今回は、大空幸星氏の著書、
の2冊を紹介しようと思う。
どちらも「孤独」について書かれたもので、
これを読むと「孤独」がどれだけ大きな問題であるか、
また、どれだけそれを社会的に放置してきたかが読み取れる。
全国の市長に配って回り、行政に生かしてほしいと感じる良書だった。
筆者の大空幸星氏は NPO『あなたのいばしょ』 の理事長
大空氏は、大学時代にNPO法人『あなたのいばしょ』を立ち上げている。
現在はテレビやラジオなどでも、孤独をはじめとする社会問題に広く切り込んでいる姿が印象的だ。
この2冊では、どちらも序盤は筆者の生い立ちについて書かれている。
著者が育った複雑な家庭環境が、NPO法人を立ち上げるに至った経緯になるからだ。
恩師に出会い「孤独」から抜け出した大空氏
彼の生い立ちを読むと、現在のような活躍をするに至るまで、
どれほどの頑張りがあったのだろうと想像しこみ上げるものがある。
安心できる家・お金・健康・時間・頼れる人・学校に行ける環境などの全てが無かったところから、
大空氏は慶応義塾大学に合格している。
つい「立派だ」という評価をしてしまいそうになるが、
「頑張ったから立派になった」というのは実力主義的な見方でもある。
他者に向けてしまうと、裏を返せば、
悲しい状況にある人に「その状況は頑張っていないからだ」と切り捨ててしまうステルス差別にも繋がりかねない。
それを著者も心得ているようで、
あくまでも自分の現在は「恩師に出会えたという幸運」があったから、としている。
幸運だった自分だけではなく、すべての孤独を抱える人が、そういう“誰か“に出会うこと…
彼はそのための仕組み作りに邁進している。
『「死んでもいいけど、死んじゃだめ」と僕が言い続ける理由』は中高生向け
(Amazon.co.jpより)
『望まない孤独』に比べて、
『「死んでもいいけど、死んじゃだめ」と僕が言い続ける理由』 は若い人にあてて書かれているように思う。
ふりがなが振られているため、小学生でも読めるかもしれない。
筆者の学生時代の葛藤も包み隠さず描写され、多感な時期にある人にも届く言葉が並ぶ。
メディアでの発信ではスマートな印象が先に立つ大空氏だが、
本に書かれた言葉の節々からは、彼の優しい人間性を感じ取れる。
「孤独」については、
- なぜ孤独を感じるのか
- 孤独とはどういうものなのか
などがロジカルながら優しい口調で語られている。
また、孤独を感じたときにどうすればいいかということについても、
決して「こうするべき」という断言ではなく、
「このようなことを試してみるのはどうだろう」という提案の形で述べられている。
生きやすさに繋がる話は大人でも必読で、
- 傾聴の大切さ(相手を否定しない)
- 自分軸を持つこと
などについての記述は自分を見つめ直すきっかけにもなった。
『望まない孤独』は大人向け
(Amazon.co.jpより)
『望まない孤独』のほうはデータや分析がより具体的で、
大人や、孤独について「考える」人にぴったりの内容になっている。
自殺者や相談件数、自殺理由などについて具体的な数値を挙げ、
- どういう対策が必要なのか
- 国へどのような提言をしてきたのか
- 現状の問題
などなど「孤独」にまつわるアレコレがとにかく網羅されている。
「孤独」について日本でこれだけ的確にまとめられている本は、他にないのではないだろうか。
多くの人が「孤独」を抱えている可能性
多くの人がなんらかの「望まない孤独」を抱えていることが推測できる…と筆者は言う。
孤独とは単に友だちがいないことだけではなく、
たとえ周りに人がいても孤独を感じたりする。
育児・仕事において相談したり頼れる人がいないとか、
最近ならコロナ禍での学級閉鎖、虐待に至る過程でも孤独が現れる。
人は孤独と常に隣り合わせなのだ。
「孤独=個人でなんとかするもの」という前提
しかし、孤独に対しては「社会問題」ではなく、
自分でなんとかする「個人の問題」という風潮が強い。
行政を頼る、行政や公的機関が介入する構図ができていないと筆者は指摘する。
具体的には、
- ひとり親家庭の子どもは孤独を抱えやすいが、ひとり親家庭の子を訪問して相談に応じる「児童訪問援助事業」では一年間でたった一件しか派遣の前例がないなど、実質的に機能していない
- 行政の相談窓口がTEL窓口ばかり&24時間体制ではないことから、悩みがあっても相談しにくい
- 若者が自殺願望を吐露するTwitterなどにはちゃんとした窓口がなく、個人間でのやり取りの結果自殺幇助などにつながりやすい
- 地域の民生委員の高齢化
というような問題があるようだ。
「若者の自殺=いじめ」だけではない
私が意外だったのは、いじめは若者の自殺における主たる理由ではない、ということだ。
「若者の自殺=いじめ」とイメージしがちだが、
いじめは加害者が存在することからセンセーショナルに報道されやすいだけで、
実数値はいじめの件数はそこまで多くはないらしい。
もちろん、いじめの苦しみは孤独の苦しみと重なるが、
いじめ以外にもなんらかの孤独によって命を絶ってしまうケースが多いのではないかと大空氏は言う。
いじめ対策に力を入れる行政は多くあるが、その裏の孤独に気づくことができなければ、
自殺のほとんどは防げないということになってしまう。
私の住む市でも「いじめ対策」にはかなり力が入っているが、
孤独にフォーカスした政策があってもいいのではないかと思った。
自殺とは「死ぬ権利」ではなく、「生きる権利」を行使できなくなった結果に起こってしまうもの、
という彼の言葉に深くうなずいた。
AIの活用は避けられない?
個人的には、AIの活用があまりにも広まることは危険だとも思っている。
だが、筆者は「望まない孤独」を抱える人をひとりでも減らしたいとの想いから、
SNSに積極的にAI分析を用いたいと思っているようだし、
学校に行けないときに代わりになるメタバースの活用にも積極的だ。
大空氏はNPO法人として相談に対応する中で、
相談件数が多すぎて相談員の対応が追い付いていなかったり、
初期対応をAIに任せることで緊急度の振り分けをしたりしている。
AIを活用しなければ手が回らない現状を知っているからこそ、その積極的活用を主張するのだろう。
しかし、SNSの書き込みにAI解析が入ることで、
コロナ禍ではさまざまな言論弾圧・誘導が行われた事実もある。
AIは私たちの行動を管理することもできるし、
むしろそのような目的のために開発が進んでいる側面も大きいだろう。
AIの活用については慎重にいかないとと思っている私だけど、
これほど社会問題としての孤独に向き合っている人が言うことなのだから、一定の信頼を置いているのも事実だ。
さいごに
大空氏はSNSでこう書いている。
「こどもや若者の自殺対策に本気で取り組む政治家が非常に少ないことに落胆しているのは事実。
ただ、批判で物事を動かすより、応援することで動く事を美徳としたいので、
これまでもこれからも票読みだけでなく真に動いてくださる人を応援する」
と。
私もこれまで何度か意見を行政等にぶつけてきたが、
批判で物事を動かそうとしていたのではないかとハッとした。
彼の言葉に脱帽、反省しきりであった。