「重度の口唇口蓋裂で生まれた我が子」シリーズ、約2年ぶりの投稿となりました。現在、「難しいな」と感じていることがあるので、それについて記してみようと思います。
重度の口唇口蓋裂で生まれたユウ(仮名)は、約1年ほど前から、言語訓練のための通院に「行きたくない」と言うようになり、自宅での言語の練習も嫌がるようになりました。
(写真はイメージです)
考えられる理由はいくつかあります。
- 思春期・反抗期と呼ばれる時期に突入した
- 訓練内容にやりがいがなくなった
- 発音が不明瞭でも本人が困らない
- きれいに発音できたときの成功体験が少ない
思春期・反抗期と呼ばれる時期に突入した
ユウは自己主張はする子でしたが、どちらかといえば従順で、基本的に「やりなさいと言われたことはやる」子でした。
小学校中学年くらいから、面倒なことを後回しにすることは出てきましたが、結果的にはやる。ユウ本人は時間の見通しがつきづらいため、親がタイムリミットを決めて必ずやらせていたというのもあります。
しかし、親の言うことがウザイと感じる年齢になり、怒っても反抗や無視をするという手段を知りました。「最終的にやらないでもなんとかなる」というのを徐々に覚え、「サボる」ことを知ったんですね。
同時に、それまでは遊びといっても何時間も熱中するようなものはなかったのですが、漫画やゲームなど没頭できるツールができ、生活の中に「ラクで楽しいこと」が占める割合が増えてきました。
そうなると、自宅での言語練習なんて面倒になるのは当然です。
訓練内容にやりがいがなくなった
訓練の内容が変わり映えせず、成果が目に見えてわからないのもやる気を削いでいる要因かもしれません。
これまでの記事でもお話したように、ユウは現在、気をつけて喋ると正常な発音ができます。ですが、「気をつけて喋る」ということが日常生活ではできないという状態です。この状態がこの3年間ほど続いています。
正常な発音を習得するまでは、訓練を通して「言えたことのない音が言えるようになった」というやりがいを得られていました。ユウ自身が「よっしゃ!」と手ごたえを感じている場面も多々ありましたし、親の私にも常に驚きと感動がありました。
訓練時にすべての音が発音できるようになったことで、訓練での成長がなくなり、親子ともにマンネリを感じてきていました。訓練内容も新しいことを試すというよりは、正しい発音ができる機能をキープするためのものになり、同じようなことを繰り返すことが増え、言葉の練習への楽しさが減っていきました。
発音が不明瞭でも本人が困らない
ユウはコミュニケーションに対してかなり積極的な性格です。
発音が不明瞭でも知らない人に話しかけるのは平気で、お店では欲しいものの場所を店員さんに聞くこともできます。店員さんがユウの言葉を聞き取れなかった場合は絵を描いてみたり、ほかの言葉で言い換えてみたりと、いろいろ工夫しているようで、最終的には伝わっているようです。
私が同じ場にいるときに、ときどき「相手の人、ユウの言葉が聞き取れてなくて会話がちょっとかみ合ってないな」と思うことはあるのですが、ユウはねばり強く説明したり、それでも無理そうならサッパリとあきらめていて、残念そうには見えません。ちなみに、学校の先生や友人は耳が慣れるのかわりとユウの言葉を聞き取ってくれており、なお困ることがありません。
つまり「伝わらなかった…」とガッカリしただけで終わった、という経験がほとんどないんですね。
小学校では、周りの会話のスピードにはついていけなくても、ある程度あきらめて場を楽しむという絶妙なバランス感覚で渡り歩いて来て、発音の不明瞭さがユウにとってコミュニケーションの足枷になっていないのだと感じます。
きれいに発音できたときの成功体験が少ない
同時に、正しく発音できたときに「いつもより伝わった!」という強い実感がないのも、練習に気が向かない理由の1つでしょう。
ユウの正しい発音と誤った発音との違いは、言語聴覚士の先生や親、そして本人であればはっきりとわかりますが、一般的には聞き分けが難しいです。舌の位置は明らかに異なるのですが、見かけの発音というのはユウの場合どうしても少しこもったような音になり、正しく発音しても世間的には「やや聞き取りづらい発声」という認識になります。
見かけの発音に明らかに差がないため、学校の先生なども聞き分けが難しく、正常な発音時に他人から何か特別な反応がもらえるという経験がありません。
ただし、電話で自己紹介をするときなどに、自分から正しい発音で名乗っている姿は何度か見たことがあります。ユウ自身、「こう発音したほうが少しでも伝わりやすいかもしれない」という感覚は持っているようです。ただ、正常な発音を用いたときに日常生活が大きく変わるという実感はまだ少ないでしょう。
写真はイメージです
訓練に後ろ向きになり、言語聴覚士にも反発しはじめたユウでしたが、形成外科医から説得され、ここ1か月間は毎日10分の練習を続けています。練習はろうそくを使うものにしてもらいました。「火が消える・消えない」という成功・失敗が目に見えて分かりやすく、音読よりもやりがいはあるのか、始めればそれなりに楽しんでやっています。本人も、勘が戻ってきている手ごたえがあるようです。
しかしこのやりがいは目先のものであり、ずっと続くわけではありません。勘が戻り切れば、同じ方法ではまたすぐにマンネリ化するでしょう。それに、本人が練習の必要性を理解しているわけではなく、医師から説得されてやっているにすぎません。
言語訓練は必要か?不要か?維持するには…
本人が必要性を感じていない言語訓練について、どう捉えていくかというのが現在の悩みです。
言語聴覚士は「将来このままでは困る」と言いますが、不明瞭な発音によるデメリットは、ユウの性格が埋めていくような気もします。そうであれば、このままでもいいのではないか。そう思うこともあります。
しかし、もし将来的に困らなかったとしても、だらけ癖がついてきた思春期だからこそ、言語の練習を積み上げることを、生活の張り合いの1つとするのもいいかもしれません。
どちらにしても、電話口で名乗るときにみずから正常な発音を駆使するように、「いざというときには使える」「正常な発音をできる口腔機能(筋力)は維持しておく」ことは大事だと考えています。
何もしないでいると衰退していく一方。いざというときに使える筋力を維持するためには、何かしらの練習は定期的に必要なんですよね。
できれば、ユウ自身が練習の必要性を理解してくれればいいのですが。日常生活でほとんどメリットを感じられていないのに、「いつかの将来のために」といっても難しいのは当然です。
正しく発音できたときのメリットを、日ごろからもっと還元してやることが課題なのでしょう。ほんとうは社会的なコミュニケーションの場でメリットを感じられるのが一番ですが、学校や福祉施設にその協力を仰ぐのは非常に難しく、家庭で担っていかなければいけません。
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