バレエというと、「白鳥の湖」や「くるみ割り人形」などこれぞバレエというわかりやすさやコンクール映えする有名な作品ばかりが取り上げられがちですが、それ以外にもたくさん素晴らしい作品があります。
私もしかり、有名なバレエしか知らなかったものの、友人から知らない作品の話を聞くたびに「そうなんだ!よく知っているなぁ!」と思ったものです。そして、いろいろな作品を観るうちに個性的なバレエにも惹かれるようになりました。
『牧神の午後』
『牧神の午後』は、1912年にパリ・シャトレ座でロシア・バレエ団(バレエ・リュス)によって初演された作品です。作曲は、クロード・アシル・ドビュッシー。尊敬、心酔してやまないマラルメの詩『半獣神の午後』に着想を得た作品です。
ストーリー
『牧神の午後』は、女好きの牧神がニンフたちを誘惑しますが、ニンフたちは怖がったり恥ずかしがったりして逃げてしまいます。残された牧神は、横になってニンフたちとのことを思い浮かべながら自身を慰め、余韻を楽しむのでした。
論争を巻き起こした問題作!
終盤、牧神があからさまに自慰行為という非常に官能的なシーンがあります。幕が下りたとたん、観客は戸惑い怒りました。華麗なスターダンサーのニジンスキーが、自分の個性を封じ込めたあげく恥辱的な振り付けで踊ったのですから無理もありません。観客席は、大ブーイングの中に拍手が入り混じり騒然となりました。
もちろん、『牧神の午後』は世論に論争を巻き起こす問題作として、パリ公演のチケットは完売します。
抽象的かつ不可思議な振り付け
『牧神の午後』は、ディアギレフの抽象的かつ不可思議な振り付けが魅力でもあります。それは、モダンバレエの草分け的作品が生まれた瞬間でもありました。
柔らかさのある振り付けとは真逆で、カクカクとしたぎこちない動きはまさにバレエの革命だったのです。
柔らかさのある振り付けとは真逆で、カクカクとしたぎこちない動きはまさにバレエの革命だったのです。
どこからともなく聞こえてくるような、めまいのような不思議なメロディで始まる『牧神の午後』。私も、なんとも恥ずかしく不思議な感覚に包まれつつも、神話の世界を肌で感じました。
『ペトルーシュカ』
『ペトルーシュカ』は、1911年にパリ・シャトレ座でロシア・バレエ団(バレエ・リュス)によって初演された全1幕4場の作品です。作曲は、イーゴリ・ストラヴィンスキー。斬新な曲調で衝撃的ながら、クラシックと思えないその調べとおもちゃ箱のようなカラフルな舞台に惹き込まれる作品です。
ストーリー
『ペトルーシュカ』の舞台はサンクト・ペテルブルク。広場では謝肉祭が行われており、魔術師から3体の人形が生命を与えられて道化師のペトルーシュカはバレリーナに恋心を抱きます。
しかし、踊り子はペトルーシュカを袖にして魅力的なムール人との恋に戯れ、失恋したペトルーシュカは繊細な心を傷つけられ失意のあまりにムール人にケンカを仕かけてしまいますが…。
人間の奥底にある、ドロドロしたものや弱さを突いて露骨に表現している作品です。
人間の奥底にある、ドロドロしたものや弱さを突いて露骨に表現している作品です。
革新的な『ストラビンスキー』の曲
『ペトルーシュカ』の曲は、ストラビンスキーがピアノ協奏曲として構想を練っていたものをディアギレフが気に入りバレエ音楽にした作品。ストラビンスキーが、「ピアノの悪魔的なアルペッジォと管弦楽の反撃による騒音」と言っているとおり、いわゆるロマンティックなバレエ音楽とはかけ離れた“革新的なペトルーシュカ和音”が誰もの体中を駆けめぐり心をざわつかせたことでしょう。
しかしながら、そこには人間の黒く渦巻く部分をえぐり出しながらも、純粋で滑稽な愛すべきペトルーシュカというキャラを作り出すことで、物語を通して人間の善悪では片づけられないような憎悪と悲哀をも感じられるのです。
バレエと言うより、どちらかと言えば演劇的な要素が濃く思えますので、バレエになじみのない方にもある意味入りやすいかもしれません。
『薔薇の精』
『薔薇の精』は、1911年にモンテカルロ歌劇場でロシア・バレエ団(バレエ・リュス)によって初演された全1幕の作品です。作曲は、カール・マリア・フォン・ウェーバー。とても華やかで、ダイナミックな踊りがうっとりしてしまう作品です。
薔薇の精は、ロシア・バレエ団の人気演目のひとつとして上演され、今では世界中のバレエ団が上演しているのです。
ストーリー
少女は、初めて行った華やかな舞踏会の疲れが出たのか、椅子に座ったままうとうとまどろんでいます。
すると、少女が胸に抱いていた薔薇の花が、いつの間にか薔薇の精となって窓から飛び込んできて、舞踏会を再現するかのように華麗な踊りを舞うのでした。
すると、少女が胸に抱いていた薔薇の花が、いつの間にか薔薇の精となって窓から飛び込んできて、舞踏会を再現するかのように華麗な踊りを舞うのでした。
華やかな音楽にダイナミックな振り付け
『薔薇の精』の曲は、オペラで名をはせたウェーバーの作品『舞踏への勧誘』。華やかな社交界を彩る舞踏会を見事に表現した華やかかつ上品な曲に仕上がっています。
振り付けは、ミハイル・フォーキン。それは、ニジンスキーの見事な跳躍力や表現力をあますことなく引き出して、ダイナミックさと優雅さを兼ね備えた踊りは観客を魅了するのです。
『レ・シルフィード』
『レ・シルフィード』は、1907年にマリンスキー劇場で初演された全1幕の作品です。有名なバレエではあるのですが、通しで30分強の作品でプログラムに組み込みにくいのか、あまり上演されないのでバレエを習っている方でも見たことがないという声を耳にします。
『ラ』・シルフィードではない!
似たような名前で『ラ・シルフィード』という作品もあります。ただし、こちらは別もの。共通しているのは妖精が出てくるということだけで、曲も内容も生まれた国も違うのです。
『レ』・シルフィードと、『ラ』・シルフィードの違いは下記のとおりです。
●題名
『レ』・シルフィード …… レ⇒ Lesの意味は、女性(単数形)
※別名:Chopiniana(ショピニアーナ)
『ラ』・シルフィード …… ラ ⇒ Laの意味は、女性・男性(複数形)
●初演
『レ』・シルフィード …… 1907年 ロシア
『ラ』・シルフィード …… 1832年 フランス
●作曲家
『レ』・シルフィード …… フレデリック・ショパン
『ラ』・シルフィード …… アレクサンドル・グラズノフ
●ストーリー
『レ』・シルフィード …… なし。抒情的詩的。月の灯りを頼りに優雅な舞踏が繰り広げられる。
『ラ』・シルフィード …… あり。妖精と若者の悲恋の物語。
※別名:Chopiniana(ショピニアーナ)
『ラ』・シルフィード …… ラ ⇒ Laの意味は、女性・男性(複数形)
●初演
『レ』・シルフィード …… 1907年 ロシア
『ラ』・シルフィード …… 1832年 フランス
●作曲家
『レ』・シルフィード …… フレデリック・ショパン
『ラ』・シルフィード …… アレクサンドル・グラズノフ
●ストーリー
『レ』・シルフィード …… なし。抒情的詩的。月の灯りを頼りに優雅な舞踏が繰り広げられる。
『ラ』・シルフィード …… あり。妖精と若者の悲恋の物語。
作曲はピアノの詩人『フレデリック・ショパン』
意外にも『レ・シルフィード』の曲はショパンの曲を管弦楽に編曲したものです。前奏曲が太田胃薬のCMで使われているため、このことを話すと大抵の人はバレエと曲のイメージでギャップを覚えます。
しかも、ただでさえ幻想的で琴線に触れるような調べが魅力のショパンですが、場面が夜であることから暗めでブルーの照明に白いロマンティックチュチュという演出でうっとりするほど不思議な華やかさを持つ作品なのです。
しかも、ただでさえ幻想的で琴線に触れるような調べが魅力のショパンですが、場面が夜であることから暗めでブルーの照明に白いロマンティックチュチュという演出でうっとりするほど不思議な華やかさを持つ作品なのです。
私の一押しは、ワルツ(円舞曲)第7番嬰ハ短調のパ・ド・ドゥ。どことなくミステリアスではかなげなメロディに軽やかなステップで舞う妖精と詩人(ショパンとも言われている)がただただ舞踏にふける美しいシーンなのです。ショパン=ピアノというイメージが固定しているため、バレエ音楽になっていると話せば驚かれると思いますよ。
まとめ
珍しいバレエ作品はいかがでしたか?驚いたことに、これらは全て日本で言えば明治時代に生まれた作品。今でも、古さを感じることなく輝いていますね。
まだ、観たことがない!知らなかった!という方は、ぜひ生でご覧になって下さい。
まだ、観たことがない!知らなかった!という方は、ぜひ生でご覧になって下さい。