問題となっています。
高齢者虐待が起こる原因の多くは、介護疲れや介護のストレス、被介護者の認知機能の低下によるものです。
虐待についての理解を深め、虐待の無い社会を目指しましょう!
高齢者虐待とは
① 身体的虐待
高齢者の身体に外傷を与え、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
(例)
叩く、つねる、蹴る
物を投げつける、押さえつける
② 介護放棄(ネグレクト)
高齢者を衰弱させるような著しい減食、長時間の放置、養護者以外の同居人による虐待の放置など
(例)
着替えさせない、ひげや髪が伸び放題
オムツを変えない、不衛生な状態で生活をさせる
③ 心理的虐待
高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、その他心理的外傷を与える言動を行うこと。
(例)
怒鳴る、罵る
老化現象を笑ったり、からかったりする
介護者の都合でおむつを使用したり、食事の介助をしたりする
④ 性的虐待
高齢者にわいせつな行為をすること、又は高齢者にわいせつな行為をさせること
(例)
キス、性行為などの強要
懲罰的に裸にする、
人前で排泄をさせたり、オムツ交換をする
⑤ 経済的虐待
高齢者の財産を不当に処分すること
その他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること
(例)
日常生活に使用する金銭を不当に制限する
自宅などを無断で売却する
金銭の寄付、贈与の強要
年金や預貯金を無断で使用する
高齢者虐待の背景、要因
虐待者側の要因
介護疲れ、虐待者の人格や性格、虐待者の疾病や障害、介護に関する知識不足、経済的な問題など
高齢者側の要因
認知症による言動の混乱や身体的自立度の低さ、高齢者本人の性格や人格、疾病、病気など
人間関係などの要因
これまでの人間関係
精神的、経済的依存
老化による認知機能の低下、精神的なバランスの崩れ
社会環境などの要因
周囲の人の介護への無関心
希薄な人間関係
社会からの孤立
老々介護、単身高齢者の増加
上記のように、様々な背景、要因があり、虐待へと繋がっています。
これらの要因がどのように虐待へと繋がり、どんな気付きのサインがあるのかを見てみましょう
具体的な事例と気付きのサイン
ケース1 妻から夫への虐待 70代夫婦2人暮らし
夫が認知症を発症していて、家の物を好きにさわって壊してしまったり、自宅にあるものを次から次へ食べてしまったり、昼夜構わず外出し、近所の人に通報されてしまったりすることが頻繁に起きている。
妻は家事をこなしながら毎日孫の面倒も見ている。
介護サービスは利用しているが、妻の介護疲れやストレスはかなり溜まっている。
通所サービス利用時に、入浴中体の確認をすると、腕や肩などにあざを発見。
本人はぶつけたと話していたが、毎回来るたびに傷が増えていき、顔や頭にも傷が出来るようになったため、妻と面談し話を聞いた所、初めは否定していたが、最終的にカッとなって手を挙げたことをお話しされる。
ケース2 息子から母への虐待 80代60代の母と息子 2人暮らし
訪問、通所のサービスを利用しているが、息子は自宅で薬の管理もせず、車いすに座らせたままで放置していたり、汚れていてもオムツを替えないということが続いていた。
本人は自分では内服もベッドへの移譲も出来ない為、車いす上で寝ていたり、健康状態が悪化するなどの状況が続いていた。
電話などでの聞き取りでは、きちんとやっているとのことだったが、自宅へ行くと全く改善されなかった。
本人の様子や家族の様子に変化や違和感を感じた時には、虐待にも十分注意が必要です。
外傷にも注意しながら、体重の増減や病状の変化、自宅内の様子などいつもと違う所はないか確認が必要です。
ケース3 施設職員から入居者へ虐待 施設に入所している80代女性 認知症状あり
認知症があり、介護者への依存が強く、支援の訴えを繰り返しお願いしてしまい、職員の手が止まってしまうことが多々あった。
ある日、「本人が何回言ってもやってくれない」「誰も聞いてくれない」などと話すようになり、落ち着きがないことが増えてきた。
職員への聞き取りを行たところ、一部職員が、無視したり、嫌な顔をして強い口調で返事をしたり、子供相手のように対応していたりなど、不適切な支援が発覚した。
主な気付きのサインとしては
・体の傷やアザ
・自宅内の環境(おむつや食べ物の散乱)
・病状の悪化
・無力感、投げやりな態度
・落ち着かない、動き回る
・十分な収入があるにもかかわらず、お金の心配をしている
・家族が行政や介護の職員と話をしたがらない
・自宅から怒鳴り声などが聞こえる
・長時間外にいることが多い
一部例ですが、以上のようなサインが考えられます。
サインがあったからといって、必ずしも虐待があるとは限りません。
ただ、こういったことが1つの気付きとなり、早期発見に繋がることもあります。
偏った偏見で見ないように、十分配慮をしながら、様子を見ていきましょう。
実際のケースでの対応策
まず、虐待かどうかを判断することが難しく、傷があっても何の傷なのかを判断出来ない場合も多いです。
また、心理的虐待などの場合、証拠が残りにくく、認知症などの場合も余計に判断が難しいことが多いでしょう。
ケース1の場合、初めて家族に虐待のお話をした時には、一人で転んだ等とお話しされ、認めることはなかったですが、話を続けていくうちに、つじつまが合わなくなり、最後には手を出したことを認めました。
経済的理由から、施設への入所も拒否され、今後も虐待の恐れがあることから、行政の相談窓口へ連絡し間に入っていただきました。
自宅での妻の負担が多いことで、このままでは再度の虐待の危険があると判断され、措置による施設入所となりました。
ケース2の場合も、家族と話し合いを持ち、内服薬の管理やオムツ交換の協力を何度もお願いしましたが、やっていただけるのは一時的なことで、すぐに元に戻ってしまいました。
行政の相談窓口へ連絡して、訪問の動向を依頼、再度のお願いをしましたが、改善見られず入所の手続きを進めている所で、体調を崩し入院となりました。
この2ケースのように、虐待に気が付いた人だけで、すべてを解決することは、とても大変ですし、難しいです。
ケース3のように介護施設で虐待が行われているケースでは、身体的虐待や心理的虐待が多く、夜間の職員の手薄な時間帯や個室内などで行われることが多いです。
原因は、教育・知識不足や職員のストレス、人員不足や人員配置の問題などがあげられ、自覚なく行われているケースも多くあります。
改善のために、利用者の安全を確保し、研修や自己チェックにより、意識を変えることや人員的に余裕をもって、一人ではなく複数で支援に当たれる環境作り、虐待防止マニュアルの作成をして、職員や利用者本人、その家族が、すぐに相談できる窓口の設置などを行いました。
虐待を疑う様子が見られたとしても、家族や介護職員などがすぐに認めることは少ないですし、虐待が起こる背景には原因があり、虐待している側を一方的に攻め立てても何も解決しません。
行政の職員や専門職に間に入っていただくことで、お互いに落ち着いて話ができたり、改善策の幅も広がります。
お住まいの地域には、虐待の相談窓口が必ずあります。
自分一人で悩んだり、解決しようとせずに、必ず相談するようにしましょう。
まとめ
虐待の相談や認定の件数は、年々増加傾向にあります。
多い種別としては、身体的虐待が1番多いですが、複数の種別があることも多くあります。
専門機関に相談したり、通報したりすることはとても勇気のいることです。
その後の関係性などを考えると、なかなか相談しづらいと思うこともあるかもしれませんが、勇気を出して一歩踏み出しましょう。
注意をして様子を見ていれば、虐待は誰でも発見することが出来ます。
みんなで理解を深めて、高齢者虐待の芽を早期に摘み、未然防止と高齢者の支援に繋げていきましょう。