「クラシック音楽は癒しだ」という人が、世の中にはたくさんいます。実際にクラシックコンサートやCDのキャッチコピーを見てみると、「癒し」「華麗な」といった言葉を使用していることも多いでしょう。ですが、本当に「クラシック音楽は癒し」なのでしょうか? 実は、一口にクラシック音楽といっても様々な種類の音楽があり、中には、まるで現代の映画音楽やジャズ、ロックのような作品もあるのです。今回はその大まかなジャンルを紹介します。・古典派音楽まず、いわゆる「癒し」の音楽として上がりやすいのが、この古典派の音楽です。時代は、17世紀中頃から19世紀頃。厳密には「前古典派」と呼ばれる時代もありますがここでは割愛します。この時代の音楽に当たるのは、おなじみのモーツァルト、ベートーヴェンといった作曲家たち。一言でいうなら「音楽/音が大事」という人たちで、個人的な感情やストーリーを表に出すことはあまりありませんでした。彼らの音楽は確かに、クラシック音楽の大きな基準の1つとなり、のちの作曲家や演奏家たちに多大な影響を与えます。・ロマン派の音楽さて、古典派の音楽からさらに時代は下り、人々はもっと「個人的な」音楽を求めるようになります。怒ったから怒りの、喜ぶから喜びの音楽を。現代に生きる我々とって、音楽といえばまさに個人によりそうもの。自分の心に直接重なり合うから、歌詞に共感したり、曲の盛り上がりに感動する。ロマン派になってくると、そういう今時の感覚に近くなってきて、メロディも歌いやすくなってきます。ですが、まだまだ、この辺りの音楽は「癒し」「優雅」なイメージが強いです。・印象派、そしてワーグナーの音楽そろそろ雲行きが怪しくなってくるのが、この時代の音楽です。19世紀後半~20世紀頭にかけて、これまでの「優雅」さはどんどん薄れて行き、不思議な響き、不穏なメロディが現れてきます。なぜ、これまでの音楽は優雅だったのかというと、一つには「調性」というものがあります。ややこしい話になってしまうので簡単に済ませますが、要するに「綺麗な音の響きに収まっているかどうか」ということが、これまでの音楽では重視されていました。もし、その綺麗なハーモニーから外れても、必ず、元いた輪に帰ってくる。それが、我々がクラシック音楽を聴いて「癒し」「優雅」に感じる理由なのです。ところが、この時代になってくると、「もう帰ってこなくていいや」あるいは「そもそも、帰る場所なんていらないや」という考えが増えてきます。それを決定的にしたのがドイツの作曲家・ワーグナーだと言われています。例えば、ワーグナーの「タンホイザー」という音楽を聴いて見てください。まるで、今の映画音楽のように壮大で、どこが終わりなのかわからない感覚がすると思います。また、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」も聴いてみると、いわゆる「癒し」の音楽からかけ離れた音楽でびっくりすると思います。「ラ・ヴァルス」はワルツという意味ですが、こんなのはワルツじゃない! と感じる人もいるかもしれませんね。・エキゾチックで民族的な音楽ところで、あなたが普段、街中を歩いていて耳にする音楽はどんなものでしょうか? J-POP、ジャズ。クラシックもかかっているかもしれません。そんな中、ちょっと耳馴染みのない笛の音や、軽快な打楽器のリズムを聞いたことはありませんか?そう、民族音楽です。軽快で踊るようなリズムや、日本の童謡のようなちょっと不思議な音階には、どこか懐かしさを感じる人も多いのではないでしょうか。実は、クラシック音楽の作曲家たちの中にも、そういった民族的な音楽を多く作曲した人々がいます。例えば、ハンガリーのベラ・バルトーク。彼は蓄音機を使ってハンガリー各地の民謡を採集し、自らの作曲にも生かしました。ハンガリーという国は、ヨーロッパの中でも東欧に位置する国のため、日本の音楽にも通じる部分が多々あります。日本の演歌や舞踏に近いリズム、節回し、音階。バルトークの「舞踏組曲」を聴いてみると、ちょっと踊ったり歌いたくなるかもしれません。・ともかくカッコいい、不協和音でもなんでもOKの音楽実は、先ほどのバルトークは、もっと尖った音楽も書いています。ヒッチコックの映画に使われそうな不協和音であったり、強烈なリズムであったり……こういった音楽がいよいよ作られ始めるのが、世界大戦前後。この近辺の音楽こそ、実は意外と知られていない「癒しではない」音楽なのです。代表的なのが、旧ソ連の作曲家たちです。ショスタコーヴィッチの「交響曲第5番」は、近年、クラシック界ではずいぶん演奏されるようになりました。これがまたかっこいいのです。映画アルマゲドンのBGMと言われても違和感がないくらいです。また、プロコフィエフという作曲家のことも忘れてはいけません。彼の代表的な音楽といえば、バレエ「ロミオとジュリエット」。この楽曲の一部は、ソフトバンクの有名なCMにも使われていて、とても奇妙でおどけたような音楽です。彼はまた、「時計仕掛けのオレンジ」といった映画音楽も残しています。・まとめこのように、一口に「クラシック音楽」と言っても、癒しの音楽ばかりではありません。ちょっと不思議だったり楽しかったり、カッコいい音楽がたくさんあります。クラシック音楽に馴染みがないという人は、モーツァルトやベートーヴェンから聴くのではなく、むしろ、近現代の音楽から入ったほうが楽しめるかもしれませんよ。