2019年3月、日本産科婦人科学会の了承のもと、新型出生前診断ができる医院が増えることが発表されました。
これまでは限られた医療機関でしか検査ができませんでしたが、今後は開業医などより多くの医院で新型出生前診断が受けられるようになる見込みです。
この決定に至るまでは検討が重ねられ、現在でもその問題が解決したわけではありません。
新型出生前診断を拡大するにあたっての問題点としては、
①医師から十分な説明を受けず、検査を受ける妊婦がその意義などについて十分に認識しないまま検査を受けるおそれがある。
②NIPTの結果として陽性であった場合でも確定させるためには羊水検査などの確定検査を受ける必要があるが、新型出生前診断の精度が他の非確定検査と比べて高いがゆえに、妊婦がその結果を確定的なものとして受け止め、判断する可能性がある。
③手軽にできる検査であるがゆえに、医師も妊婦も検査の実施に積極的になりやすく、客観的な理由のある妊婦だけでなく不特定多数の妊婦を対象にした胎児の疾患発見のための検査になりうる。
といったものが挙げられています。
現在でも十分な説明や遺伝カウンセリングが実施されているとは言いがたい状況を指摘した上で、適切な体制が整うまでは一般的に広く導入すべきではない・新型出生前診断を行う医院は十分な体制を整え説明を果たす必要があると、日本産科婦人科学会倫理委員会・母体血を用いた出生前遺伝学的検査に関する検討委員会は指摘しています。
ところで、新型出生前診断とはいったいどのような検査なのでしょうか?
出生前診断にはいくつかの種類があり、新型出生前診断はその中の1つです。
大きく分けると、出生前診断はまず2種類に分けられ、1つが「非確定検査」もう1つが「確定検査」です。
非確定検査とはその名の通り陽性反応が出ても診断が100%ではないもので、具体的な検査としては「新型出生前診断(NIPT)」「コンバインド検査」「母体血清マーカー検査」の3つの方法があります。
確定検査は診断が確定するものですがわずかに流死産のリスクがあるもので、具体的には「絨毛検査」「羊水検査」の2つがあります。
<出生前診断>
- 非確定検査…新型出生前診断(NIPT)、コンバインド検査、母体血清マーカー検査
- 確定検査…絨毛検査、羊水検査
それぞれ感度や検査時期、対象となる異常などが異なりますが、今回は新型出生前診断(NIPT)について取り上げます。
NIPTはNoninvasive prenatal genetic testing(無侵襲的出生前遺伝学的検査)の略です。医学的には無侵襲的=外科手術などにより人体を傷つけたり、生体内部の恒常性を乱すことがない といった意味で使われ、この場合もNIPTには負担やリスクがないことが名称に表れています。
新型出生前診断(NIPT)は、母体の血液を採取することで赤ちゃんの異常を調べます。
検査対象となるのは「21トリソミー(ダウン症候群)」「13トリソミー(パトー症候群)」「18トリソミー(エドワーズ症候群)」で、いずれもその番号の染色体が3本になることにより表れるものです。
通常、ヒトの染色体は1~22番までがそれぞれ2本ずつ対になっていますが、何らかの要因により過剰を起こし、3本になった状態を◯(該当の染色体の番号)トリソミーといいます。一般的には番号が若いほど症状が重たい傾向にあるようですが、合併症の大小などにもよります。
染色体異常にはこれ以外にもさまざまなものが存在します。確定検査である「絨毛検査」「羊水検査」では全ての染色体異常が発見されるとされていますが、NIPTの検査対象はこの21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーで、これらは全染色体異常のうち7割程度を占めるといわれています。
NIPTが受けられるのは妊娠10週~、費用は医療機関によって異なり約15~21万円程度です。
感度は21トリソミーの場合で99%と、非確定検査のうち最も高い確率になっています。
さて、この21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーの子どもたちはいったいどのような生活を送ることになるのでしょうか。
どのケースも、同じ番号のトリソミーであっても臨床症状の個人差は大きく、周りの環境や福祉制度などに地域差があります。そのため生活も1人1人異なります。
ただし、トリソミーそのものを治すことは不可能なため、必要に応じて合併症の治療をしながら医療・福祉と連携していくことになるでしょう。
予後について
ダウン症候群の寿命は50~60歳、18、13トリソミーの場合は1歳までに命を落としてしまう子が9割と言われています。そのため18、13トリソミーの場合、予後不良や短命の宣告をされることになります。
しかしこれまでは長い間、18、13トリソミーの赤ちゃんに対して積極的治療を施さないという方針がスタンダードでしたが、近年は親の希望などもあって積極的治療をする病院も増えています。18、13トリソミーの子の寿命に関しては、どのような方針の病院でどのような治療をするかという点にある程度依存するのではないかとの見方もあります。
実際、13トリソミーでも小学校を卒業したり、18トリソミーでは20代を迎えるという例もあります。
出生後
治療や経過観察のため、NICU(新生児集中治療室)に入ることが多いです。18、13トリソミーの子においては自発呼吸が弱ければ人工呼吸器を使用します。人工呼吸器については、自発呼吸が安定すればのちに外すことができる場合もあります。
吸てつ力が弱く、直接哺乳が難しい場合は哺乳瓶を使って与えるか、注入により母乳やミルクを与えます。母乳育児で母親が先に退院した場合は、母乳を搾乳して届けることになります。
一般的な哺乳瓶では吸てつが難しいとき、とくに口蓋裂がある場合はピジョン社の口唇口蓋裂児用乳首や、メデラ社のスペシャルニーズフィダーという哺乳瓶を使用することで弱い力でも吸てつでき、経口からの哺乳ができることがあります。多くの場合、医師や看護師さんから情報を得られます。
親の会
医療行為や福祉サービス、日常のことなどについて情報交換をしたいとき、親同士のつながりを持つとプラスになります。21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーのいずれも、親同士のコミュニティがいくつかあります。21トリソミーは特に多く、成人後の見通しを持つヒントにもなるでしょう。13、18トリソミーの場合、21トリソミーよりは症例が少ないため、インターネット上からつながることも多いようです。
有志の親御さんたちにより、
などを各地で開催されている団体もあります。こういった場所に足を運べば、リアルなつながりになっていきやすいでしょう。特に13、18トリソミーの子どもたちの場合は医療行為も多く、ほかの家庭のがんばりが励みになることも多いようです。
親同士のつながりの場に関しては、病院からは情報を得られにくい一面があります。自分で調べ、参加するなどの積極性が必要です。
参照:
- GeneTech株式会社「出生前診断の種類」
- GeneTech株式会社「先天性疾患とは」
- 立命館大学生存学研究所「配布資料 NICU において親と子がどのように関係性を築いていくのか ―18 トリソミー児の親の語りから―」
- 出生前診断についてキチンと知っていますか?
- NIPT実施施設の改定案 "母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)に関する指針" 日本産科婦人科学会