さて、<前編>では新型出生前診断とはどのような検査なのか・どういった障害が検査対象となっているのか・新型出生前診断における問題点についておもに述べました。
<後編>では、その検査対象となっている子どもたちがどのような暮らしを送るのかについてもう少し取り上げたいと思います。
一般的には13トリソミーや18トリソミーの子は日常的な医療行為が必要であることが多いと言われていますが、前置きをしなければならないのは、発達や症状についてはその子それぞれによって大きく異なるということです。
また、福祉制度や施設の形態なども地域差があります。ここで取り上げる例にあてはまらない場合も出てくることでしょう。
(実際にそういった症例の子どもたちを育てている親御さんのブログやSNSでは、よりリアルタイムな生きた情報が手に入ります。この記事を読んでさらに詳しく知りたくなったら、ぜひ具体的に情報収集をしてみることをおすすめします。)
在宅医療
一昔前までは、13トリソミーも18トリソミーも自宅で暮らすのは難しいとされていましたが、最近では親の要望もあって在宅医療で暮らす子が増えています。13トリソミー、18トリソミーの家族にとって、退院して自宅で一緒に暮らすというのは一つの大きな目標であり、また最初は不安も大きいものです。
在宅医療が実現するまでにはある程度容態が安定することや、何度も練習を重ねて急変時の対応・医療機関等との連携を確保できることが条件となります。気管切開をしていたり呼吸器等を使用している場合は自宅で管理していくこととなり、医師や看護師に教えられながら扱いを学んでいきます。
(写真は成人用の呼吸器)
在宅医療が始まっても親だけで子どもを見ていくわけではなく、訪問看護や訪問ヘルパーなどの福祉サービスが受けられます。福祉サービスを利用する際には助成金を受けることができ、少ない自己負担額で済むよう各自治体が取り決めを行っています。
通園施設
障害のある子が通う通園施設としてまず挙げられるのが、療育園などの福祉施設です。もちろん、一般の保育園や幼稚園に通う21トリソミーの子もたくさんいます。自治体の制度により地域差がありますが、保育園ではクラス担任のほかに障害児数名につく加配の保育士を申請できる場合が多く、一般の園でも市の障害福祉課などによる巡回相談を受けられるなど、行政とともに発達を見守っていく体制になっています。
療育園・療育施設などでは作業療法・理学療法・言語療法などの専門的な訓練を受けられるところもあり、一人一人に合った療育を期待できます。支援者と子どもの人数比率も一般の園より手厚くなっています。また、保護者支援に力を入れているところも多く、親の悩みを共有し合うことができ、相談窓口として身近な存在にもなり得ます。
いっぽう、医療行為が必要な重度障害児の場合、通園できる園が限られてしまうのも事実です。そんな中でも療育園などに通園し、たくさんのお友だちの中で活動している13トリソミー、18トリソミーの子は大勢います。通園にあたっては、急変時の対応をよく話し合って決めておく必要があります。
療育園では感覚あそびやリズム遊び、工作などを支援者の手を借りながら楽しみ、お友だちの姿を刺激に新たな成長が見られることもあります。訓練を行う園では、歩行器などを使い歩行訓練をするところもあります。
通学
1歳以降でも生存できるのはわずか10%と言われていますが、実際には13トリソミー、18トリソミーでも就学を迎えている子がたくさんいます。医療ケア児の受け入れがある支援学校で一人一人の発達に合った取り組みを行い、集団生活をします。
21トリソミーの場合、医療ケアが必要な子が少なく発達もよい傾向にあるため、就学の選択肢がさらに広がるのは事実でしょう。一般的には支援学校・地域の学校(支援学級)・地域の学校(通常学級)の3つから選ぶことになります。地域差があるため、支援学校・支援学級ではどういったサポートを受けられるのかを明確にしておく必要があります。たとえば支援学級であれば、”入り込み(支援者がクラスに入り込んで児童の学習をサポートする)”を主に行う学校と”取り出し(児童を別教室に取り出して支援者が学習をサポートする)”を主に行う学校とがあり、クラスの子どもたちとの交流の度合いは各学校によって大きく異なります。
通常学級を考える場合には子どもが自分らしく過ごせるかどうかをよく考えた上で判断することが望ましいでしょう。
デイサービス
放課後に子どもが過ごす場所として一般的には学童保育が挙げられ、支援学校から放課後のみ地域の学童に通う子もいます。送迎の関係で難しい場合や子どもに合わない場合なども多くあり、放課後等デイサービスを利用している子が多くいます。
放課後等デイサービスは親の仕事の有無にかかわらず利用でき、障害児のよりよい発達を促す場として数年前に発足したサービスで、現在は施設がどんどん増えてきています。これも福祉サービスですので助成制度があり、自己負担額は1割~と少ない金額で利用できますが、外出企画などについては別途徴収しているところもあります。土日祝については事業所ごとに開所日が異なります。
また、0歳児から利用できるデイサービスもあり、通園しておらず自宅で過ごしている障害児の居場所となっています。
13トリソミーや18トリソミーなどの医療ケア児の受け入れをしている事業所は全国でも少ない中、昨年13トリソミーの子を育てる親御さんにより新たなデイサービス・Ohana kidsが設立され話題となりました。
キッズフェスタ
吸引器具や子ども用車いすなど、福祉用具に助けられる機会が多い場合、子どもの福祉用具展「キッズフェスタ」に足を運んでみるのもおすすめです。
デザイン、性能ともに年々進化しており、医療ケア児と暮らすことをより快適にしてくれるアイテムが多くあります。また、こういった場が親同士の交流につながることもあるようです。キッズフェスタは毎年春に東京で行われているイベントですが、ほかにも福祉用具展は全国各地で開催されています。
外出・旅行
医療ケアの必要がある子の外出ははじめは戸惑ってしまいますが、慣れていくようです。呼吸器が必要な子は携帯用の酸素ボンベなどを使用し、またそれらを乗せられる仕様の子ども用車いすがあります。風邪が重症化しやすいなど心配な面もありますが、外出は子どもにとってもよい刺激になるでしょう。
また、厚生労働省は2020年にサービスを開始するという「MEIS」を発表しています。MEISは医療ケア児の医療情報を全国で共有する仕組みで、外出先で医療を受ける場合に情報の伝達がスムーズになり、外出・旅行時の急変などの助けになります。
呼吸器を使用しているトリソミー児の遠出は一見不可能なように思えますが、実際には飛行機に乗って親の地元へ帰省したり、高校の修学旅行へ行ったりしている子もいます。
13、18、21トリソミーといってもその症状は子どもによってさまざまですが、こうして国が積極的にシステムを構築するなど、子どもを育てていくあたって社会はどんどん進化しています。これからもよりよい未来に期待したいものですね。
参照:
- 重症心身障害児の在宅生活における課題
- 新型出生前診断で問われる"命の選別" 「13トリソミーの子」と家族に寄り添う医師、松永正訓さんに聞く
- キッズフェスタ2019
- 厚生労働省 医療ケア児と家族を支えるサービスの取組紹介
- 子ども用車いす啓発プロジェクト