昨今、街中を常にイヤフォンをしながら──音楽を聴きながら歩いている人がごくごく当たり前にいます。特に2010年後半くらいから、「Bluetooth」などに代表される、有線ではないワイヤレスのイヤフォンが主流となり、より気軽に、手軽に普段から音楽に親しんでいる人も多いのではないでしょうか。しかし、一方で筆者は、そういった人たちの「耳」の使われ方に時々、不安を覚えます。「周囲に注意が向かない」「背後から迫る自動車に気がつかない」といった使用者の安全を懸念する声もあるようですが、筆者がここで言いたいのは、そもそも、日常的に存在する音に気がつけないということです。実は、音楽を聴かなくても、わざわざオーディオプレイヤーを使わなくても、人は、その耳で様々な音、そして音楽を捉えることができるのです。先ほど書いた自動車音などはその代表例ですが、ほかにも、耳を傾ければいろんな音が存在しているのです。そこで今回は、日常に存在する些細な音の代表例を取り上げてみましょう。「そんなの当たり前じゃないか」と思うようなものばかりかもしれませんが、最近、あなたはそれらの音にきちんと耳を傾けたことがあるでしょうか? 今一度、考えてみると、あなたが普段聞き逃していた日常の音楽が聞こえてくるはずです。・靴音今日のあなたは、どんな靴を履いていますか? ハイヒール? 革靴? それとも運動靴?では、その靴音はどんな音ですか?地面がアスファルトなら乾いた音が、もし雨が降っていたなら水しぶきが跳ねる音もしているはず。また、前から歩いてくる人、後ろから歩いてくる人はどんな足音をしていますか?一人かもしれないし、あるいは二人、家族連れかもしれない。足踏みは揃っているかもしれないし、てんでバラバラかもしれない。人の足音には、その人それぞれの表情が現れるものなのです。・話し声歩きながら友人と談笑している人、通りの端で会社の同僚同士、立ち話をしている人々、スマートフォンで何か怒ったように電話している人。話の内容まで聞き耳をたてると悪趣味だと言われてしまうかもしれませんが、どんな声で、どんな口調で喋っているのか、その人は怒っているのか、喜んでいるのか、声音に注意して聞いてみると楽しいですよ。一見、楽しそうに談笑している人でも、よくよくその声に注目してみると、実は違う表情が聞こえてくることもありますし、ひいては、自分が普段している話し方や声音がどんなものか、気がつくきっかけにもなります。・虫の鳴き声ここまで挙げてきた音は人々の生活や動作に即した音でしたが、普段何気なく耳にしている音として忘れてはいけないのが、自然が生み出す音です。木々の葉が擦れる音、風がそよぐ音など様々ですが、その代表例として真っ先に浮かんでくるのが虫の声でしょう。例えば今、筆者がこの記事を書いている時期は夏なので、セミの声が毎日うるさいくらい響いています。その声をよく聞いてみると、鳴き声1つとっても、いろんな音色があることに気がつきます。ミンミンゼミ、クマゼミ、ひぐらし。こうした、セミの種別ごとに違う声音はもちろん、それらの声にも抑揚が存在しています。同じセミの声でも、長く伸びる声もあれば、とつぜん、ジジッと鳴き止んでしまう声もあります。それらの声には、いったいどんな理由があるのか? 検索すればどんな疑問でも答えが見つけられるからこそ、どうすれば新たな疑問を手にすることができるのかが問われる現在、虫の声1つとっても、興味を抱いてみると意外な発見があるかもしれません。・音と匂い少し話は逸れますが、音には匂いがつきものであると、筆者は考えています。排気音なら排気ガスの、木々がこすれる音には葉っぱや土の、室内から聞こえる、高温の油で何かを勢いよく揚げる音には、なんともいえない美味しそうな匂いが、それぞれ香ってきます。聴こえてくる、といってもいいかもしれません。それくらい、音というものは人の五感・記憶に結びついています。特に匂いは、どうやら人の記憶との結びつきが強いらしく、あるものの音を聞いただけで匂いが蘇ってくることも多いのです。あなたにも、「この音を聞くとこんな匂いがする」という思い出の音が、日常のどこかに紛れているはずです。ほかにも、ここではとても挙げきれない様々な生活音、自然音が、あなたが普段耳栓をしてしまっている日常に溢れているはずです。時には、音楽ばかりではなく、周囲の身近な音に耳を傾けてみてはいかがでしょうか?