しかし、対極で生まれたモダン・バレエは、衣装やマイムなどあらゆるものをそぎ落として大地に根付いて生きるような踊りで、その代表的な作品がラヴェルの「ボレロ」です。
DANCE MAGAZINE (ダンスマガジン) 2014年 11月号 シルヴィ・ギエム「ボレロ」 Amazon.co.jp
音楽もさることながら、映画「愛と哀しみのボレロ」で一躍有名になったこのバレエは、シンプルかつ大胆なまさに人間の本能であり真骨頂である作品なのです。
こちらでは、3名の世界的ダンサーが踊った動画を見ながら、それぞれの特徴をご紹介いたします。
バレエ「ボレロ」
ある日、ダンサーであるディスカ・シフォニスが、海から上がってきたところ、その美しい姿にインスピレーションを得て彼女のために振り付けられました。
美しい女性の魅惑に惹かれる男性たちの目、それはベジャール自身が抱いた欲望であり本能であったのかもしれません。
ほとんどの人が、男性ダンサーのためのバレエと感じているこの作品は、もともとは女性ダンサーのために振り付けした作品だったのです。
その後、映画「愛と哀しみのボレロ」で世界を一世風靡、映画のヒット以上にバレエ「ボレロ」が大絶賛の渦を巻き起こしたと言っても過言ではないでしょう。
踊りは、ひとりのダンサーがメロディとして踊り出しますが、見向きもしない人々。しかし、小さな踊りは静かに波及、ひとりまたひとりとリズムを刻みはじめ、やがて大きな渦となって皆を巻き込んでいきます。
ジョルジュ・ドン ~ 秘めた熱情と魂が交錯するパワフルな踊り
その後、映画「愛と哀しみのボレロ」に出演して完璧なボレロを踊り一躍世界のスターダムに昇り詰め、ジョルジュ・ドンと言えばボレロ、ボレロと言えばジョルジュ・ドンと言わしめたほど。亡き今も、伝説として語り継がれています。
その踊りは、男性の魅力そのものであり、美しい顔立ちとほっそりした肉体美から飛び散る汗は考えられないほど魅惑的。エロティシズムさえ究極美に変えてしまうほどの魅力で、ボレロには珍しく群舞も男性で構成され、エネルギッシュかつ熱い魂が込められた踊りは圧巻です!
シルヴィ・ギエム ~ 女神降臨!神秘的かつ媚薬を感じる聖なる踊り
シルヴィ・ギエムは、体操選手としてオリンピックの国内予選を通過するほどの腕前でしたが、パリ・オペラ座バレエ学校の校長からスカウトされたのを機に体操選手からバレエに転向。若干19歳でパリ・オペラ座バレエの最高位であるエトワールになりました。
退団後は、フリーとして活躍、その完璧なバランス感覚と並外れた柔軟性に加え、しなやかな表現力と美しい弓なりの足の甲とバレリーナになるために生まれたような身体を持ち、引退した今でも男性ファンだけでなく多くの女性ファンを魅了してやみません。
かねてから、自ら熱望していたボレロを完璧に踊り、女性ダンサーのボレロ言えばギエムと言わしめたほど、世界に大旋風を巻き起こしました。
その踊りは、聖母の魅力そのものであり、美しく洗練された肉体美と神秘的な魅力はまばゆいほどに神々しい光を放ち、群舞を巻き込む姿はこの世のものとは思えないくらい幻想的な舞台です!
熊川哲也 ~ セクシーなダンディズム“静”のなかにもワイルドさを感じる踊り
熊川哲也は、ローザンヌ国際バレエコンクールで日本人初のゴールドメダルを受賞、英国ロイヤルバレエ団に東洋人で初めての入団を果たしたうえ、プリンシパルとして大活躍、退団後も日本でKバレエカンパニーを主宰するなどいまだ現役で活躍している日本のスーパーダンサーです。
その魅力は、なんといってもバネのある跳躍力と床に吸い付くような安定感、かつ軸のブレない回転力と豊かな滞空時間をいかんなく発揮、ダイナミックな踊りと甘いマスクで魅了された女性は数知れません。
毎年、年末に行われる東急ジルベスターコンサートのカウントダウンイベントでは、ローラン・プティ振り付けの異色のボレロで挑戦、ジャスト0時の完璧な着地でミレニアムニューイヤーを迎え、大絶賛のなかに幕を閉じたのでした。
その踊りは、男性のダンディズムにセクシーな魅力あふれるものであり、たくましくもしなやかな肉体美に小道具までもが魅了されて一体化、群舞がない独特な舞台に観客自身が群舞になっている、ミレニアムの幕開けにふさわしくおしゃれでカッコイイとしか言いようのない熊川ワールドです!
まとめ
同じボレロなのに、こうも変わるとはラヴェルも驚いているでしょうね。
現役で観ることは叶わないかもしれませんが、こうして動画で見ることができるとは何たる幸せ!現代に生まれてきてよかったとつくづく思う今日この頃です♪
なお、ベジャール振り付けのボレロは、ベジャール・バレエ・ローザンヌ(モーリスベジャールバレエ団)が認可したダンサーにしか踊ることができない作品で、日本人では上野水香が認可を受けてギエムの後を引き継ぎました。
ボレロは、ダンサーによって印象がかなり変わりますので、機会がありましたらぜひ迫力ある舞台を生で観て下さいね。