ヴィオラは、人によって、とりわけ音色や役割などのイメージが異なる楽器。ある意味、明確な基準が存在しない弦楽器ともいえるでしょう。
今回は、そのヴィオラを購入する際の選び方を、紹介していきます。
ヴィオラの選び方を考える前に ── ヴィオラはどんな楽器?
ヴァイオリンからヴィオラに乗り換える、そんな人も多いでしょう。そのため、「ヴィオラの選び方」というとピンとこないかもしれません。「ヴァイオリンの選び方と何が違うの?」という人もいるでしょう。
実は、ヴィオラにはヴィオラならではの選び方、そして、楽器の個性があります。
まずは、ヴィオラが作曲家や演奏家たちからどんな評価・扱いをされてきたか、ざっと流れを辿ってみましょう。
「ヴィオラは大きなヴァイオリンではない」
「ヴィオラは大きなヴァイオリンではない」
そう主張したのは、20世紀を代表するヴィオリスト、ウィリアム・プリムローズでした。同じく20世紀を代表するヴァイオリニスト、ユーディ・メニューインとの共著『ヴァイオリンを語る』(シンフォニア出版)で、プリムローズは「ヴィオラは17世紀にはそれ以降よりもずっと高い地位を保っていた」という旨を、テレマンのヴィオラ・コンチェルトの編集序文から紹介しています。
また、その17世紀から少し下った18世紀中頃には、あの、西洋史に残る大天才・W.A.モーツァルトがいます。
今更何を言うまでもない著名な作曲家である彼も、自ら室内楽を演奏するとなると、好んでヴィオラを演奏していました。モーツァルトや、その少し年上になるヨーゼフ・ハイドンの弦楽四重奏曲は、ヴィオラが重要な働きを持つようになった初めての楽曲群とも言えます。
そうして時代が下り、現代に近づけば近づくほど、ヴィオラの重要性は認識され、レパートリーもどんどん増えていきました。ブラームスのヴィオラ・ソナタ、ドヴォルザークの三重奏曲、そして20世紀ドイツに現れる、パウル・ヒンデミット。
作曲だけでなくヴィオラ演奏なども行なったヒンデミット。彼の無伴奏ヴィオラのためのソナタや、ヴィオラ協奏曲「白鳥を焼く男」といった楽曲は、今や、ヴィオラ弾きには欠かせないレパートリーになっています。
ヒンデミットの作品を聴くと、ヴィオラへのイメージがかなり変化すると思いますよ。
オーケストラや室内楽。アンサンブルにおける様々な局面で、重要な働きを持つヴィオラ。
そして、アンサンブルだけではない、ソロ楽器としての魅力を忘れてはいけないのです。ヴィオラは、決して「大きなヴァイオリン」などではなく、それ単体で完結している弦楽器なのです。これを踏まえた上で、ヴィオラの選び方を考えていきましょう。
ヴィオラの選び方のポイント① 音色
今、あなたが思い描いているヴィオラの音色はどんなものですか?
冒頭で述べた室内楽的なヴィオラを思い浮かべている人もいれば、ソロのヴィオラを思い浮かべる人もいるでしょう。ホフマイスターの朗らかなヴィオラ・コンチェルトや、ブラームスのシンフォニーで重厚な響きを乗せるヴィオラを想像する人、いろんな人がいると思います。
まず、あなたが求めるヴィオラの音色はどんなものか、はっきり決めておきましょう。
あなたがもし、オーケストラや室内楽のヴィオラに魅力を感じるのなら、より内声で深い響きを持つ、落ち着いた音色を。
コンチェルト、ソリストのヴィオラ弾きとして活躍したい、コンクールなどを受けたい、というなら、華やかな音色を求めるのがベターかもしれません。
とりわけ、ヴィオラの音色の選び方は、高音部であるA線、最低音部のC線、どちらを重視するかで変わってきます。これはおそらく、ヴィオラのボディそのものが大きいために起きる現象です。
ヴィオラのサイズについては、次の項目から見ていきましょう。
ヴィオラの選び方のポイント② 楽器のサイズ
ヴィオラの選び方を最も左右する要素。それがサイズです。
弦楽器のサイズには、どうしても個体差があります。特にヴィオラのサイズにはかなりのばらつきがあり、ヴァイオリン以上に身体へのフィット感が重要になってきます。ちなみに、ヴィオラの平均的なサイズは39cm~40cmほどのようですね。
※ここでいうサイズとは、ボディのサイズを指しています。
ヴィオラの魅力といえば、あの独特の幅広い響き。それはアンサンブルでもソロでも同じですよね。そのためどうしても、響きやすそうな、大きい楽器を選びたくなります。
ですが、必ずしも大きければ大きいほど良いというわけではありません。実際、音が鳴る箱が大きい=サイズが大きいことはメリットでもありますが、演奏者の体格によってはデメリットとなり得ます。
ヴィオラのサイズの選び方は、以下のような点に気をつけておくと比較しやすいでしょう。
- 重さ。単純に、楽器を構えたとき重すぎないか。
- 楽器の分厚さ。顎をストレスなく乗せられるか、肩に圧迫感があったり、反対に、肩を上げなくてはいけないことはないか。
- 弦長の長さ。指板(左手の指が抑える黒い部分)までの距離は遠すぎないか?腕に無理な負担がかからないか?
▶︎弦長についてはこちらの弦楽器専門店サラサーテで、動画付きでわかりやすく解説されています。ぜひ参考にしてみてください。
ヴァイオリンのボディを一回り大きくしたようなサイズ、と簡単に言われることの多いヴィオラですが、結果として、その形はとてもアンバランスなものになっています。
大きく響きの良いものを選べば、腕が届きにくい。
腕が届きやすくても、今度は顎が乗せにくい。
全ての条件が揃う楽器を見つけるのはなかなか厳しい上、ヴァイオリンほど数多く製造されているわけではない。それがまた、ヴィオラという楽器の選び方を難しくしているのですね。
むやみやたらに大きめのサイズを選ぶのではなく、あなたの身体に適切かどうかをよく考えましょう。
ヴィオラの選び方のポイント③ 発音の反応速度
これは「バイオリンの選び方」でも触れましたが、ヴィオラもやはり、発音の反応速度は重要な要素になってきます。
▶︎バイオリンの選び方はこちら。「サイズ、値段……バイオリンの選び方で誰もが悩む4つの疑問」
特に、ボディが大きく鳴りも大きい、ということは、それだけ反応速度も遅いということ。この、ヴィオラならではのレスポンスは、ヴァイオリンから乗り換えた人がつまずくポイントでもあります。
当然、ヴァイオリンのような軽い反応速度はなかなか実現しません。ですから、いくつかのヴィオラを弾き比べた上で、弓をつけてから実際に弦が発音するまでの間を吟味しましょう。
ちなみに、この「楽器が大きくなればなるほど、よく鳴り響くようになる一方で、発音までのタイムラグも広がっていく」──という原則は、ヴィオラ以上の大きさを持つチェロやコントラバスにも通じます。覚えておくと、演奏する上で何かと役に立ちますよ。
ヴィオラの選び方・まとめ
ヴァイオリンと似て非なる楽器、ヴィオラ。その選び方ひとつとっても、ヴァイオリンよりもさらに丁寧な吟味が必要となることがお分かりいただけたかと思います。
まずは、あなたの中でのヴィオラのイメージをはっきりさせること。
その上で、ヴィオラのサイズ感、発音などを弾き比べること。
ぜひ、あなたにぴったりのヴィオラを選んでくださいね。