「源氏物語」といえば光源氏、美少年でプレイボーイとして有名です。漫画というと、古文のイメージはつかないかもしれませんが、「あさきゆめみし」を読めばイメージはガラッと変わります。
Fans,15th–16th century
元号の令和が、万葉集から選ばれたことで話題になっていますが、「源氏物語」にも和歌が散りばめられています。
こちらでは、源氏物語のイメージを崩すことなく漫画化された「あさきゆめみし」から、光源氏が愛した女性をピックアップしてご紹介いたします。
源氏物語
「源氏物語」は、平安時代中期に紫式部原作の長編小説で、日本最古の恋愛小説としても有名な作品です。
光源氏の浮名を中心として、平安時代の貴族社会でうず巻く政治的な絡みや権力闘争、繁栄と没落なども織りこまれた読みごたえのある物語です。
現代語訳は、田辺聖子や瀬戸内寂聴に与謝野晶子、最近では角田光代など、さまざまな著者によって手がけられてきました。
あさきゆめみし
原作とは、異なるエピソードも織りこまれていますが、瀬戸内寂聴も絶賛した作品。少女漫画界で、一大ブームを巻き起こし翻訳した海外版の漫画も出版され、さらには宝塚歌劇団で舞台化や映像化もされました。
昨年2019年に、アメリカのメトロポリタン美術館で行われた「源氏物語展」に際し、あさきゆめみしの原画展示会も開催されました。
藤壺の宮
藤壺の宮は、光源氏の亡き母・桐壺更衣に生き写しで、父・冷泉院の妃でありながら、光源氏が追い求める運命の女性です。
光源氏は、藤壺の宮への叶わぬ想いを押し殺したまま葵の上を正妻に迎え入れます。
後に、心ならずも光源氏との過ちから身ごもってしまい、生まれてきた子(後の冷泉帝)を冷泉院との息子として育てなくてはならないことに、罪悪感を拭いきれず苦悩の生涯を送るのでした。
光源氏から、藤壺の宮に送った和歌
『もの思ふに たち舞ふべくも あらぬ身の 袖うちふりし 心知りきや』
Genji mourning the loss of Fujitsubo, from the manga series The Tale of Genji: Dreams at Dawn (Genji monogatari: Asaki yumemishi),1984
葵の上
葵の上は、光源氏より年上の気高く美しい正妻です。
年下の光源氏は、あまりにも美しくて接し方がわからないまま素直にもなれず心はすれ違ってばかり。光源氏は、藤壺の宮のこともあり心の隙間を埋めるために六条の御息所と逢瀬を重ねます。
その後、葵の上は光源氏の子を身ごもりますが、葵祭で六条の御息所と車同士の騒動がもとになり、プライドを傷つけられた六条の御息所が遺恨を抱くと葵の上は生霊に苦しめられるようになります。
息子・夕霧を生み、やっとのことで光源氏と心が通じ合った幸せもつかの間、生霊に呪い殺されてしまうのでした。
光源氏から、亡き葵の上を読んだ和歌
『見し人の 煙を雲と ながむれば 夕べの空も むつましきかな』
The wandering spirit of Lady Rokujō, Genji’s neglected lover, attacking his first wife, Lady Aoi, from the manga series The Tale of Genji: Dreams at Dawn (Genji monogatari: Asaki yumemishi),ca. 1981
六条の御息所
六条の御息所は、先の春宮妃という高貴な才色兼備の貴婦人です。
年下の光源氏にはなかなか心を許しませんが、だんだんと惹かれていき逢瀬を重ねるもの、光源氏は気を休めることができず足を遠のけるようになり、六条の御息所はプライドを大きく傷つけられます。
嫉妬深いうえに、葵祭での一件で遺恨を抱いた六条の御息所は、無意識のうちに生霊となって葵の上や夕顔の君を呪い殺してしまうのでした。
生霊である六条の御息所が葵の上にのり移って、光源氏に呼んだ和歌
『嘆きわび空に乱るるわが魂(たま)を 結びとどめよしたがひのつま』
夕顔の君
偶然、光源氏が垣根の夕顔の花に目をとめた際、扇に乗せた夕顔の花を使いの者から渡した女性です。
光源氏が、花を受け取り歌を返したことが縁で逢瀬を重ねますが、お互いに素性を明かさず癒しを与える夕顔の君の心は、いつも窓の外に向けられていました。
実は、光源氏の義兄である頭の中将との間に娘・玉鬘をもうけた過去があり、どんなに身を落としても、想う人はただ一人という誇りをもち、頭の中将を待って続けていたのです。
ある日、光源氏の希望でひと気のないさびれた某院(なにがしのいん)で逢瀬しますが、夕顔の君は生霊にとり憑かれ呪い殺されます。生霊の正体は、六条の御息所だと知る光源氏でした。
夕顔の君から、光源氏に送った和歌
『心あてに それかとぞ見る 白鷺の 光そへたる 夕顔の花』
紫の上
紫の上は、幼いときに藤壺の宮の姪と知った光源氏が屋敷に連れ帰る女性です。
藤壺の宮の面影を残した紫の上は、光源氏を兄と慕い成長して最も寵愛を受けながら正室になれず、病でその生涯に幕をとじるのでした。
光源氏から、若紫(紫の上)に送った和歌
『ややもせば 消えをあらそふ 露の世に 後れ先だつ ほど経ずもがな』
Lady Murasaki and Genji at Nijō on a snowy night after his overtures to Princess Asagao are finally over, from the manga series The Tale of Genji: Dreams at Dawn (Genji monogatari: Asaki yumemishi),ca. 1984
The death of Lady Murasaki, Genji’s beloved, over whom he mourns for an entire year preceding his own death, from the manga series The Tale of Genji: Dreams at Dawn (Genji monogatari: Asaki yumemishi),1989
末摘花の君(すえつむはなのきみ)
ある日、頭の中将から芸事の才能はないものの、後ろ姿の美しい宮家の姫が古びた家に住んでいると聞いた光源氏が、頭の中将より先に逢瀬をした女性です。
朝起きると、姫の姿はなく後日訪れると、髪は美しく豊かな素晴らしい後ろ姿の姫君は、驚くことに大きい鼻は先が赤くてとても美人とはいい難い女性だったのです。
光源氏の足が遠のいても、ひたすら一途に待ち続ける末摘花の君に、ある日素晴らしい品々が届けられます。それは、まぎれもなく光源氏からの贈り物でした。
光源氏は、あまりのひどい器量と不器用で一途な末摘花の君が微笑ましく思えたのです。
光源氏から、末摘花の君に送った和歌
『たづねてもわれこそとはめ道もなく 深き蓬のもとの心を』
朧月夜の君(六の君)
朧月夜の君は、光源氏がどこの姫君かもわからない謎めいた優雅さに一目で惹かれて逢瀬した非常に大胆な女性です。
光源氏が探しあてた姫は、あろうことか光源氏を敵対視している右大臣の娘であり、光源氏の異母兄・朱雀帝の妻でした。
それでも、スリルを求め合い逢瀬を重ねたある朝、右大臣が二人のいるところへ踏み込んでことが公になり噂話までたってしまいます。
光源氏は、謹慎を申し出て京とはかけ離れた片田舎の須磨に流されるのでした。
朧月夜を含む姫たちが読み、廊下にいた光源氏が耳にする和歌
『曇りもせず 曇りも果てぬ 春の夜の 朧月夜に 似るものぞなき』
(照りもせずくもりもはてぬ春の夜の おぼろ月夜にしくものぞなき … 大江千里・新古今集)
花散里
花散里は、父・冷泉院が亡くなった後に光源氏が世話をしていた姉妹の妹で、見かけはふっくらとして美女というわけではないものの、非常に優しくて母性があり光源氏を癒す存在です。
後に、光源氏の息子・夕霧や養女・玉鬘の母親代わりとなって育てます。
光源氏から、花散里に送った和歌
『橘の 香をなつかしみ ほととぎす 花散る里を たづねてぞとふ』
明石の上
明石の上は、光源氏が大嵐に見舞われた際に世話になった明石入道の娘で、身分は低くても才色兼備と完璧な女性です。
初めは光源氏につれないのですが、文を交わすうちに惹かれて結ばれます。
しかし、京に戻ることになった光源氏は謹慎の身の上で明石の上を京に連れていくことができず、身ごもった明石の上は明石入道のもとに残るのでした。
後に、生んだ娘は帝の女御(明石の女御)になり、明石の御方とも呼ばれるようになります。
光源氏から、明石の上に送った和歌
『むつごとを語りあはせむ人もがな 憂き世の夢もなかばさむやと』
まとめ
光源氏の魅力にも勝る、大変魅力的な姫君たち(一人はある意味で)の美しく描かれた十二単にも注目です。何年も前に、「あさきゆめみし」の展覧会にも行きましたが、それは素晴らしいものでした。
光源氏も、姫君たちも、それぞれの愛を貫き通す純粋な物語だと思います。
ぜひ、漫画を手にして読んでみて下さいね。
The death of Genji, the empty chapter in Murasaki’s tale, from the manga series The Tale of Genji: Dreams at Dawn (Genji monogatari: Asaki yumemishi),1989