重度の口唇口蓋裂で生まれたユウも小学校高学年になりました。
子どもの段階で済ます最低限の手術は終え、あとは将来を見据えて治療を選択していくことになります。
これまでの治療を振り返りながら、現在の様子とこれからについてをまとめておきたいと思います。
<ユウのこれまで>
妊娠中に口唇裂が判明します。出生後、口唇口蓋裂のなかでも重度である「両側性完全唇顎口蓋裂」だと分かりました。
生まれてすぐに型取りをし、穴をふさいでミルクを飲みやすくするための「ホッツ床」を口蓋に装着します。
口唇裂の手術までは、唇を寄せるようにテープ矯正をしていました。
そして、生後4ヶ月で口唇裂の手術をします。
2歳で口蓋裂の手術をしましたが、口蓋ろう孔(手術で閉じきれずにできてしまう穴)が発生します。
また、この頃から言語訓練をスタートします。
小学校低学年で、正常構音(正しい発音)を習得しました。
小学3年生、4年生で左右それぞれに分けて顎裂形成手術を行いました。
<ユウの現在の様子>
口蓋ろう孔があるので、口蓋に「閉鎖床」(プレート)をはめて生活しています。
言語訓練は続けています。訓練時はよい発音ができるようになったものの、日常生活では声門破裂音が強く残っておりまだまだ不明瞭であることから、正常構音(正しい発音)を日常化していけるように試みています。
訓練の内容は個人差が大きいものですが、ユウの場合は正常構音の日常化を目的としているため、訓練にも方言のイントネーションを用いる・日常生活でも使うフレーズを取り入れるなどをしています。
また、日常での「伝わった!」という実感を増やせるよう、学校の先生にも協力を仰いで「正しい発音でクラスの中で短文を読む時間」を作っていただいています。
口腔内の筋肉をしっかり使うために学校用の水筒はストロー式のものを使っています。
閉鎖床をつけていることなどから上あごの発育が阻害され、口蓋裂児は受け口になる傾向があります。
ユウも閉鎖床についている拡張装置で上あごを拡張していますが、小学5年生後半からは就寝時のみ「フェイスマスク療法」を行っています。下の写真のように、ゴムを使って上あごを前方に引き出しています。
<ユウのこれから>
今後、正常構音が日常化すれば言語訓練は必要なくなるといわれています。
次の手術は、通常であれば口蓋ろう孔を塞ぐための手術。口蓋の再手術です。
これは上あごが大人同様に発育し切ってから行うため、まだ5~6年先のことではあります。
しかしこの手術は、大人でも受けていない人もいます。
閉鎖床(プレート)をつけ続けることにはなりますが、ユウが「もう手術はしたくない」と言っていること、何度も手術を繰り返すこと自体に私自身懸念があることなどから、今のところは手術を受けない方向でと考えています。
でも、その時期が近づいてユウの意見が変わってくるようであればもしかしたら受けるかもしれません。
(科学的ではないかもしれませんが、私は「生きるための手術」以外のものに関しては積極的に受けさせたいとは思っていません。口唇裂・口蓋裂に関しては哺乳や食事のしやすさ、発音の可否に直結するものであり、社会性に大きくかかわってくるものとしてやむを得ず受けさせました。でも私個人の感覚でいえば唇が割れていても差別されない社会であれば口唇裂でもそのままでよかったくらいです。社会に適応するための手術をしても、身体は生まれてきたままの状態を自然なものとしてとらえているため、戻ろうとする。そんな感じがしています。
顎裂の手術については相当悩みましたが、発音しやすくなるという説得もあって受けさせることに決めました。顎裂の手術後に発音や空気の漏れが著しく改善されたかというとそんな気はしません。受けたことでのメリットは今のところあまりないと感じています。
どれも医学ではものすごく安全な手術であるということはもちろん心得ていますが、「手術を受ける」こと自体に麻酔や抗生物質の投与がついて回りますし、やはり身体にとって自然なことではないと思います。それだけではなく、強い恐怖感、ストレス(精神的・身体的)を与えてしまうことが、何らかの形で子どもの育ちに影響してくるような気がしています。
なので、あまり手術を繰り返したくないのです。元気であればそのまま生きてほしいのです。
もちろん本人の意思を最重視します。)
そういうわけで、しばらく大きな動きはなさそうであることから、今回で同シリーズについては一旦終了します。
また進展があれば書くことがあるかと思いますので、そのときはお読みいただけるとうれしいです。
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