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障害と芸術、コンテンポラリーダンスを通じて見えてくる新たな魅力と可能性

2019/12/10 更新 2020/10/17
mima
まだ私が独身だったころ、とあるオープンスペースで行われた講習会に参加した。

そのタイトルは、障害とアート研究会『<異なる身体>の交感可能性 -コンテンポラリー・ダンスを手がかりに』。


学生のころから障害というキーワードに関心があり、またコンテンポラリーダンスの作品を観る機会が増えその魅力を感じていたから、興味深い2つのテーマが含有されるこの講習会には迷わず参加した。

今、障害をもつ子どもの親となりおおよそ10年近くが経つが、この講習会で得られた感覚が自分の中でかなり大切なものとなっている。

障害者とアート、障害者とダンスといった考察・取り組みはこの10年間でも拡がりを見せているといっても、福祉のプロでもなく、またダンサーでもないただの障害児の親にまでその波が及んでいるとはいいがたい。
親にとっても聞いてよかったと思えるであろうこの講習会の内容を改めて振り返ってみたい。


講習の内容は、ざっくばらんに結論から言うと”障害者にもっとコンテンポラリーダンスのワークショップの機会を与えたい”―といったものだった。
講師は、大学で発達心理を勉強したのち障害者施設で指導者として7年間勤務し、大学院でまた勉強をしている(当時)という渡邉あい子氏。障害者施設で働いていたときに実感することがたくさんあったそうだ。


たとえば、机の角を持って4人で運ぼうとするが、運ぶことができない。自分以外の3人がどのくらいの力を込めて机を持ち上げるかという予測ができない。また喧嘩ができない。怒っているということは分かるが、何に対しての怒りなのかということが受け取りきれない。

喧嘩というのがある共通認識の上にたったバトルだと解釈するとき、他者の状態を想像することができず、共通認識をそもそも持つことができない、ということだった。また、障害のある人がよくぶつかって転ぶ・・などの場面を目にしたとき、「身体がコミュニケーションを補っていないのではないか?」という問いが渡邉氏の心に浮かんできたそうだ。そしてそれに対して、コンテンポラリーダンスのワークショップというものが自分や他者の身体を見つめることに通じるのではないかと。

印象的だったのは、ケアとしてのワークショップではないということだ。この点が非常に興味深かった。日本の暗黒舞踏の創設者である舞踏家、土方巽(1928-1986年)が語るには、「自分でないもののような他者に棲みこまれてしまったような感覚」をひきだしていくことが舞踏につながるそうだ。つまり他者性、衰弱体といった”ままならなさ”を重要視している。

そして、障害者と健常者の違う点として”身体のままならなさ”を常に持っているか否か、といったことが挙げられる。
またコンテンポラリーダンスの価値基準はあいまいで、ありのままを認める傾向にある。いわゆるバレエに始まった”美しさ”といったものとはかけ離れ、独自性や自由性が認められる。そのなかで障害者の身体は生きてくるのではないか、といった主張だった。

長くダンスを習ってきた私は、”身体のままならなさ”から舞踏に通ずるといった視点や、その”ままならなさ”がコンテンポラリーダンスをやろうとするときに生きるという価値観はこの講習を聞くまで持っていなかった。

ただコンテンポラリーダンスの作品をよく観るようになって、技術の高さが作品の良さに必ずしも直結しないジャンルであることは感じていたし、ダンスをしたことがない人の初作品であっても魅力的だと思うものはあり、コンテンポラリーダンスの芸術としての奥深さを感じていたところだった。

実際に自分が障害のある子を育ててみると、身体のままならなさを持つわが子の動きはスムーズではない。

しかしそれが面白いと感じることは非常に多くある。バレエにおいては確実にNGとされるぎこちなさが、特有のものとして芸術性をもち、NGではなくままならなさを持っているありのままの身体がOKになる。


ままならなさを重視しているのは土方巽だけではない。

舞踏家・笠井叡は自身のインタビューでこう語っている。

「振付をするときはダンサーの持っている技術は無視する。なぜなら今までやったことのない動きのほうが面白くなるから」
これはあえてままならなさを与えるということに他ならない。俳優としてもコンテンポラリーダンサーとしても活躍する森山未來も

「老人と子どもと動物には勝てない。テクニックなんかないしそういう次元じゃない。そこにあるのはその人の”生活”のみかなとも考える」
と、テクニックの重要性とは別にありのままが存在している強さを語っている。


国内外でも障害をもつ人のダンスパフォーマンスの活動は拡大されつつある。

2012年に行われたロンドンのパラリンピックでは両足のないダンサー、デービッド・トゥール氏がソロダンスを披露し、特にイギリス国内での障害者とダンスの認識は一気に広がったといえる。

イギリスで身体障害のある人・ない人の両方で構成されるダンスカンパニー、CandoCo(カンドゥーコ)を1991年に設立したアダム・ベンジャミンは、障害のある人の特性を生かしたパフォーマンスを探りながら日本でもワークショップを行っているし、同じくイギリスでインクルーシヴダンスを提唱するストップギャップカンパニーは世界から注目を集めているダンスカンパニーだ。

また、Anjaliダンスカンパニーは知的障害をもつダンサーのみで構成されているイギリスのダンスカンパニーで、常任アーティストである小林あや氏は日本でも活動している。

ケニア・ナイロビではポリオの後遺症で両足のまひをもつシルベスター・バラサ氏がコンテンポラリーダンスカンパニーの花形となっている。

日本では障害をもちながらコンテンポラリーダンサーとして活躍している森田かずよさんが有名で、彼女は二分脊椎症・先天性奇形・側湾症をもって生まれ、義足のダンサーとして活動している。2018年にはカリフォルニアの振付家ソシンリー・ジャイルズ氏がはじめての日本での仕事として森田かずよさん含む3人のダンス作品を制作し、アジア太平洋国際芸術祭へ出品するなど国内外のアーティストとの共演も果たしている。

さらに2015年には国内初の障害者&健常者からなるダンスカンパニー「響-Kyo」が旗揚げ公演を行った。


しかしこのようにダンス界が変化しても、まだまだ当事者にとってコンテンポラリーダンスが身近というわけにはいかない。多様性・社会的平等が重視されているイギリスでさえも、まだまだ障害者アートの環境は不十分だとストップギャップに参加する柴田翔平氏は主張する。


「社会的平等を見せるためには障害者だけが舞台で素晴らしく見えても意味がなく、障害のあるなしに関わらず全員がステージで輝いていることが重要。しかし障害をもつ人は健常者のようにダンスに専念できる環境がないというのはおかしい。ストップギャップの育成プログラムだけではなく、ほかの場所や学校でもその方法を使って障害者ダンサーの育成をしてもらいたい。バレエは別として、コンテンポラリーはどんな身体でも踊れるダンスである」

カンパニーの設立だけをとってもイギリスより30年近く遅れをとっている日本であるが、奈良県における障害とアートの取り組みには注目したい。行政をあげて音楽療法士の育成に力を入れており、放課後等デイサービスの形態でダンス教室が開かれていたり、障害のある人の劇団もあったりと障害者による芸術活動の場が多い印象だ。一般財団法人「たんぽぽの家」では奈良県における障害者芸術活動の調査を行うとともに、障害とアートに関する相談窓口にもなっている。

また、香川県高松市では2014年から「高松市障がい者アートリンク事業」がNPO法人ハートアートリンクにより実施されており、さまざまな障害福祉サービス事業所に絵画・音楽・ダンスなどに携わるアーティストを派遣し、ワークショップを行っている。高松市内のある事業所に振付家・ダンサーとして活躍するコンテンポラリーダンスカンパニーyummydanceを招いて行うワークショップは5年目になり、作品を施設の祭りや福祉の行事で披露することもあるという。


あえて自分達も 選ばないような動きの見つけ方を利用者さん達と一緒にトライし、上手くいったり失敗 したりを繰り返しながら新しい作品を作ることができた有意義な1年でした。

という報告からは、ままならなさにあえて身を置くことで5年目になっても日々新しい発見が生まれていることがうかがえる。


近年では全国的にダンス療育のようなことを行う放課後等デイサービスも増えている。障害をもつ子どもたちにとって今後ますますダンスという活動へのアプローチはしやすくなってくるだろう。

願わくばケアとしての目的を中心に置くのではなく、自己の身体への気づきをもち、身体を通じて他者をも知るという機会になってほしい。身体から得られる情報量は非常に多く、自分自身ワークショップにおけるたった10分ほどのプログラムで、1時間対話するよりも深く相手のことを知られたという体感を得たことがある。非言語によるコミュニケーションが充足していくことで、障害をもつ人にとって他者や社会とのかかわりに自然と変化がうまれていくことだろう。



参照:
  • 「アートミーツケア学会 2008年度大会「呼吸する〈からだ〉と〈こころ〉」」 アートミーツケア学会
  • 「<異なる身体>の交換可能性」 渡 邉 あい子
  • 「国際交流基金 アーティストインタビュー・笠井叡」
  • 「提示する身体 森山未來インタビュー」 VICE
  • 「Dance box アダム・ベンジャミンによるワークショップ「身体に障がいのある人もない人も、ダンスを紡ぐ」」
  • 「世田谷パブリックシアター ストップギャップ ダンスカンパニー『エノーマスルーム』エクゼクティブプロデューサー柴田翔平さんインタビュー」
  • 「Anjaliダンスカンパニー」

  • 「ポリオで両足がまひ、コンテンポラリーダンスで花形のダンサーに ケニア」 AFP BBニュース
  • 「日本初、障害者&健常者のダンス・カンパニー」 産経ニュース
  • 「MUSE company」
  • 「DIVERSITY IN THE ARTS ソシンリー振付レポート」
  • 「奈良県における障害のある人の舞台芸術活動に関する調査」
  • 「障害とアートの相談室 たんぽぽの家」



  • 「高松市障がい者アートリンク事業」NPO法人ハートアートリンク
  • 「yummydance」






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