新型コロナウイルス流行中の一般病棟の現状とは
都内の総合病院で看護師をしています。
多くの病院がコロナ感染患者を受け入れるため一般病棟をつぶし、その病棟を感染病棟にしたりと痛みを伴い模索しながら業務を行っています。
救急では常に感染症対策に追われ、外来も発熱外来をつくったりと地域に貢献できるように気を張った毎日を送っています。
コロナウイルス陽性者の多くは、自粛をせずに「遊びに行っていた」「飲み会に行っていた」など半数以上が身勝手な理由が多く、自分も感染するかもしれない、自分が媒介者となりうるかもしれないという精神的な負担とは別の意味でのストレスを感じています。
さて、外来や救急、感染病棟ではない一般病床はどのような現状となっているのでしょうか。私の知っている病院では前年比の2割程度の患者の減少が見られているそうです。
要は感染病床以外は空床がある病院はあるということです。
こういった現状は2020年3月頃からみられるようになりました。首都圏、大都市中心に感染者やクラスターが急増し、感染症が身近になり、さらには4月に入り非常事態宣言が発令され外来、入院患者数はゆるやかに減少しました。
皆がみだりに病院に行って感染することを恐れたからです。
定期外来に通っている人は長めに処方してもらい、伸ばせるような手術は延期にするなどし自宅で過ごすようになりました。このため一般病棟はマスクやガウンなどの使用制限はあるものの、通常より緩やかな業務を行っている病院も中にはあるというわけです。(もちろん多忙を極めている一般病棟もあると思いますが)
でも、いま在宅で生活している人の中には、病院に入院していないけれど入院となってもおかしくないような状態の人というのは、一定数います。そのような人たちはどこで生活をしているかといったら自宅だったり、施設だったりするわけです。新型コロナウイルスが流行したことで特に影響を受けたのは在宅です。
ここではあまりピックアップされない在宅支援についてまとめていきたいと思います。
新型コロナウイルスの影響で在宅ではどのようなことが起こっているか
知り合いのケアマネージャーに新型コロナウイルスが流行してから在宅支援の在り方で何か変化したこと、困ったことはないか聞いてみました。ケアマネージャーとは在宅で介護サービスを利用する際にどのようなサービスを利用するかが一番良いのか考えプランを立案する仕事をする人のことを言います。
『新型コロナウイルスが流行して在宅支援に変化したことはありますか?』
私の働いている事業所はデイサービス(自宅から日帰りで通い、食事や入浴、レクリエーションやリハビリテーションを行うほか介護者の介護負担軽減目的で利用できる在宅サービス)があるのですが、一つ一つの手間が増えています。
送迎前には利用者さんに体温を測ってもらい症状がないかを確認してから送迎に向かっています。
施設内の消毒もひと手間ですね。病院とは違い、医療職者が少ないですから感染対策の知識も疎いので利用者さんたちの不利益にならないように感染対策の勉強をしなければなりませんでした。あとは、利用者さん同士の距離についても考慮しています。
デイサービスに関しては自主休業している事業所もあるので利用者さんが流れてきたりしています。また、新しく入浴などのサービスのためデイサービスを利用したくても新規の方は断られるケースもありますね。
『在宅支援サービス調整で困ったことはありますか?』
心臓や腎臓、肺疾患だったり抵抗力が低下しているような感染リスクが高い人は、かかりつけ医がデイサービスの利用を中止するように言ってきたりということがありました。
ごもっともな意見なのですが、家のお風呂に入れないから機械浴だったりデイの入浴サービスを利用しているわけですから。何日も入浴できないとなるとそれはそれで感染リスクが上がりますし、新しいサービスも断られることが多い現状があるのでサービス調整が難しかったり、時間がかかったりします。
新たなサービスを利用するときは契約をしなおさなければならないので慎重に考えました。結局、その方は入浴サービスではなく訪問介護が清拭をすることになりました。
あとは、家族が熱を出した時です。利用者さんは症状はなく家族が熱発をして近医を受診したけれどPCR検査は必要ないと言われて実施しなかったのですが、その方は訪問看護を利用していて訪看から「PCR検査を受けて結果が出るまで訪問には行けない」と言われてしまった事例がありました。
訪問看護も複数の家を回らなければならないしおっしゃることはわかるんですけど利用者さん自身は訪問看護が必要で、ご家族はPCR検査を受けたくても受けれなくて…といったような、いったいどうしたらいいんだろうと頭を抱えたくなるようなこともありました。
『在宅支援で病院との対応で困ったことは?』
入院中の利用者さんの身体状況などの確認をするのに、実際に面会ができないので病院の相談員などに確認をして聞いた情報で判断をしなければいけないのは不便です。
あとは利用者さんから聞くのは定期受診の際に病院によって対応が違うのが困るというのをよく聞きます。リモートや電話で処方箋を出してくれるところもあれば、受診しないと処方しないと言われる病院もあるようです。
『訪問する際に大変なことはありましたか?』
この時期なので不要不急の訪問は避けています。
ですが、訪問介護の現場の職員からは家族や利用者さんから「こういう風に手洗いをしてくれ。消毒をしてくれ。」とそれが正しい、正しくないに限らず細かく言われることがあるそうです。家に訪問しているわけですからその家のルールに従わなければならないというところが少なからずあることが大変だと言っていました。
話を聞いて、特にサービス調整の困難さが出てきているのが印象的でした。ただ入浴するといったことでも要介護者にとっては今回の新型コロナウイルスの影響は大きいことがわかります。今まで利用できたものを断られる、変更しなければならないとなると不安にもなるし、ストレスにも感じることでしょう。
ただ、病院や施設とは違い今のところ在宅事業所でクラスターは起こっていません。感染対策を行いながら自宅で生活が続けることができるように多くの人が多くの人の生活を守っていることがわかります。
日本の医療体制の変化と課題
高齢社会との結びつきが強い日本の医療体制
高齢化社会は65歳以上の人口が全人口の7%以上を占める社会のことを言います。
日本では14%を超えた状態のことを一般に「高齢社会」と呼んでいますが、日本は2001年に高齢化率は18%を超え明らかな高齢社会というわけです。
日本の問題点は高齢化の速度にあるといわれています。例えばフランスでは7%から14%になるまで124年かかったのに対し、日本はわずか30年という諸外国に例を見ないほど急速なものでした。高齢化は、まず第一に平均寿命の延びが原因の1つといえます。そして第二に合計特殊出生率の低下が言われています。寿命が延びているのに出生率があがらないことで日本の人口は高齢者に傾くのは当然のことといえます。
1973年に成立した老人福祉法では、医療保険による自己負担を全額公費負担するものでした。この法律が一因で医療費は急増し、費用負担公平のため高齢者の医療費一部負担やサービス利用の拡張などがされてきました。
1983年から老人保健法により、老人医療を公費負担医療から社会保険制度に転換していくことになりますが、急激な高齢化を迎えるとわかっていながら、かなり遅れた制度設定になっていて医療費負担が破綻していくことは必然でした。
1985年の医療法改訂に伴い、都道府県医療計画で必要病床数が策定されて、それ以上は病床数を増やしてはいけないということが決まりした。それ以前も公的医療 機関の病床には都道府県知事による規制がありましたが、民間病院の病床数も医療計画によって制限されるようになりました。
医療費の増大の圧迫が限界に達し、入院日数を削減し欧米並みに平均在院日数を短縮して効率化を図ることが大計として決まりました。
2000年に介護保険法が施行され修正が加えられて、病院や施設に収容するということから健康面に視点を向けたケアへと舵をきったのですが、日本の在院日数は高齢者の長期入院が主な要因で世界最長で、日本人の約8割が病院施設で最期を迎えるという現状が今でもあります。
自宅で最期を迎えたいと思っていても老々介護や核家族化、高度医療が必要になる場合など病院を選択するケースや、とっさに救急車を呼んでしまいそのまま退院できないケースなどで、最期を病院でむかえるのが大多数を占めています。
病院から在宅への医療・福祉のシフトと問題
ただ、先にも述べた通り医療費の圧迫から病床数を増やさない、入院期間の短縮化、そして健康寿命の延長や在宅での療養に力を入れるようになりました。
病院から在宅への移行のため診療報酬の改定により在宅復帰に加算をつけたりサービスの充実を図ってきましたが、在宅を選択するには家族の協力体制が必要だったり自己管理が必要だったり病院と同じことをするのは難しいのが現状です。
高齢者が入院長期化をすることで寝たきり期間が延び、ADL「日常生活動作」が低下することや認知力が低下する引き金になり、病気やけがをすることで結果的に在宅に戻る選択肢を選ぶことができないことは少なからずあるのです。
新型コロナウイルスが在宅支援に及ぼす影響
新型コロナウイルスが流行し、在宅での生活の価値はまたひとつ変わったことでしょう。在宅での生活は自由度もあり、自分らしくいられるというメリットがあります。
ですが、食事をする、入浴する、排泄をする、起き上がる、こういった当たり前のようなことも、介助の手が必要な人が必要な助けを得ることができないということが十分に考えられます。
また、家族の負担が増えることも問題です。身体介護だけでなく認知症など対応が難しいケースなどは虐待のリスクをあげることにもなりかねません。
平時においてギリギリの生存条件や不十分な状態で生活をしている人々が、医療や福祉の援助で何とか生活をしていた人々が、今回のような災害というべきパンデミックを前にしたときたちまち危機に瀕することがわかりました。
いかに社会サービスが不足しているのか、いかに制度が未熟なのかが見え、いかに弱い人々にしわ寄せがいってしまうのか。この課題は日本だけの問題ではないかもしれません。