ハロー!プロジェクトの12人組グループ、BEYOOOOONDS(ビヨーンズ)。
そのエンターテインメント性の高さは、いったいどうやって生まれたのか。
前回はCDジャケットやツアーロゴなど、デザイン面で大きく貢献している北野篤さんチームについて取り上げた。
今回注目したいのは、BEYOOOOONDS楽曲の振付を手掛けるコレオグラファー(振付師)だ。
パフォーマンスに欠かせない要素である割には、振付師の名前は意外と表に出ることが少ない。
だが、その存在はBEYOOOOONDSショーに間違いなく大きな影響をもたらしている。
この記事では、グループの基盤となったデビュー時の振付師・熊谷拓明さんと、
現在の振付師・原さち穂さんの振付の魅力に、いちファンとして迫っていこうと思う。
【デビュー時を支えた振付師・熊谷拓明さん】
熊谷拓明さんはシルク・ドゥ・ソレイユのメンバーという経験を経て、現在は「ダンス劇作家」という職業のもと活躍しているアーティストだ。
いや、アーティストというありふれた肩書きよりも、「ダンス劇作家」とそのまま彼の言葉を借りるだけに留めたほうがいいだろう。
ダンサーという言葉にも違和感が出るのは、彼の発する言葉を聴いてきたからかもしれない。
YouTube:踊る『熊谷拓明』チャンネル
さて、BEYOOOOONDSのデビュー曲はトリプルA面シングルであったが、
この3曲ともを熊谷氏が振付担当している。
『眼鏡の男の子』『ニッポンノD・N・A!』『Go Waist』
ちょっと個性的なグループだけあって、振付も歌詞に沿ったユニークなダンス。
楽曲の世界観をグッと立体的なものにしている。
BEYOOOOONDSの基盤となったユニークな振付
たとえば、デビュー曲『眼鏡の男の子』ではメガネを表す振付が印象的だが、
男の子がコンタクトに替えたらコンタクトを入れる振付になるという徹底ぶりだ。
「やさしい顔した…」という歌詞の最初は「や」を表す振付、「ガラスのベールの…」という歌詞では「ガ」を表す振付からはじまるという小ネタも。(メンバー(清野桃々姫)のブログより)
こういうユニークさは、後述する原さち穂さんも受け継いでいるように思うが、
私がいいなあと感じる熊谷拓明さんならではの特徴は、やわらかさがあることだ。
サビはキャッチーで真似しやすい一方で、ところどころ予測不可能なやわらかさがある。
たとえば『眼鏡の男の子』の間奏で講釈師役の清野が感電するようなところ。
「よく最年少の彼女にあんなのを任せたな!」とびっくりするくらい、演者への信頼をうかがえる。
(メンバーの清野と熊谷拓明氏の振付はそうとう相性がいいように思うのだが、それについては後述したい。)
メンバーへの信頼感というと、『ニッポンノD・N・A!』の間奏部分の振付も相当濃い。
反るわ震えるわ、アイドルがステージでやるダンスにしては規格外すぎる。
デビュー曲で、ここまで本格的なものをもらうというのは、メンバーへの期待値が高い証拠だと思う。
『ニッポンノD・N・A!』には「この印籠が目に入らぬか~」的な動きや、DNAのらせん状の形をイメージしたポーズもあるなど、遊び心満載だ。
公式チャンネルが振り入れの映像を残してくれているので貼っておこう。
(見どころの間奏ダンスは21:05~)
コンテンポラリー要素を多く含む”雨ノ森川海”の振付
さてBEYOOOOONDS内には3つのユニットがある。
その1つ”雨ノ森川海(あめのもりかわうみ)”の楽曲も、デビューからしばらくは熊谷拓明氏が担当していた。
雨ノ森川海の楽曲は少々エキセントリックで、多数派に組み込まれない女子の葛藤を描いたものが多い。
ダンスもコンテンポラリー要素が濃く、ニュアンスで見え方が左右されるという高度なものになっている。
正確に踊るための振付というよりも、自分なりの解釈や情感をのせて踊れる振付になっているように思う。
ただ、そういうものって案外難しい。
「正解」にふり幅があるほど、どうしていいのかわからなくなったりするからだ。
個人的には、熊谷氏のニュアンスを見事に汲み、自分の内側から出るものを乗せて踊っている最年少メンバー・清野桃々姫の表現が素晴らしいと思っている。
雨ノ森川海の振付では、どのメンバーも「こんな表情するんだ」という新しい発見があるが、見せかけのカタチを手放して入り込むという点で、清野が頭1つ分飛びぬけているように思う。
熊谷氏の振付×清野の表現はとても相性がいいと思うので、熊谷氏がBEYOOOOONDSの振付から退いたのはとても残念だ。
(楽曲じゃなくても、演劇女子部(舞台)として一度BEYOOOOONDSによる『ダンス劇』をプロデュースしてくれないかなあ。熊谷さん。何らかの形でまだまだ関わってほしい。)
【現在のBEYOOOOONDSを支える振付師・原さち穂さん】
現在のBEYOOOOONDSを支えているメインの振付師は、原さち穂さんである。
1stアルバム内の数曲からはじまり、2ndシングル以降はほとんどが原氏の振付になっている。
2ndシングルのうち、『Now Now Ningen』『激辛LOVE』の2曲が原氏によるもので、
どちらも1stシングルの趣向を受け継いだユニークな振付が特徴だろう。
ただ、原氏の振付が本格的に生きてくるのはこの後からだ。
BEYOOOOONDSの進化とともに振付も進化していく、それが彼女の振付の魅力だと思っている。
BEYOOOOONDSが経験を重ねるにつれて得たもの、それは「個々の強み(キャラクター性)」と「団結力」だ。
原氏の振付は、それらを見事に反映している。
メンバーを「構成員」に見立てた振付
近年のBEYOOOOONDSのダンスでは、フォーメーションがより複雑化している。
ダンス用語でフォーメーションというと、単なる体系移動のような使われ方をすることもあるが、
この場合は本来の使い方である、
というのがしっくり来るだろう。
なんとなく広がってなんとなく集まって…ではなく、メンバー1人1人が必ずその位置にいる目的があってそこにいる。
というフォーメーションの組み方をされているのだ。
ある要素の構成員だったメンバーが移動して今度は別のものの構成員になっている、というように、
万華鏡のように次々と全体で形を変えていく。
特に3rdシングルのうち、『英雄~笑って!ショパン先輩~』のダンスショットはこの傾向が色濃く、
原氏の手腕がしっかりと伝わるだろう。
そのほか、『フレフレ・エブリデイ』、4thシングル『夢さえ描けない夜空には』なども、
メンバーを妖精のように(もしくは小さなもののように)見せる振付になっており、
原氏が12人分のフォーメーションを俯瞰で捉え、構成していっていることがわかる。
(現在はどうなのかわからないが、以前、原氏のSNSで粒ガムに名前を書いてフォーメーションを組んでいる様子がアップされたことがあった。)
メンバーの強みを生かす振付
フォーメーションだけだと無機質になってしまいそうなほど理論的に組まれている原氏の振付だが、
ダンスそのもののユニークさと、個々のキャラクターを生かすシーンとの融合で、
全体として完成度の高い、新しいアイドルダンスに仕上がっている。
12人もいると歌割がコロコロ交代するが、その一瞬がメンバーの見せ場になっているなど、
活動の中で培われてきた「らしさ」が存分に発揮できるダンスになっている。
さらに、楽曲で明らかにフォーカスされているメンバーが決まっている場合は
(江口紗耶が大臣役をつとめる『GOGO大臣』、清野桃々姫がAI役をつとめる『Hey!ビヨンダ』)
ダンスにおいても役どころをしっかり引き立て、楽曲の世界観をさらに色濃くしている。
オールジャンルに対応する引き出しの豊富さ
原氏の振付を見ていてすごいなあと思うのが、どの曲も似通っていないということだ。
それぞれコンセプトがはっきりしていて、どれも差別化されている。
その背景に、彼女の持つ引き出しの豊富さが垣間見える。
基本的にはパキパキとしたパズルのようなダンスが多く、BEYOOOOONDSのコミカルさを底上げしているし、
(はっきりとしたダンスを得意とする西田汐里、山﨑夢羽、平井美葉らと相性がいいように思う。)
ユニット「SeasoningS」の振付はストーリーに沿ったミュージカル調になる。
「雨ノ森川海」では、熊谷氏から引き継いだコンテンポラリー色が維持されている。
『夢さえ描けない夜空には』の冒頭、『オンリーロンリー』の間奏ではクラシックバレエ出身の平井美葉によるバレエ的な振付もある。
2022年秋ツアーでは宝塚のようなステージダンス、
2023年の春ツアーではメンバー全員でのHIP-HOP、クラシックバレエの構成もあった。
豊富な引き出しがあるからこそ楽曲ごとに異なる世界観を作り上げられるし、
メンバーとの仲も深まったからこそ個性や強みを生かした振付を提示できるんだろう。
BEYOOOOONDSの進化とともに、これからも原さち穂さんの振付が進化していくのは間違いない。楽しみ。
【ほかにもユニークな振付師が】
ほかにも、2ndシングルの『こんなハズジャナカッター!』はお笑い芸人の芋洗坂係長が、
ライブで盛り上がるアルバム曲『虎視タンタ・ターン』はバブリーダンスで知られるakane氏が振付を手掛けていたり、
3rdシングル『ハムカツ黙示録』は振付屋かぶきもんのみつばちまき氏によるものだ。
★BEYOOOOONDSのダンスを観るならこれ!★
最後に、BEYOOOOONDSの振付を定点の引き映像で観られるおすすめコンテンツを紹介したい。
①BEYOOOOOND1St (初回生産限定盤A) (アルバム)
付属のBDに、1stシングルと『アツイ!』のダンスショットバージョンが収録。
②BEYOOOOO2NDS (初回生産限定盤) (アルバム)
付属のBDに、2ndシングル・3rdシングルのダンスショットバージョンが収録。
ユニット曲(最新曲以外)はダンスプラクティスビデオが収録されている。
(akane氏による振付の『虎視タンタ・ターン』は定点・引きではないが、ダンスが楽しめる)
③「求めよ…運命の旅人算」Stage Practice Ver.(Youtube)
最新4thシングルより、『求めよ…運命の旅人算』を歌って踊る定点映像。
④「夢さえ描けない夜空には」Stage Practice Ver. (Youtube)
最新4thシングルより、『夢さえ描けない夜空には』を歌って踊る定点映像。
⑤BEYOOOOONDS結成記念日特別配信!【10月19日】(Youtube)36:44~
1stアルバムより、各ユニット曲『都営大江戸線の六本木駅で抱きしめて』『GIRL ZONE』『We need a Name!』のダンス映像。