音楽の花形と言えば、ピアニストが思い浮かびますね。ピアニストが主役のドラマはありそうで少ないのですが、映画『蜜蜂と遠雷』やドラマから映画化もされた『のだめカンタービレ』など聞いたことがあるではないでしょうか。
もしもピアノが弾けたなら…と歌になってしまうほど、指先から紡ぎ出される音楽に憧れる人も多いはず。
こちらでは、昭和や平成に放送されたピアニストが主役の懐かしいドラマにピアノソナタの話をまじえながらご紹介いたします。
ドラマ『赤い激流』
ドラマ『赤い激流』は、1981年に水谷豊の主演で放送されました。当時、アイドルの絶頂期にあった山口百恵主演の大ヒットドラマ『赤いシリーズ』のひとつで、シリーズ上で初めて男性が主役になったうえ、最高視聴率37.2%をたたき出した名作なのです。
ストーリー
しがないジャズ喫茶でジャズピアニストとして演奏していた敏夫が亡き父のライバルである音大の教授・大沢に天性の素質を見出されます。感情的な性格を持つ敏夫は、家族との確執など運命の歯車に巻き込まれながらもピアニストとしてその才能を花開かせるのですが、殺人事件の容疑者として逮捕されてしまうのでした。
『赤い激流』で注目の曲:ピアノソナタ第17番『テンペスト』~第1楽章
ショパンやリストなどさまざまな名曲が演奏されるなかで、注目したいのはベートーヴェンの『テンペスト』。この曲は、ベートーヴェンがシェイクスピア最後の作品『テンペスト(あらし)』から着想を得て作曲しました。
敏夫が、コンクールの最終選考で演奏しているのは第1楽章で、演奏者が男性ということもあり力強いながらも滑らかに発せられる音はまさに運命の渦に巻き込まれて行くような感覚になります。
『赤い激流』を楽しんだら、ぜひシェイクスピアの戯曲を読んで、『テンペスト』を第3楽章まで聴いていただきたいです。
ドラマ『少女に何が起こったか』
ドラマ『少女に何が起こったか』は、1985年にキョンキョンこと小泉今日子の初主演作として放送されました。赤い激流と同様に、大映テレビとTBSの共同製作でピアニストが主役であることや演奏曲など共通するところがままあります。
『少女に何が起こったか』は、「ドジでノロマな亀」という名台詞で大ヒットした堀ちえみ主演の『スチュワーデス物語』を生んだ大映ドラマシリーズのひとつで、大映ドラマならではの『わざとらしい演技』が人気でもありました。
小泉今日子は、ドラマ『あまちゃん』で劇中歌の『潮風のメモリー』がヒットしたのも記憶に新しいところですね。
ドラマ出演当時は、トップアイドルとしてヒット曲を連発し絶頂期を迎えていました。『少女に何が起こったか』では、故石立鉄男の名台詞「薄汚ねぇシンデレラ!」とののしられるところは今でも名シーンとして語り継がれています。
ストーリー
母子家庭で育った野川雪は、母の死をきっかけに父親が名ピアニストの東雪彦(あずまゆきひこ)であることを知らされます。
雪は、東音楽大学学長の祖父・東雪雄に、勘当した父と元使用人の母の結婚と雪を東家の人間であることを認めさせるため上京。
東家の使用人として働きながら音楽学校の特待生としてピアノを学びますが、東家の人間からつまはじきにされ毎晩ピアノの練習を邪魔しに来る刑事にののしられるなか、困った時に窓辺に黄色いハンカチを掲げると現れる謎の男は助けてくれるのでした。
『少女に何が起こったか』で注目の曲:ピアノソナタ第23番『Appassionata(熱情)』~第3楽章
劇中では、コンクールの課題曲としてショパンの『革命』も演奏されますが、やはり注目したいのはベートーヴェンの『熱情』。この曲は、ベートーヴェン最愛にして不滅の恋人と言われるヨゼフィーネとの叶わぬ恋に苦しんでいた頃に作曲されました。
第1楽章から静かに湧き上がってくる熱情が表現されています。伯爵の妹であったヨゼフィーネと身分違いがゆえに引き裂かれてしまった恋。難聴という運命のなかにもあって、ベートーヴェンの時に激情的にもなる性格では抑えきれなかった愛情を爆発させた作品と言えるのです。
そんな、ベートーヴェンの想いを感じながらドラマ『少女に何が起こったか』を楽しんで、この『熱情』を第1楽章から聴いていただきたいです。
ドラマ『フジ子・ヘミングの軌跡』
NHKのドキュメンタリーで一躍有名になったピアニスト・フジ子・ヘミング。フジテレビで、フジ子・ヘミングの半生をドラマ化するとその波乱に満ちた流転の半生はさらに大きな反響を呼びました。
そして、アルバム『奇蹟のカンパネラ』クラシック界では考えられないミリオンセラーを達成したのです。今年の2月には、NHKのファミリーヒストリーが放送されたばかり。見逃した方、再放送されるといいですね。
菅野美穂は、堺雅人との結婚後に2児をもうけて女優業からは遠のいていますが、連続ドラマ『イグアナの娘』での演技が高い評価を得てから今もなおその評価は衰えを知りません。(私もそのドラマから菅野美穂のファンでした♪)
しかし、女優としての限界を感じていたという1996年。それでも、そんなこと心配をすることもなくその才能をいかんなく発揮した迫真の演技が光っています。
ストーリー
フジ子は、スウェーデン人である父とピアニストの母を持ち、母のあまりに厳しいレッスンに辛い時もありますが、世界的なピアニストになりたいと思うようになり日々レッスンに励みます。それは、フジ子の才能を見抜いてのことでした。
血のにじむような日々でした。16歳のフジ子は、病で右耳の聴力を失いながらも女学校在学中にデビュー、天才少女として一躍有名になり芸大を卒業、ピアノ留学をしようとするフジ子に思わぬ運命が立ちはだかります。
その後、救いの手を差し伸べられピアノ留学を果たすも、またもや数々の不運に見舞われ自分の才能も人生も見失ってしまうのでした。
『フジ子・ヘミングの軌跡』で注目の曲:『ラ・カンパネラ』パガニーニによる大練習曲 第3番 嬰ト短調
ショパンやリストなどさまざまな名曲が演奏されるなかで、注目したいのはもちろんリストの『ラ・カンパネラ』。この曲は、パガニーニのヴァイオリン協奏曲第2番の第3楽章『鐘のロンド』(主題)を編曲したものです。パガニーニのヴァイオリンを聴いたリストは、大変な衝撃と感銘を受けて「僕はピアノのパガニーニになる!」とこの曲を作曲したのでした。
『ラ・カンパネラ』はフジ子の代名詞。
ドイツの新聞で「ショパンとリストを弾くために生まれてきた」と大絶賛されたほどです。菅野美穂は、ドラマに向けてかなりピアノの練習をしたそうです。私は、ピアノは弾けませんが、実際にフジ子・ヘミングのコンサートに行ったことがあります。空間いっぱいに響き渡るその旋律は、鐘の音に包まれながららせん階段に吸い込まれて上がる感覚にさえなります。
ドラマ『フジ子・ヘミングの軌跡』を楽しむだけではなく、フジ子・ヘミングのコンサートに足を運んで会場に響き渡る『ラ・カンパネラ』を聴いていただきたいです。
まとめ
幼い頃に、少しだけ習って辞めてしまったピアノの練習、続けていればよかった…今からでも習いたいと思わせるドラマです。しかも、曲だけではなくどのドラマも演技に惹き込まれること間違いなし!ぜひDVDでご覧になって下さいね。